日本骨代謝学会

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ANZBMS 2023 レポート
木村 聡一郎(東京大学 医学部 附属病院 腎臓・内分泌内科)

紹介演題 [1]
Nonmelanoma skin cancer is associated with fewer incident fractures, more vitamin D sufficiency, greater BMD and improved bone microarchitecture in older adults

キーワード

非黒色腫皮膚癌,ビタミンD充足度,骨密度,骨折率

研究グループ

Michael Thompson2, 1, Graeme Jones2, Alison Venn2, Saliu Balogun2,Flavia Cicuttini3, Bruna Ragaini2, Dawn Aitken2,

  • 1. Department of Endocrinology,Royal Hobart Hospital,Hobart,TAS,Australia
    2. Menzies Institute for Medical Research,University of Tasmania,Hobart,Tasmania,Australia
    3. Musculoskeletal Unit,Monash University,Melbourne,Victoria,Australia
サマリー

生涯累積日光曝露のバイオマーカーである非黒色腫皮膚癌(Nonmelanoma skin cancer:NMSC)は,後年の骨折リスク低下と関連しているが,その機序は不明である。本研究グループは50~80歳の地域在住成人1,099人を対象とし,10年間の追跡による前向きコホート解析を行った。観察開始時にNMSCの既往がある人は,10年間で椎体変形を発症する可能性が低かった(RR=0.73,p=0.018)。NMSCの既往は,観察開始時(RR=1.22,p=0.007)および10年間の経時的(RR=6.2,p=0.011)なビタミンD充足度と,より高い腰椎骨密度(β=0.20g/cm2,p=0.046)と関連していたが,転倒リスク(β=-0.0,p=0.62)とは関連していなかった。NMSCと骨微細構造の関係は年齢に依存していた(pinteraction<0.05)。最も高齢の年齢層では,NMSCの既往は3次元骨密度の高さ(β=55.6-60.5,p=0.002-0.01)と,皮質骨,緻密骨,外側移行部の空隙率の低さ(β=-4.1-5.1,p=0.002-0.009)と関連していた。上記より,地域在住の成人においてNMSCの既往は骨折発生数の減少と関連していた。この保護的な関連は,25OHD,骨密度,骨微細構造など,屋外でのライフスタイルに関連する修正可能な骨折リスク因子によって媒介されている可能性が高いと考えられた。

コメント

非黒色腫皮膚癌(NMSC)は主に紫外線暴露を原因として発症する皮膚癌であり,オーストラリアを含めた白人・高齢者の多い国での罹患率が高い。ビタミンD充足度と骨折率の関係を評価するにあたって,日常的に血中ビタミンD濃度を測定している患者が少ないことがネックとなるが,このようにNMSCを切り口として解析することは非常に有用な方法であると感じた。

紹介演題 [2]
Does long-term antiresorptive administration lead to atypical fractures at other skeletal sites excluded from the ASBMR atypical femur fracture (AFF) case definition? A systematic review

キーワード

非定型大腿骨骨折,骨吸収抑制薬,骨ターンオーバー

研究グループ

Lucy Collins1, Alec Ronan1, Evelyn Hutcheon2, Peter R Ebeling3,4, Vivian Grill5,1, Hanh H Nguyen5,1,3,4

  • 1. Department of Endocrinology and Diabetes,Western Health,Melbourne,Victoria
    2. Western Health Library Service,Melbourne,Victoria
    3. Department of Medicine,School of Clinical Sciences,Monash University,Melbourne,Victoria
    4. Department of Endocrinology,Monash Health,Melbourne ,Victoria
    5. Department of Medicine,University of Melbourne,Parkville,Victoria,Australia
サマリー

非定型大腿骨折(Atypical femoral fracture:AFF)は骨病理における骨ターンオーバーの抑制を特徴とする稀な骨折である。2010年,2013年に米国骨代謝学会(American Society of Bone and Mineral Research:ASBMR)タスクフォースにより大腿骨骨幹部におけるAFFが定義されているが,その後,他の部位における非定型骨折の症例が報告されている。本研究グループは電子データベースと学会抄録/文献リストの検索を行い2005年から2023年に出版された非定型骨折に関する英語論文をスクリーニングし,3年以上の骨吸収抑制薬を投与されている18歳以上のASBMR AFF症例定義から除外された非定型骨折症例を抽出した。骨折は女性に多く(112/120,93%),頻度の高い骨折部位は尺骨(n=32),脛骨(n=12),骨盤(n=10),椎体(n=8),仙骨(n=6),大腿骨頚部(n=5)であった。また単一遺伝子骨疾患(低ホスファターゼ症)で1例報告を認めた。非癒合は保存的治療後に多くみられ,ほとんどの症例で抗骨吸収薬は中止された(41/47,87%)。長期の骨吸収抑制療法を受けている患者における大腿骨骨幹部以外の部位の非典型的骨折を認識することは重要である。今後,他の骨格部位を含めるため,現行のAFF症例定義の見直しが行われる可能性がある。

コメント

低リン血症性骨軟化症や低ホスファターゼ症,大理石骨病などの代謝性骨疾患/骨系統疾患は,骨ターンオーバーの低下を背景に全身の骨に特徴的な骨折きたす。これと同様に,長期の骨吸収抑制薬使用に伴う全身的な骨ターンオーバーの低下は大腿骨骨幹部以外の部位でも非典型的な骨折を引き起こすと考えられる。本報告は非定型骨折が大腿骨骨幹部に限らず,全身骨で起こりうることを改めて示した重要な研究である。