日本骨代謝学会

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ECTS 2024 Congressレポート
山下 英里華(大阪大学大学院 生命機能研究科 ・医学系研究科 免疫細胞生物学教室)

紹介演題[1]
Lysosomal enzymes in mature osteoblasts and osteocytes limit collagen width and mineral accrual in bone tissue

研究グループ

Martha Blank1, Blessing Crimeen-Irwin1, Cameron J Nowell2, T John Martin1,3, Laura E Edgington- Mitchell4, Natalie A Sims1,3

  1. St. Vincent's Institute of Medical Research, Bone Biology and Disease Unit, Melbourne, Australia
  2. Drug Discovery Biology Theme, Monash Institute of Pharmaceutical Sciences, Melbourne, Australia
  3. St. Vincent’s Hospital, Department of Medicine- The University of Melbourne, Melbourne, Australia
  4. Bio21 Molecular Science and Biotechnology Institute, Department of Biochemistry and Molecular Biology- The University of Melbourne, Melbourne, Australia
キーワード

リソソーム、骨細胞

演題サマリー

リソソームは細胞質内容物を分解し、特に破骨細胞においてはコラーゲンとミネラルの分解を媒介するが、骨芽細胞系譜におけるリソソームの機能は不明である。発表者らは、骨芽細胞と骨細胞の EphrinB2 がシステインプロテアーゼなどのリソソーム酵素を生成することで、骨のコラーゲンとミネラルの凝集を制限する結果を示した。具体的には、リソソーム含有量の低いエフリンB2(Efnb2)を骨細胞と骨芽細胞で欠損したマウス(Dmp1 Cre; Efnb2fl/fl)を用い、Efnb2欠損骨細胞においてリソソーム関連膜タンパク質1(LAMP1)の発現率が低くなること、Efnb2欠損骨のコラーゲン繊維の繊維幅が有意に広くなることを示した。さらにEfnb2欠損骨細胞様細胞ではリソソーム活性が低いこと、リソソーム活性阻害剤によってミネラル蓄積が増加することが確認された。生体内外での検討から、骨芽細胞系譜におけるリソソーム生成と活性の欠陥により、過剰なミネラルとコラーゲン蓄積が起こり、骨質と骨の強度が損なわれる可能性があることが示唆された。

コメント

骨芽細胞系譜におけるリソソームの新しい役割を提示し、骨質劣化のメカニズムに関する理解を深める興味深い発表であった。さらにEphrinB2 がリソソーム酵素生成を制御する具体的なシグナル伝達経路が解明されれば、骨粗鬆症や骨形成不全症のような骨疾患の新しい治療法の発見につながると期待される。

紹介演題[2]
Spatial transcriptomics reveal distinct gene expression patterns in non-union and union bone fractures in mice

研究グループ

Maria Schröder1, Nico Giger1, Jan Barcik2, Lena Gens3, Daniel Arens3, Dominic Gehweiler2, Peter Varga2, Stephan Zeiter3, Martin Stoddart1, Esther Wehrle1

  1. AO Research Institute Davos, Regenerative Orthopaedics, Davos Platz, Switzerland
  2. AO Research Institute Davos, Biomedical Development, Davos Platz, Switzerland
  3. AO Research Institute Davos, Preclinical Services, Davos Platz, Switzerland
キーワード

空間トランスクリプトーム解析、骨折

演題サマリー

非癒合骨折は骨折後に通常の回復期間を過ぎても骨が完全に結合しない状態を指し、完全な治癒が困難であり、その分子基盤や細胞動態の詳細は未解明の部分が多く残されている。骨折治癒中の生物学的変化を捉えるべく、発表者らは空間トランスクリプトミクス技術と機械的に制御された前臨床動物モデルを組み合わせることで、非癒合骨折と癒合骨折における筋骨格系の遺伝子発現パターンを特徴付けた。マウス大腿骨に骨切り術または外部固定器具で固定した分節欠損を施した後、組織学的な解析とVisiumを用いた空間トランスクリプトーム解析を行った。その結果、癒合群(骨切り)では仮骨形成領域でDmp1やAcp5などの軟骨内骨化、石灰化、リモデリングに関与する遺伝子の強い発現が見られた。一方、非癒合群(分節欠損)では欠損領域に骨髄脂肪細胞が多く隣接し、癒合群で仮骨形成領域に隣接していた細胞集団の局在が移動していることが明らかとなった。さらに、空間トランスクリプトミクスによって非癒合骨折の欠損領域で発現するマーカーにPostn、Fstl1、Sfrp2、欠損領域に隣接する骨髄細胞で発現するマーカーにScd1を同定した。結果、空間トランスクリプトミクスを駆使することで非癒合骨折と癒合骨折の筋骨格遺伝子発現パターンを包括的に特徴付けることに成功し、骨折治癒を改善するための潜在的な治療ターゲットを示した。

コメント

近年、活発に行われている空間トランスクリプトーム解析を骨に応用した視覚的にも関心をそそられる発表であった。骨は他の臓器とは異なり、未固定非脱灰の切片作成には切片支持用粘着フィルムが必要なため、未固定非脱灰での空間トランスクリプトーム解析が困難である。本発表を含めた複数の発表で、よりよいRNAの質や量、発現プロファイルを得るための未固定非脱灰サンプルでの空間トランスクリプトーム解析についての議論が活発に交わされており、今後の技術発展に期待したい。