骨ルポ
ASBMR 2024 レポート
椿 俊哉(東京大学大学院医学研究科外科学専攻整形外科学)
受賞式の写真。受賞できたことを大変光栄に思うとともに、日頃研究でご指導いただいている先生方に改めて感謝申し上げます。
紹介演題 [1]
A novel binary Cre system for osteoclast ″specific″ gene manipulation
キーワード
破骨細胞、Creシステム
研究グループ
Yasuhito Yahara
- Department of Immunology and Cell Biology, Graduate School of Medicine and Frontier Biosciences, Osaka University, Japan
サマリー&コメント
破骨細胞の機能を制御する分子メカニズムの解明とそれを標的とした治療の開発には、破骨細胞を特異的に操作できる遺伝子操作が不可欠である。これまでの研究では、破骨細胞前駆細胞を標的とするLysM Cre、Cd11b Creや、成熟破骨細胞を標的とするRank Cre、Ctsk Creが遺伝子改変に広く用いられてきたが、これらの遺伝子の発現は破骨細胞に特異的とは言い難かった。紹介演題は新規binary Creシステムを用いて破骨細胞特異的にCreリコンビナーゼを発現するマウス系統の開発を試みるというものであった。具体的には、Acp5およびCtsk遺伝子座にCre遺伝子のC末端、N末端をそれぞれコードするコンストラクトをノックインしていた。このbinary Creシステムでは、Acp5およびCtsk遺伝子を共発現する細胞においてのみ機能的なCreリコンビナーゼが活性化される。システム検証では、Acp5 cCre/+; Ctsk nCre/+; Rosa26 tdTomato/+マウスと従来の系統を比較していた。組織学的解析から、Acp5 cCre/+; Ctsk nCre/+; Rosa26 tdTomatoマウスの長管骨でtdTomatoが破骨細胞に特異的に検出され、他の非特異的な蛍光が検出されていなかった。その他の臓器においても非特異的な蛍光の検出はなかった。
これらの結果は破骨細胞特異的Creマウス系統を樹立したということだけでなく、binary Creシステムを用いることで、単一のマーカー遺伝子だけで特定が難しい他の細胞種に応用することができ、大変有用なものであると考えられる。自身の経験として、single cell RNA-seqの結果からgene Aとgene Bを組み合わせることができれば、注目する細胞集団に対して特異度高く操作することができると考えたことがあり、大変参考になった。
紹介演題 [2]
YAP and TAZ mediate mechanical load-induced bone adaptation
キーワード
機械的刺激、骨形成、YAP/TAZ
研究グループ
Yasaman Moharrer
- University of Pennsylvania, USA
サマリー&コメント
YAPとTAZを欠失させた骨細胞では、骨構造および骨小腔・骨小管ネットワークに変化が生じることが報告されている。近年、骨が機械的刺激に応答することや、そのメカニズムにおけるYAP/TAZの役割は報告されつつある。本研究グループは機械的刺激の応答中のYAP/TAZの役割を研究するグループの1つのようである。阻害剤として、YAP/TAZの共活性化を阻害するVerteporfin (VP)と、YAP/TAZとTEADとの結合を防ぐMGH-CP1 (CP1)を用いて、薬理的な阻害を選択していた。阻害剤の投与と同時に、各マウスの片側脛骨に4 Hzの周期的な圧縮負荷を実施しているようである。評価項目はµCTでの骨パラメーター計測とdynamic fluorochrome labelingであった。圧縮負荷はDMSO群で脛骨皮質骨の厚みを増加させる一方で、VPまたはCP1処置はこの効果を抑制していた。また海綿骨の計測では、負荷とYAP/TAZ阻害のいずれも有意な変化を引き起こしていなかった。負荷はperiosteal bone formationを促進したが、VPまたはCP1処置はMS/BS、MAR、BFR/BSを抑制しなかったようである。さらにendosteumでは、VPまたはCP1処置で負荷による骨形成の有意な抑制効果を示していた。
本研究では、薬理的手段によって機械的負荷に対するYAP/TAZの役割を検証していた。皮質骨において、機械的刺激に対する骨形成促進とYAP/TAZの阻害による骨形成促進効果のキャンセルという部分では想像の通りであった。一方で、periosteal boneとendosteumで応答や阻害剤の効果に差異があることが興味深い点であった。近年空間トランスクリプトームが誕生し、位置情報を残したままの遺伝子発現解析が発展しつつある。骨領域の技術的な難しさや、細胞種特異的なマーカーの難しさなどの課題はあるが、今後の研究の展開を期待したい内容である。
トロント中心地の会場にも関わらず、裏手に野生のリスがいました。自然との距離が近い都市でした。