骨ルポ
ASBMR 2024 レポート
前村 美希(昭和大学歯学研究科顎顔面口腔外科)
2024年9月27日~30日にカナダのトロントにて開催された2024ASBMR Annual Meetingで運動器疾患における超硫黄分子の役割について、ポスター発表を行い、また、数多くの演題から最新の骨代謝研究を学んできました。
私は、超硫黄分子の研究として、超硫黄代謝が担う、変形性膝関節症と骨折の治癒過程における役割の研究を行っているので、骨折治癒とそれに関連する老化因子についての演題を紹介します。
ご指導頂いている矢野先生、同じ研究グループのメンバーと東京大学口腔外科の小笠原先生と会場前で撮影した一枚
紹介演題 [1]
Cbfβ in MAT Benefits Bone Regeneration via Rejuvenating the Skeletal Stem Cell Pool Mengrui Wu,Tiannan Huang, Zhejiang University, China
キーワード
骨髄脂肪組織(MAT),Cbfβ, 骨格幹細胞(SSC)
研究グループ
Mengrui Wu
- Tiannan Huang, Zhejiang University, China
サマリー&コメント
骨髄脂肪組織(MAT)が増加する加齢や糖尿病では、骨格幹細胞(SSC)プールの枯渇が骨折治癒の妨げとなるが、Cbfβがこれをどのように調節するかは不明であった。脂肪細胞特異的にCbfβを欠損させたマウスモデル(CAマウス)では、MATおよび骨量が増加する一方で、骨リモデリングが大きく遅延し、SSC数の減少が確認された。
さらに脛骨の穿孔モデルおよび大腿骨の骨折モデルでは、CAマウスでは骨折治癒がほぼ停止した。CAマウスの骨組織および培養した脂肪細胞陽性細胞とSSCでは、老化マーカー遺伝子の発現上昇を伴う細胞老化が大幅に増加していた。また、セノリティック薬を使用すると、SSC数と骨治癒が回復したことから、MAT老化がSSC老化を引き起こしていることが示唆された。更にCbfβ欠損細胞では、DNA損傷マーカーであるγ-H2A.Xフォーカスが増加し、ゲノム不安定性が確認された。一方で、レンチウイルスを用いたCbfβの過剰発現は糖尿病モデルの骨折治癒を改善した。
以上の結果から、CbfβがMAT内での抗老化効果を通じてSSCプールを若返らせ、骨形成を促進することが明らかとなった。Cbfβを標的とする治療法は、骨折治癒率の向上に有効な戦略となる可能性があると、演者らは結論づけている。
紹介演題 [2]
p21+ osteochondroprogenitors and neutrophils expressing features of senescence impair fracture repair
キーワード
p21, p16, 骨折治癒
研究グループ
Dominik Saul, Madison L. Doolittle, Jennifer Rowsey, Mitchell Froemming, David G. Monroe, PhD, Joshua Nicholas Farr and Sundeep Khosla, MD
- Mayo Clinic, USA
サマリー&コメント
細胞老化はCdkn2a (p16) またはCdkn1a (p21) の発現上昇を特徴とし、加齢に関連する多くの疾患の要因となっている。最近の研究では、治癒過程における老化細胞の一時的な出現と、それらの除去による治癒促進効果が示されている。
マウスの骨折治癒過程をマスサイトメトリー(Mass Cytometry)としても知られているCyTOFで解析したところ、炎症性p21+細胞は好中球と軟骨骨形成前駆細胞(osteochondroprogenitors, OCH)で構成されていることがわかった。この骨折部の治癒組織に出現するp21+好中球は、パラクライン老化を誘導し、p21+ OCH細胞は骨形成を阻害するSASP因子(老化関連分泌表現型)を上昇させていた。p21+細胞を除去すると、OCHのSASP因子が抑制され、破骨細胞の減少と骨形成の促進により骨折治癒が加速した。しかし、この有害な役割は急性損傷に限定されており、加齢による骨量減少には影響を及ぼさなかった。一方、p16+細胞は骨折治癒後期に出現し、加齢による骨量減少を緩和することが確認されているが、骨折治癒への影響は最小限であった。
更に、p21を発現するニュートロフィルとOCHは、骨折治癒を妨げる炎症性因子を分泌し、特にTHBS1-Cd47シグナルを介して周囲の細胞にパラクリン老化を誘導する。このメカニズムは骨だけでなく筋肉損傷後にも観察され、ニュートロフィルが多組織にわたる間葉系細胞の老化を引き起こす可能性がある。一方で、p21+細胞は加齢による骨量減少には関与せず、p16+細胞がその主要な要因であることが示唆されている。
本演題では、p21+細胞が急性骨折治癒を妨げる一方で、加齢性骨量減少は主にp16+細胞によって調節されることが示された。今後は、加齢骨組織の骨折時におけるp21+とp16+の発現の違いに関する更なる報告が期待される。
トロントの街のシンボルである、会場の真横に聳え立つCNタワーからのサンセット