骨ルポ
IFMRS 2022 レポート
池戸 葵(愛媛大学プロテオサイエンスセンター病態生理解析部門)
紹介演題 [1]
Advanced 3D-confocal microscopy of created mouse bones reveals the architecture and quantitative interrelationship of the stromal and vascular compartments in bone marrow, and their modification by PDGF and PTH.
キーワード
PDGFRβ+細胞、Skeletal stem/progenitor cells、3Dイメージング
研究グループ
Nicolas Peredo, Elena Nefyodova, Nikky Corthout, Benjamin Pavie, Maarja Andaloussi Mae, Christer Betsholtz, Sebastian Munck, Christa Maes.
サマリー&コメント
骨髄中のSkeletal stem/progenitor cells(SSPC)は、血管周囲のBone marrow stromal cells (BMSC) として存在し、重要な骨芽細胞前駆体であり、造血幹細胞を支持するニッチの構成要素でもある。しかし、間質や血管周囲の細胞集団の制御や特性は未だ不明な点が多く、それらを適切に特徴付ける方法はない。そこで、著者らは高度な3Dイメージング技術を用いて、BMSCネットワークと血管等の相互作用を可視化し定量した。
可視化は、マウス骨切片の免疫染色と透明化によって行われ、レプチン受容体 (LepR) +BMSCsとendomucin/CD31+血管内皮細胞を検出すると同時に、PDGFRβまたはPrx1-プロモーターによって駆動され、tdTomatoレポーター遺伝子 (PDGFRβ-Tom、Prx1-Tom) を発現するCreラインを用いて、各細胞が標識された。
成体の恒常性維持期には、LepR+およびPDGFRβ-Tom+のBMSCsが、同様のパターンで、極めて密に、相互に連結した細胞ネットワークを骨髄全体に形成していることが観察された。PDGFRβ-Tom+BMSCsは、Prx1-Tom+BMSCsより30%多く存在しており、特に類同周囲に局在していた。また、PDGFRβの主要なリガンドであり、骨・血管新生カップリングの重要な制御因子であるPDGF-Bの細胞外マトリックス保持ドメイン (PDGFB-ret) を欠損したマウスでは、コントロールと比較して、LepR+周皮細胞が少なく、血管が有意に狭くなっていた。さらに、成体マウスにiPTHを投与したところ、隣接するBMSCsはより強固なネットーワークを形成し、血管に覆われた海綿骨表面が30%増加したことが観察された。これらの生理学的役割はまだ不明とのことだったが、病態による変化とその生理学的な役割について今後の結果が期待される。とても綺麗なイメージング画像で興味深い報告だった。
紹介演題 [2]
Interplay between bone and fat
キーワード
Bone marrow fat、mouse model、Pnpla2
研究グループ
Ormond MacDougald
サマリー&コメント
骨髄脂肪は、骨量または免疫細胞と負の相関を示すことが知られており、骨恒常性の維持に関わると考えられている。しかし、これまでの骨髄脂肪細胞 (BMAd) 研究で用いられてきたAdiopq-Creマウスは、白色脂肪細胞、骨芽細胞、骨髄間質細胞などでも組み替えが起こってしまうため、結果の解釈を難しくしていた。そこで、著者らは、内因性OsterixとAdipoqの発現パターンに基づいてBMAd特異的Cre (BMAd-Cre) マウスを作成した。このマウスをmT/mGマウスと交配することで、白色脂肪や褐色脂肪、骨芽細胞ではなく、BMAdでのみCreが発現することが確認された。一方で、BMAd-Creマウスは、血中Adipoq濃度が低下することも確認されており、骨の表現系に影響は見られていないものの、Ormond 先生の“No mouse model is perfect.”という言葉が印象的だった。各モデルマウスの特性を理解し、実験を進めて行くことが重要であることを再認識した。
著者らは、上記のBMAd-Creマウスを用いて、BMAdの脂肪分解が骨恒常性の維持に果たす役割を調べるために、BMAd特異的Adipose triglyceride lipase (ATGL、Pnpla2遺伝子)ノックアウトマウスを作成した。BMAd-Pnpla2-/-マウスでは、BMAdの脂肪分解が阻害され、BMAdのサイズと数が増加したものの、海綿骨量や骨密度に変化を認めなかった。一方で、カロリー制限下において、BMAd特異的Pnpla2欠損は、雄マウスの海綿量減少を増幅させた。また、骨髄脂肪細胞のRNA-seq解析から、カロリー制限によって細胞外マトリックス構造と骨格発生に関わる遺伝子の上昇が惹起され、BMAd由来のエネルギー供給がこれらの適応に必要であることが明らかになった。また、BMAd由来のエネルギー供給は、損傷時の骨再生や寒冷曝露による骨量の維持にも必要であることが示された。