骨ルポ
ASBMR 2021 レポート
浪花 耕平(大阪大学大学院歯学研究科口腔病理学教室)
紹介演題 [1]
The effect of anti-RANKL on bone lesions in a murine model of Fibrous Dysplasia
キーワード
GNAS遺伝子、線維性異形成症、RANKL
研究グループ
Renee T Ormsby et al.
- Department of Orthopaedic Surgery, Brigham and Women’s Hospital, Boston, MA
サマリー&コメント
線維性異形成症 (Fibrous dysplasia: FD)は、G蛋白質のαサブユニットをコードするGNAS遺伝子の体細胞変異を原因とし、局所的な幼弱骨の増生をきたす稀な骨疾患である。病変部には、GNAS遺伝子変異をもつ骨芽細胞系統細胞と、変異をもたない骨芽細胞系統細胞が混在しており、病変内の骨髄線維症をもたらしていると考えられている。また間質細胞の発現するRANKLに反応して、病変部の骨周囲には破骨細胞が豊富に認められる。FDのマウスモデルや患者への抗RANKL中和抗体(aRANKL)の投与により、破骨細胞が減少し、病変の増大抑制に効果的であったという報告がある。本研究では、タモキシフェンを投与するとヒトの変異GNAS遺伝子が入るFDマウスモデルが用いられており、線維性病変が形成される。この病変部では、SMA陽性で遺伝子変異をもつ骨芽細胞系統細胞 (以下MT)の増殖がみられる一方で、SMA陽性で遺伝子変異をもたない骨芽細胞系統細胞(以下WT)の増殖もみられ、線維性病変の形成には、MTとWTの両方が寄与していると考えられる。演者らは、WTの増殖には、破骨細胞・骨芽細胞のカップリングが関与すると仮定し、aRANKLの投与によって、WTの増殖が抑制され、線維性病変の増大も抑制されると考えた。FDマウスモデルに対し、生後5日目に変異GNAS遺伝子を発現させるためにタモキシフェンを投与し、生後5日目および13日目にaRANKLを投与した。コントロール群には、IgG2aを投与した。生後21日目の大腿骨では、aRANKL投与群では、µCT解析において、大腿骨の骨量が増加していた。また、骨髄内の線維性病変が減少し、周囲長に対する破骨細胞数が減少していた。さらに、aRANKL投与群では、WT (SMA陽性、Tdtomato陰性)の細胞数は変わらないが、MT (SMA陽性、Tdtomato陽性)の細胞数は減少していた。
FDに対するデノスマブ投与は、臨床症状の緩和に一定の効果をもたらしているが、休薬による症状再燃の報告がある。デノスマブとFDに関しては更なる研究が必要であり、本研究はその一端を担うものであった。
紹介演題 [2]
Higher Risk of Osteonecrosis of the Jaw under Denosumab compared to Bisphosphonates in Patients with Osteoporosis
キーワード
顎骨壊死 ビスホスホネート デノスマブ
研究グループ
Judith Everts-Graber et al.
- OsteoRheuma Bern, Bahnhofplatz 1, Bern, Switzerland
サマリー&コメント
骨吸収抑制剤による重大な副作用として顎骨壊死 (Osteonecrosis of the Jaw: ONJ)が知られている。骨粗鬆症患者のONJリスクに関して、ビスホスホネート製剤 (BPs)とデノスマブ (Dmab)を比較した報告は少ない。本研究では、2015年1月1日から2019年9月30日の期間で、Swiss Society of Rheumatologyに登録された9,956人の骨粗鬆症患者のうち、BPsまたはDmabの投与経験のある3,068人を抽出し、ONJリスクについて、BPsとDmabで比較検討した。3,068人のうち、ONJを発症した患者は17人であり、その中で、診断時にBPsを投与中の患者は5人、Dmabを投与中の患者は12人であった。BPsとDmabを休薬中の患者や、選択的エストロゲン受容体調整薬やテリパラチドを投与中の患者にONJを発症した患者はいなかった。1万人年 (人年:罹患人数と観察期間をかけた数値)あたりのONJ罹患数は、BPs投与群で4.5人、Dmab投与群では28.3人、ハザード比は3.49であった。これらのことから、BPs投与群よりもDmab投与群の方が、ONJリスクが高いことが明らかとなった。またONJ発症患者の治療経過に着目すると、Dmab投与群のONJ症例12人のうち9人が、先行してBPs投与を受けていたのに対し、BPs投与群のONJ患者に、先行してDmab投与を受けた患者はいなかった。このことから、BPs治療からDmab治療への切り替えが、ONJリスクの上昇に関与することが示唆された。
Dmab投与群でONJの罹患率やリスクの上昇には、Dmab投与群の治療期間(投薬期間)が長いことも、寄与していると考えられる。ONJの発症頻度が非常に低い中で、本研究のようなDmab-related ONJやBP-related ONJ比較に関する報告は貴重なデータであり、今後もデータの蓄積が必要である。