骨ルポ
ECTS 2022 レポート
谷 彰一郎(東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター臨床医工学部門)
紹介演題 [1]
Mesenchymal stromal cell-derived septoclasts resorb cartilage during developmental ossification and fracture healing
キーワード
cartilage resorption, septoclasts, Notch signaling
著者
Sivaraj, Kishor Kumar [a], Majev, Paul-Georg [a], Dharmalingam, Backialakshmi [a], Stange, Richard, Adams, Ralf
- [a] Max Planck Institute for Molecular Biomedicine, Tissue Morphogenesis, Münster, Germany
- [b] Institute of Musculoskeletal Medicine IMM- University Hospital Münster, Department of Regenerative Musculoskeletal Medicine, Münster, Germany
サマリー&コメント
骨吸収を担う破骨細胞と骨リモデリングへの寄与はよく知られているが、内軟骨性骨化や骨再生時に生じる軟骨組織の分解・吸収のメカニズムは不明な点が大きい。本研究では、血球系由来の破骨細胞とは明確に区別される間葉系由来の“Septoclast”について、その由来や機能、骨軟骨境界における血管との相互作用を検証している。FABP5を発現するSeptoclastは軟骨が骨へ置換される成長板に多く集積し、MMPなどの分解酵素を産生している。また、血管新生部分において内皮細胞で発現するDLL4によるNotchシグナル経路を介して制御されていることを明らかにした。このSeptoclastは新生児などの発育段階で多く存在するものの、成長に伴って減少することが明らかとなった。一方で、骨折モデルにおいて再度出現し、骨折治癒過程で生じる内軟骨性骨化における軟骨器質の吸収を担っていることが明らかとなった。以上から、Septoclastの骨形成および骨再生過程における重要性が本研究によって示された。
破骨細胞についての研究が多いものの、異なる細胞種による骨組織への寄与が明らかになることで、新たな病態機序だけでなく治療標的の発見に繋がることが期待される。本発表は今年1月にNature Communications誌に掲載された内容に準拠しており、論文内容に関する疑問や質問を直接著者にできたのは、非常に有意義であった。
紹介演題 [2]
Chronic psychosocial stress disturbs endochondral ossification during bone growth and fracture healing via catecholamines locally produced by myeloid cells
キーワード
Chronic psychosocial stress, endochondral ossification, catecholamine
著者
Miriam Tschaffon [a], Elena Kempter [b], Lena Steppe [a], Sandra Kupfer [b], Melanie Kuhn [a], Hiroshi Ichinose [c], Jean Vacher [d], Anita Ignatius [a], Melanie Haffner-Luntzer [a], Stefan Reber [b]
- [a] Institute of Orthopaedic Research and Biomechanics, Ulm university, Ulm, Germany
- [b] Laboratory for Molecular Psychosomatics- Department of Psychosomatic Medicine and Psychotherapy, Ulm university, Ulm, Germany
- [c] School of Life Science and Technology, Tokyo Institute of Technology, Tokyo, Japan
- [d] Department of Medicine, Institut de Recherches Cliniques de Montréal, Montréal, Canada
サマリー&コメント
慢性的なストレスは骨組織に対して負の作用があることが知られている。発表者らは、chronic subordinate colony housing (CSC)という手法を用いてマウスに慢性的なストレス負荷を与えることで、骨形成や骨折治癒過程において内軟骨性骨化が阻害されること、またそれに伴って骨髄細胞におけるtyrosine hydroxylase(TH)活性が局所的に高まることを明らかにしてきた。そこで発表者らは、この慢性ストレスによる影響が骨髄細胞におけるカテコラミン産生の増加が関与しているのではないかとの仮説を立て、検証を行った。8週齢のTHfl/fl/CD11b-Creマウス(オス)において、表現型と大腿骨骨折モデルにおけるコントロール(THfl/fl)との比較を行った。通常の表現型として、コントロール群では慢性ストレスによって大腿骨の短縮および成長板の肥厚がみられたのに対し、TH欠損群では表現型がみられなかった。また、骨折治癒過程においてコントロール群でのみ仮骨における肥大軟骨のRunx2発現が減少、骨形成量の減少がみられた。これらの現象はTHを欠損されることで消失した。そこで、両群における骨髄細胞を用いて作製したconditioned mediumもしくは合成カテコラミンをマウスATDC5細胞へ投与したところ、いずれにおいても骨芽細胞への分化が阻害されることが明らかとなった。また、カテコラミン受容体の阻害薬を用いることで、これらの反応は消失した。以上から、慢性ストレスによる軟骨内骨化への負の影響において、骨髄細胞によって産生されるカテコラミンが主要な役割を果たしていることが示された。
社会心理的な要因が臨床分野に与える影響は今や様々な面から研究がなされている。本研究はカテコラミン産生の増加という具体的な機序を示しただけでなく、治療における心理的な要因の重要性を改めて示唆しており、実臨床へ本知見が活かされることが期待される。