骨ルポ
ASBMR 2022 レポート
谷 彰一郎(東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター臨床医工学部門)
紹介演題 [1]
Bisphophonates induce permanent defects in tooth root formation and long-term disruption in tooth eruption by inhibiting PTHrP-expressing dental follicle in growing molars
キーワード
Bisphophonate, PTHrP, tooth eruption
研究グループ
Yuki Arai, et al.
- University of Texas Health Science Center at Houston School of Dentistry
サマリー&コメント
骨形成不全症などを呈する小児患者に対してビスホスホネートの一種であるゾレドロネート(ZOL)がよく使用されるが、その際に歯牙萌出の停止がよく副作用として生じることが知られている。げっ歯類を用いた動物実験においてもZOLによる歯牙萌出の遅延や歯根の異常が生じることが報告されているものの、その機序は不明であった。dental follicle におけるPTHrP発現細胞によって歯根形成や歯牙萌出が制御されていることから、PTHrP-creER; R26R-tdTomatoマウスに対してZOLを投与し、形態学的、組織学的に検討したところ、ZOLの容量によらず臼歯の歯牙萌出異常が観察された。また、容量依存的に歯根の形成不全が確認された。特に、Periostin発現periodontal ligamentやalveolar boneにおける骨芽細胞の増殖や分化が有意に障害されていた。興味深いことに、TRAP染色では破骨細胞の数がZOL投与群で同等かそれ以上であった。また、フローサイトを用いてPTHrP-mCherry発現細胞の比較をしたところ、ZOL投与群で有意な細胞数低下が確認された。つまり、ビスホスホネート投与によるPTHrP発現細胞の減少が長期的な歯牙萌出の障害の原因である可能性が示唆された。
臨床的な問題点・疑問点と基礎的な知見に基づいた仮説の設定、レポーターマウスを用いた実証まで、一連の流れが大変きれいだと感じた。日常的な“なぜ”を実験系に落とし込んで実証するという基本的な工程ではあるが、改めて基本の大切さ、きれいな論理構成の組み立てなど学ぶところが多かった。
紹介演題 [2]
Pth1r Signaling in Adipoq+ Bone Marrow Cells (MALPs) Decreases Bone Mass and Restricts the Anabolic Response to PTH
キーワード
Adipoq, Marrow Adipose Lineage Precursors (MALPs), PTH/PTHrP-Pth1r
研究グループ
Lama Alabdulaaly, et al.
- Harvard School of Dental Medicine
サマリー&コメント
PTH/PTHrPは骨代謝に重要であることは既知であるが、アディポネクチン発現骨髄細胞(Adipoq+ MALPs)はその受容体をコードするPth1rを発現している。そこで骨髄脂肪系細胞におけるPTHシグナルについて検証が行われた。Pth1rを特異的に欠失させたレポーターマウスを用いて骨形態学的解析や組織学的解析が行ったところ、海綿骨の有意な増加がみられた。また、Adipoq発現細胞のCFUは2%にも満たないこと、骨芽細胞への分化傾向があることが示された。そこで、シングルセルおよびバルクRNA-seq解析をPth1r欠失Adipoq発現細胞に対して行ったところ、LeprおよびCxcl12発現が低下していた。つまり、MALPにおいてPTHシグナルは骨髄間葉系細胞の分化制御に関与している可能性が示唆された。実際PTHシグナルの阻害を行うことで、骨量の増加が確認され、MALPにおけるPTH1RシグナルがPTHによる骨形成作用を制限することが示唆された。
脂肪分化および骨分化のバランスによって骨量が左右される一方で、特定の細胞における特定のシグナルがそのバランスに大きく寄与していることが興味深い。Adipoq自体は骨髄間葉系細胞のマーカーとして報告されているものの、その性質自体は脂肪寄りであり、PTHシグナルと言えども、そのような細胞にとっては骨形成を抑制する方向に作用するというのは個人的に興味深い。一方で、AdipoqにしろCxcl12やLeprにしろ、様々なマーカーが複数報告されており、またその寄与度や重複、多様性などについてはこれから整理されていくものと思われる。この手の議論では、同じものを別な角度から見て新種としてしまうような印象も否めないため、乱立を避けるためにも包括的な検証や詳細な機能解析を将来的に期待したい。