骨ルポ
ASBMR 2024 レポート
藤田 進世(東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター臨床医工学部門)
2024 ASBMR MOST OUTSTANDING BASIC ABSTRACT AWARDを頂戴しました。
Young Investigator Awardと違いASBMR公式ウェブサイトに掲載されていないので、こちらの写真を証拠とさせてください。
紹介演題 [1]
A Novel Splice Variant of Proteoglycan 4 Plays Crucial Autocrine and Paracrine Roles During Bone Regeneration
キーワード
Prg4, 骨再生, Alternative splicing
研究グループ
Mohamed Tantawy, Deepak Kumar Khajuria, Fadia Kamal and Reyad Elbarbary
- Department of Orthopaedics and Rehabilitation, The Pennsylvania State University College of Medicine, USA
サマリー&コメント
同一遺伝子からエクソンを様々な組み合わせでつなぎ、多様なmRNAを生み出すプロセスをalternative splicing(以下AS)と呼ぶ。ASは厳密に制御されているが、骨折治癒の文脈ではASの研究は不十分であった。筆者らはマウスの骨折モデルで様々な治癒段階の仮骨をbulk RNA-seqで分析し、Proteoglycan 4(以下Prg4)の新たなsplicing variantを見つけ出した。PRG4は関節軟骨の潤滑作用でよく知られているが、骨折治癒での発現様式や生理的機能は調べられていない。筆者らは以下の特徴を見つけ出した。
- 炎症期における仮骨のPrg4の発現は、同時期の骨折していない骨よりも約120倍高い。
- scRNA-seqやflow cytometry等でPrg4の発現は仮骨の前駆細胞に集中していた。
- Prg4新規ASバリアントはmucin-like domainを欠損していた。
- 仮骨でPrg4をknock downすると仮骨形成が著しく低下した。
- 同knock downでは免疫反応が不完全になり免疫系へのparacrine作用を持つと推測した。Prg4新規ASバリアントのより詳細な機能は現在調査中とのことであった。
scRNA-seqはパワフルであるが大半の研究では3’末端解析のみがなされるため、転写産物のバリアント情報は欠落している。筆者らはbulk RNA-seqで予めsplicing variantを検出することでこの問題点を解決している。パワフルなツールであっても、制約があることに常に留意しなければならないと痛感した演題だった。
紹介演題 [2]
Estrogen Promotes Bone Formation Through Upregulation of Osteolectin Expression in LepR+ Cells
キーワード
閉経後骨粗鬆症、LepR陽性骨髄間質細胞、オステオレクチン
研究グループ
Jiaming Guo*, Min Yang and Bo Shen
- National Institute of Biological Sciences, Beijing., China
サマリー&コメント
閉経後骨粗鬆症の原因はエストロゲンの欠乏により破骨細胞による骨吸収が亢進することだとしばしば言われている。レプチン受容体(LepR)陽性骨髄間質細胞は成体骨髄において骨芽細胞の供給源となることが報告されており、Tet-on LepR-Creを用いて同細胞の系譜を追跡できる。
筆者らは閉経後骨粗鬆症の研究をするなかで、内因性エストロゲンであるエストラジオールによりLepR陽性細胞からの骨芽細胞の形成が強化されることを発見した。
生後2カ月のマウスでLepR陽性骨髄間質細胞のEstrogen Receptor 1 (Esr1)をKOしたところ、特にメスマウスで骨粗鬆症の発症が早くなった。LepR陽性骨髄間質細胞のRNA-seq解析では骨成長因子であるOsteolectinの発現量が変化していた。実際にOsteolectinのエンハンサー配列の活性をluciferase assayで評価したところ、ESR motifを削除することで活性が低下した。
また、筆者らはOVXマウスに組み換えOsteolectinを投与することで、骨形成が促進され骨粗鬆症がレスキューされることを示し、閉経後骨粗鬆症の新たな治療ターゲットになりうると考えた。
筆頭演者はYoung Investigator Awardを受賞した。LepR陽性細胞やOsteolectinはここ10年内で別々に注目を浴びるようになったトピックであり、その関連をエストロゲンという軸で解き明かしたのは同賞に値すると考える。ここ10年で認知されたLepR陽性細胞は、以前からよくしられていた破骨細胞や骨細胞と違ってこれまでの骨代謝研究でエストロゲンとの関連が注目されづらかったのだと思われる。破骨細胞で発現しているエストロゲンレセプターはESR1であり、骨粗鬆症の治療で用いられるSelective Estrogen Receptor ModulatorがLepR陽性細胞にも効果を持つか気になることころである。
学会会場から徒歩圏内にあるトロント大学を訪ねました。キャンパスだけでなく病院施設も母校より遙かに広く数も多く世界大学ランキングの高さも納得でした。