日本骨代謝学会

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ANZBMS 2022 レポート
鍋島 貴行(産業医科大学整形外科)

紹介演題 [1]
Plant-derived soybean peroxidase stimulates osteoblast collagen biosynthesis, matrix mineralization, and accelerates bone regeneration in a sheep model

キーワード

ダイズペルオキシダーゼ、骨欠損、骨芽細胞

研究グループ

Vasilios Panagopoulos[1], [2], [3], Alexandra J Barker[4], Agnieszka Arthur[3], [5], Mark O DeNichilo[6], Romana Panagopoulos[2], Stan Gronthos[3], [5], Peter J Anderson[3], [5], [7], [8], Andrew CW Zannettino[1], [3], [8], [9], Andreas Evdokiou[2]

  • [1] Myeloma Research Laboratory, Adelaide Medical School, Faculty of Health and Medical Sciences, University of Adelaide, Adelaide, SA, Australia
  • [2] Breast Cancer Research Unit, School of Medicine, Discipline of Surgery and Orthopaedics, Basil Hetzel Institute, University of Adelaide, Adelaide, SA, Australia
  • [3] Precision Medicine Theme, South Australian Health and Medical Research Institute, Adelaide, SA, Australia
  • [4] Musculoskeletal Biology Research Laboratory, Clinical and Health Sciences, University of South Australia, Adelaide, SA, Australia
  • [5] Mesenchymal Stem Cell Laboratory, Adelaide Medical School, Faculty of Health and Medical Sciences, University of Adelaide, Adelaide, SA, Australia
  • [6] Centre for Cancer Biology, University of South Australia, Adelaide, SA, Australia
  • [7] Australian Craniofacial Unit, Women’s and Children’s Hospital and Department of Paediatrics and Dentistry, University of Adelaide, Adelaide, SA, Australia
  • [8] Central Adelaide Local Health Network, Adelaide, SA, Australia
  • [9] Department of Haematology, Royal Adelaide Hospital, Adelaide, SA, Australia
サマリー

骨折や疾患による骨欠損に対し、近年では生体材料代替物の開発が進歩し、現在の治療の主流である自家骨移植に代わる代替物が次々と登場している。本研究グループは、以前にペルオキシダーゼ活性を有する酵素が、骨再形成および修復に不可欠な細胞外マトリックス生合成、血管新生および破骨細胞新生に作用することを報告しており、今回植物由来のダイズペルオキシダーゼ(SBP)が骨再生に及ぼす作用を調査した。その結果、SBPは、in vitroでヒト骨芽細胞のコラーゲンI生合成とマトリックス鉱化を促進し、正常な骨治癒に必要な炎症、細胞外マトリックスのリモデリング、骨化などの骨形成に関わる遺伝子を制御していることが明らかになった。さらに、SBPを市販の二相性リン酸カルシウム(BCP)顆粒と組み合わせ、長骨欠損ヒツジモデルに移植したところ、SBPで処理したBCP顆粒は、BCP単独と比較して、早ければ4週間で欠損部内の骨形成を有意に増加させることがμCTの解析結果でわかった。組織形態学的な評価では、膜内骨化に伴う骨形成促進効果が示された。これらの結果は、SBPが骨芽細胞機能の効果的な制御因子であることを明らかにし、大きな骨欠損の修復を促進するための新しいコスト効率の良い骨誘導剤として有益であると考えられた。

コメント

骨欠損に対する治療は、現在も自家骨移植が主流であるが、一方で骨欠損部のサイズによってはサンプルが不足し、また健常部からの採取は別に侵襲を加えなければならず、患者への負担が大きい事が問題であり、自家骨移植に代わる新たな骨充填剤・骨形成促進剤の登場が望まれる。本研究のように身の回りにある自然由来の成分が、骨欠損への新たな治療に有効活用できる可能性があるという報告が非常に興味深かった。

紹介演題 [2]
Evaluating the effectivity of treatment options for intracellular S. aureus infections in osteomyelitis

キーワード

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus (SA))、骨髄炎、抗生物質

研究グループ

Anja R Zelmer[1], Nicholas J Gunn[1], Renjy Nelson[2], [3], Bogdan L Solomon[2], [1], Stephen P Kidd[4], Katharina Richter[5], Gerald J Atkins[1]

  • 1. Centre for Orthopaedic and Trauma Research, Faculty of Health and Medical Sciences, University of Adelaide, Adelaide, SA, Australia
  • 2. Royal Adelaide Hospital, Adelaide, SA
  • 3. Department of Infectious Diseases, Central Adelaide Local Health Network, Adelaide, SA, Australia
  • 4. Australian Centre for Antimicrobial Resistance Ecology, and Research Centre for Infectious Disease, University of Adelaide, Adelaide, SA, Australia
  • 5. Richter Lab, Department of Surgery, Basil Hetzel Institute for Translational Health Research, University of Adelaide, Adelaide, SA, Australia
サマリー

ヒト骨髄炎の主要病原菌である黄色ブドウ球菌(SA)は,骨細胞内を含む細胞内リザーバーを形成して持続し、抗生物質感受性を低下させることが知られている。しかし、骨髄炎における細胞内SA感染症に対するエビデンスに基づく治療ガイドラインは存在しない。本研究は、文献を系統的にレビューし、臨床的に適切なin vitro assayで候補となる抗生物質を試験した。

系統的なレビューを行い、リファンピシン、オリタバンシン、リネゾリド、モキシフロキサシン、オキサシリンがSA骨髄炎に対する細胞内治療薬として有効であるという報告があった。これらの抗生物質について,臨床骨髄炎SA-分離株11株に対する最小発育阻止濃度(MIC)を測定した。さらに、それぞれのMICよりも高い濃度で骨内に到達することが報告されているものを試験した。その結果、リファンピシン・リネゾリド・レボフロキサシンは骨髄性細胞内SA感染症に有効であることが示されたが、オキサシリンとドキシサイクリンは有効でないことが証明された。システマティックレビューと疾患関連in vitroスクリーニングの組み合わせにより、細胞内SA感染が確認または疑われる骨髄炎を治療するための最適なアプローチに関する情報が得られる可能性がある。

コメント

黄色ブドウ球菌による骨髄炎は、整形外科領域において治療に非常に難渋する疾患である。これまで有効性が報告されている抗生物質はいくつかあるが、実際の薬物の治療効果を多数の薬剤で同時に調べた報告はなかった。本研究は、これまでのSA骨髄炎に対する抗生剤治療の報告をレビューするだけでなく、その裏付けを行なっており、非常に有用なデータであると考える。