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ASBMR 2024 レポート
澁坂 和大(昭和大学大学院 歯学研究科 矯正歯科学)

カナダのトロントで2024年9月26日―30日に開催されたASBMR 2024 Annual Meetingに参加しました。国際学会での発表が初めてでしたが、大変光栄なことに、Young Investigator Awardを受賞することが出来ました。顎関節症は罹患患者数が多いにも関わらず、根本的な分子病態メカニズムが解明されていない研究分野であり、私はその病態メカニズムをマウスモデルを用いて解析しました。ASBMRにおいても、顎関節に焦点を当てた研究は少ないことから、基礎研究からのアプローチとトランスレーショナルリサーチが必要であると実感しました。

紹介演題 [1]
Resident progenitor cell niche functions in regulation of TMJ disc homeostasis and extracellular matrix secretion

キーワード

顎関節、壁細胞、空間トランスクリプトミクス

研究グループ

Haohan Li

  • Sichuan University, China
サマリー&コメント

本研究は、顎関節(TMJ)の維持と損傷修復における壁細胞(MC)の役割を明らかにすることを目的とし、scRNA-Seq、空間トランスクリプトミクス、プロテオミクスなどを用いてマウスとヒトの顎関節円板構成細胞を分析し、MCの分布を免疫蛍光染色とin situハイブリダイゼーション染色で確認していた。in vitro実験でMCの幹細胞特性を確認し、Myh11-CreERT2+/-; Rosa-TdTomato+ MCsマウスモデルを用いてMCの機能とMC陽性細胞の発現部位を調査した結果、MCは出生後の全ての段階で存在し、主に関節円板と前後円板付着部に分布することがわかった。MCは多分化能を持ち、損傷時には損傷部位に移動し線維芽細胞に分化していた。さらに、MCのニッチに由来するCOL5A1+線維芽細胞が細胞外マトリックス(ECM)リモデリングに関与し、インテグリンシグナル活性化が重要であることが示された。結論として、MCは顎関節の損傷修復に関与し、ECMの恒常性を調節する役割があることが示唆された。

血管の栄養がないとされる関節円板のMCの役割に焦点を当て、多様なマルチオミクス技術を駆使し、動物モデルとヒトの両方を含むMCの分布、特性、機能について包括的に解明していた。関節円板の栄養供給源とされる滑液との関連性や、本研究で述べられている前後円板付着部と、我々が注目している顎関節滑膜の関連性が不明ではあるものの、非常に興味深い内容であった。

紹介演題 [2]
New Genetic Mouse Models for Temporomandibular Joint Homeostasis with Mechano-environment

キーワード

顎関節、Evc2、機械的ストレス

研究グループ

Rafael Correia Cavalcante and Yuji Mishina

  • University of Michigan
サマリー&コメント

顎関節(TMJ)は、人体で最も頻繁に使用される関節で、顎関節症(TMD)と呼ばれる障害を受ける。TMDの病因と関節の再生能力を理解するために、顎関節の発生と恒常性維持の過程でヘッジホッグ(HH)シグナル伝達に関与する繊毛タンパク質LIMBIN/EVC2の機能を調査した。Ellis-van Creveld症候群の原因遺伝子の一つであるEvc2の神経堤特異的破壊マウス(Evc2; Wnt1Cre, Evc2-cKO)を作製し、通常の餌(HD)または粉末餌(SD)を与え、顎関節構成成分の形態を系譜追跡と組み合わせたmicroCTおよび組織で評価し、関節の運動力学への影響を機能実験で調べた。Evc2-cKOマウスは下顎頭後方と関節円板の退行性変形が見られ、HDを与えたマウスではヒトの顎関節症に似た欠陥が見られた。HDを与えた変異マウスでは顎の運動が減少し、痛みが増大したが、SDを2週間追加したところ、異常が急速に回復した。この急速な回復は、顎関節に高い細胞ターンオーバーがあり、機械的ストレスに反応しやすい幹細胞集団が存在することを示唆している。HH応答性細胞はtd-Tomato Cre-reporterとGli1-Creで遺伝的に標識され、下顎頭/関節円板付着部(enthesis)に位置し、H2B-GFPでゆっくりと細胞周期を繰り返す細胞が顎関節のenthesisに存在することが確認された。結論としてGli1陽性細胞が顎関節の恒常性維持に重要であり、その機能は成長因子と機械受容体の両方によって制御される可能性がある。さらに、Evc2機能の喪失が機械的負荷に対する反応を変化させることを示唆した。

顎関節症には機械的ストレスが一つの発症要因と考えられている。下顎頭を退行性変化に導くある一定のボーダーラインが、下顎頭と関節円板の細胞には存在していることを示唆している大変興味深い研究であった。また、この研究が着目しているEnthesisと同部位には滑膜が偏在していることからも、機械的ストレスには滑膜が重要な働きを担っているのではないかと改めて感じた。


Award selebrationにて(右)ASBMR PresidentのDr. Laura Calvi


学会期間中、自分の研究をサポートしてくださっている先生方とお食事会を開催することができ、貴重な時間となりました。