日本骨代謝学会

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ASBMR 2023 レポート
佐伯 法学(愛媛大学 学術支援センター 医科学研究支援部門)

紹介演題 [1]
Bone-derived PDGF-BB drives brain vascular calcification during aging.

キーワード

PDGF-BB、破骨細胞、血管石灰化

研究グループ

Jiekang wang et al.

  • Johns hopkins university, United states
サマリー&コメント

脳血管の石灰化は高齢者の約20%が罹患しており、神経炎症性疾患と併発することが知られている。一方で、大血管における石灰化のメカニズムは調べられているものの、脳微小血管での石灰化メカニズムはほとんど不明である。先行研究として、筆者らは、加齢に伴い骨の前破骨細胞の血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)産生が上昇し、血液脳関門を通過して脳微小血管の石灰化に寄与することを報告した。本研究では、前破骨細胞特異的Pdgfb過剰発現(Pdgfb cTG)あるいは欠損マウス(Pdgfb cKO)を用いて、骨由来 PDGF-BBが脳微小血管の石灰化に関わる分子機構を調べた。若齢のPdgfb cTGマウスは、PDGF-BBの血清レベルが正常値よりも高く、高齢マウスに認められる視床石灰化病変を呈した。一方で、高齢のPdgfb cKOマウスでは視床石灰化が減少した。次に、単離した脳微小血管組織とリコンビナント PDGF-BBを用いたex vivo実験で詳細な分子機構を解析した。PDGF-BBタンパクを添加すると微小血管の石灰化が促進した。骨形成関連遺伝子アレイおよびscRNA-seq解析により、PDGF-BB添加が脳微小血管における複数の骨形成分化遺伝子およびリン酸トランスポーターSlc20a1の発現を促進することが明らかになった。また、PDGF-BBがERKシグナルとその下流である転写因子RUNX2 を活性化しSlc20a1 のプロモーター領域に結合することを明らかにした。本結果より、PDGF-BB誘発性微小血管石灰化の重要なメディエーターとしてERK-RUNX2-Slc20a1シグナルが明らかになった。

臓器連関は非常に興味深く今後さらに注目される分野であると考えられる。なぜ老化した前破骨細胞でPDGF-BB発現が上昇するかなど疑問は残るが、今後の研究に期待したい。

紹介演題 [2]
Itaconate-producing neutrophils regulate local and systemic inflammation following trauma.

キーワード

好中球、イタコン酸、異所性骨化

研究グループ

Robert Tower et al.

  • University of Texas Southwestern Medical Center, United States
サマリー&コメント

損傷や感染の治癒には炎症反応のプロセスが不可欠である。また、免疫細胞の細胞内代謝は免疫機能に重要である。アキレス腱の修復過程において異所性骨化が起こりやすいことが知られているが免疫細胞の代謝との関連は未だ不明である。本研究ではアキレス腱切断モデルを使用し、損傷後の腱組織では細胞内代謝産物であるイタコン酸が上昇することを見出した。これまでにマクロファージが内因性イタコン酸を産生し、抗炎症反応に寄与することが知られている。しかしながら、シングルセルRNA-seq解析と代謝解析によって、マクロファージだけではなく好中球においてもイタコン酸を高産生することが判明した。また、イタコン酸高産生の好中球はTNFやIL1βなどの炎症性サイトカインの産生も高かった。イタコン酸による生体への効果を検証したところ、造血における顆粒球単球系の分化を促進し巨核球赤血球系を抑制したため、ミエロイド系の免疫反応が亢進することが示唆された。また、イタコン酸投与は、損傷部位の炎症の抑制、腱因性分化を促進、異常な血管新生の抑制を示し、異所性骨化に対する治療の可能性を示した。

前述の如く、マクロファージにおける内因性イタコン酸はメタボリックリプログラミングに関わることが知られているが、好中球についてはほとんど知られていないため興味を抱きました。好中球の内因性イタコン酸作用および外因性イタコン酸が病態に寄与する作用についてはまだまだ不明な点が多く残るが、今後の研究に期待したい内容である。

バンクーバーの蒸気時計台