日本骨代謝学会

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IFMRS 2022 レポート
柳原 裕太(愛媛大学プロテオサイエンスセンター病態生理解析部門)

紹介演題 [1]
Mitochondrial respiration as a key factor contributing to extracellular matrix integrity in cartilage

キーワード

軟骨、ミトコンドリア呼吸鎖、細胞外マトリックス

研究グループ

Kristina Bubb et al.

  • Department of Pediatrics and Adolescent Medicine, Experimental Neonatology, Medical Faculty and University Hospital Cologne, University of Cologne
サマリー&コメント

 軟骨内骨化の間、軟骨細胞はマトリックスの沈着を媒介し、骨格の成長を促進する。細胞外マトリックスとエネルギー代謝が連携して軟骨組織を調整および維持しているが、これらのクロストークの詳細については不明な点が多くある。そこで本研究グループは軟骨特異的な呼吸鎖機能の不活性化マウスを使用し、呼吸鎖機能と細胞外マトリックスとの関連性について研究を展開した。この変異マウスは大腿骨頭軟骨で軟骨組織の肥大化を示すことからその詳細を軟骨組織のscRNA-Seqを実施することで解析した。その結果、呼吸鎖機能の不活性化は、細胞外マトリックス関連遺伝子の発現変動を引き起こすことが明らかとなった。さらに質量分析や超微細構造解析により、これらの細胞外マトリックス関連遺伝子の発現変化は細胞外マトリックス組成や剛性の変化、コラーゲン/非コラーゲンタンパク質含有量の変化に関連していることを示した。以上のことから、軟骨細胞のミトコンドリア呼吸鎖機能は細胞外マトリックスの維持と安定性を保つために重要な要因であることが示唆された。

 無血管組織である軟骨組織におけるエネルギー代謝と軟骨細胞分化及び細胞外マトリックスの産生との関連は非常に興味深く、今後の研究展開に期待しています。

紹介演題 [2]
Inhibition of histone demethylases as an approach to restore deficient DOT1L activity in osteoarthritis

キーワード

DOT1L、変形性膝関節症、H3K79me

研究グループ

Reem Assi et al.

  • Skeletal Biology and Engineering Research Center, Department of Development and Regeneration, KU Leuven
サマリー&コメント

 Disruptor of telomeric silencing 1-like (DOT1L) はヒストンH3K79のメチル基転移酵素である。変形性関節症 (OA) においてはH3K79meが消失しており、軟骨の維持に重要な役割を担っていることを本研究グループが報告している。本研究においてはH3K79meの脱メチル化を阻害することでOAの病態を和らげることができるのか評価した。まず健常者とOA患者の軟骨組織における脱メチル化酵素群の発現量を確認した。その結果、OAの軟骨においてKDM2とKDM7の遺伝子発現量が高値を示した。また、ヒト軟骨培養細胞株であるC28/l2へのKDM2/7阻害剤の添加により、H3K79me2の増加が認められ、KDM2/7がH3K79のメチル化を制御することを明らかにした。さらにKDM2/7を変形性膝関節症モデルマウスで阻害したところ病態の進行が抑制された。本研究結果はKDM7A/BがH3K79meの脱メチル化をコントロールする分子であることを示しており、KDM7A/B阻害がOA治療法に成り得ることを示唆している。

 私自身、エピジェネティクスとOAとの関連性に興味を持っており、興味深く拝聴しました。脱メチル化酵素を標的とし、どのように局所に限定して阻害させるのか、本研究の続報に期待しています。