日本骨代謝学会

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ASBMR 2024 レポート
池戸 葵(愛媛大学 プロテオサイエンスセンター 病態生理解析部門)

紹介演題 [1]
An Adipo-Osteo Progenitor Contributes to Bone and Marrow Fat Formation in Adult Mice

キーワード

Cxcl12-abundant reticular (CAR) 細胞、Adipoq+細胞、Osx+細胞

研究グループ

Xueyang Liao et al.

  • The Children's Hospital of Philadelphia
サマリー&コメント

Cxcl12-abundant reticular (CAR) cellsは成体マウスの骨芽細胞と骨髄脂肪細胞の両方の主要な供給源であることが示されている。しかし、最近のscRNA-seqの結果からCAR細胞 (Cxcl12+Lepr+ BMSC) はかなりヘテロな集団であることが明らかとなった。また、その大部分は脂肪細胞マーカーを発現しており、marrow adipogenic lineage precursors (MALP)とも呼ばれている。さらに、骨髄内において骨形成型CAR細胞と脂肪形成型CAR細胞では異なるニッチを形成していることも報告されている。本研究では、骨芽細胞前駆細胞、脂肪細胞前駆細胞、または両者の前駆細胞を区別するために、8-20週齢のマウスを用いてシングルセルRNA-seqを行った。その結果、著者らは、AdipoqとOsxを共発現するCxcl12+Lepr+ BMSCの小さなサブセットを発見した。この細胞は、以前に報告されたOsteo-CARと分子的特徴が類似しており、Trajectory analysesから骨芽細胞とMALPの共通の前駆細胞であることが予測された。また若いマウスにおけるAdipoq+Osx+ 細胞数はオスよりメスの方が多いものの、加齢により両性で減少した。Adipoq-CreERT2及びOsx-CreERT2レポーターマウスを用いた系譜追跡では、Osx+Adipoq+細胞が、追跡1ヵ月後には骨幹部および骨内膜の骨芽細胞の60~80%に寄与し、Osx+細胞は5ヵ月後には30%の脂肪細胞が標識され、卵巣摘出を行うと脂肪形成速度が著しく加速された。さらにAdipoq-Creを用いたOsxの遺伝的欠失は、骨形成率の有意な低下により、雌雄ともに海綿骨量が有意に減少した。以上のことから、生理的及び病的なシグナルに応答してAdipoq+Osx+ cellsは骨芽細胞及び脂肪細胞のどちらの形成にも寄与できるadipo-osteo progenitorsあることが示された。

近年、骨髄中の様々な細胞集団のそれぞれの異なる性質が報告されており、骨髄の複雑な制御機構が大変興味深い。これらの細胞の制御機構や病態における変化や役割について、今後の研究の発展が期待される。

紹介演題 [2]
Adipocyte lineage cells from a hematopoietic stem cell supportive niche in adult bone marrow

キーワード

造血幹細胞・前駆細胞、骨髄脂肪細胞、骨髄ニッチ

研究グループ

Michael Duffy et al.

  • University of Pennsylvania
サマリー&コメント

骨髄 (BM) は主に間葉系と造血系の細胞でできており、血液を産生する。間葉系細胞が造血のニッチサポートを提供することはよく知られているが、加齢に伴う変化については不明な点が多い。そこで、著者らは、12人 (年齢52-74歳) の人工股関節全置換術後に得られた大腿骨頭BMから、CD45-非造血細胞とCD34+造血幹細胞・前駆細胞 (HSPC) を単離し、シングルセルRNA-seqを行い、造血細胞、間葉系細胞、内皮細胞、平滑筋細胞に分類される造血細胞と非造血細胞をプロファイリングした。非造血細胞を詳細に解析すると、脂肪前駆THY1+とAdipo-MSCsはHSPC支持因子を高度に発現し、HSPCを制御するCXCL12とKITLを最も多く産生し、リンパ球造血を再生させるIL7を特異的に発現することが明らかになった。主要な造血サイトカインであるCsf1はAdipo-MSCsで発現し、リンパ球造血にも重要なNotchリガンドは主に細動脈の内皮細胞で産生された。間葉系細胞とHSPCの相互作用をさらに調べるために、4つの間葉系細胞集団 (Fibro-、Thy1+-、Osteo-、Adipo-MSCs) を単離し、CD34+ヒトBM HSPCと共培養を行った。Fibro-MSCsが最も原始的な間葉系細胞であったのに対し、THY1+、Adipo、Osteo-MSCsだけが培養中のHSPCsを有意に維持することができた。また、これらの高齢者サンプルでは、最も原始的なHSPCは骨や血管系ではなく、脂肪細胞の近くに優先的に局在することが示された。以上のことから研究では、成人ヒトBMの包括的な細胞アトラスを提示し、原始的間葉系集団としてFibro-MSCsを同定し、HSPCsを支持する脂肪前駆体と脂肪細胞の重要性を明らかにした。

本演題は、特に高齢サンプルを用いた実験だったが、若年者の骨髄の実験が進めば、HSPC制御における加齢に伴う変化について、より詳細な機構が明らかになるだろう。また、本学会全体を通して、骨髄脂肪に関連する演題が多く見られた。骨髄恒常性維持機構における骨髄脂肪細胞の役割について、今後の研究が楽しみである。

カナダは初めて行きましたが、アメリカとはまた雰囲気が異なり、食事とビールも美味しかったです。また、夜に見たCNタワーのライトアップも綺麗でした。