骨ルポ
ASBMR 2021 レポート
中村 郁哉(公立千歳科学技術大学大学院理工学研究科)
2021年10月1日~10月4日,アメリカ サンディエゴで開催されたASBMR Annual Meeting 2021 (米国骨代謝学会議)に参加し,“Deterioration of Bone Quality in Rats with Glucocorticoid-Induced Osteoporosis Results in a Reduction in Cortical Bone Strength”という演題でポスター発表いたしました.私はこの度で3回目の参加となりますが,毎年世界中の研究者が一堂に会し議論を交わすこの会議に強い刺激を受けています.今年こそは現地参加をと期待していたのですが,残念ながらオンラインによる参加となりました.本年は例年と比較して骨質評価の演題が多い印象を受け,オンラインながらも大変興味深く多くのことを学ぶことができました.その中でも,特に印象的であった2演題をご紹介いたします.
紹介演題 [1]
Bone Quality in Type 1 and Type 2 Diabetes
キーワード
Bone quality, Diabetes, Raman spectroscopy
研究グループ
Bowen Wang[1], Mohammed Akhter[2], Laura Armas[2], Robert Recker[2], Mishaela Rubin[3] and Deepak Vashishth[1]
- [1] Center for Biotechnology and Interdisciplinary Studies, Department of Biomedical Engineering, Rensselaer Polytechnic Institute, NY, USA
- [2] Creighton University Osteoporosis Research Center, NE, USA
- [3] Department of Medicine, Division of Endocrinology, College of Physicians & Surgeons, Columbia University, NY, USA
サマリー&コメント
Ⅰ型,Ⅱ型糖尿病は骨折リスクを増大させることが知られている一方,その機序は未だ明らかとなっていない.演者らは,糖尿病では骨密度とは独立した骨折リスクの上昇があることから,骨脆弱性の増大に骨質劣化が強く関連していると考え,ラマン分光法による糖尿病患者腸骨の骨質評価を行なった.糖尿病患者腸骨ではカルボキシメチルリジンの蓄積,ヒドロキシプロリン/プロリン比の上昇,結晶化度の上昇に代表される骨質異常が示された.本研究では,Ⅰ型,Ⅱ型糖尿病の骨質劣化を特徴付けるとともに,Ⅰ型,Ⅱ型糖尿病では異なる骨質を示すことが明らかとなった.
慢性腎臓病に伴う骨粗鬆症やステロイド性骨粗鬆症など様々な骨粗鬆症の骨質評価を行なってきた私にとって,大変興味深い演題でした.骨質と骨強度の関連について,今後の検討が待たれます.
紹介演題 [2]
Difference in material and mechanical properties between cortical and trabecular bone tissues in human iliac bone
キーワード
Bone quality, FTIR, Nanoindentation
研究グループ
Delphine Farlay[1], Guillaume Falgayrac[2], Camille Ponçon[1], Sebastien Rizzo[1], Bernard Cortet[3], Roland Chapurlat[1], Guillaume Penel[3], Patrick Ammann[4] and Georges Boivin[1]
- [1] INSERM, UMR 1033, Univ. Lyon, Université Claude Bernard Lyon1, France
- [2] Univ. Lille, Univ. Littoral Côte d’Opale, ULR 4490 – MABLab – Marrow Adiposity and Bone Lab, France
- [3] Univ. Lille, Univ. Littoral Côte d’Opale, ULR 4490 – MABLab – Marrow Adiposity and Bone Lab, France
- [4] Division of Bone Diseases, Department of Internal Medicine, Geneva University Hospital, Switzerland
サマリー&コメント
骨強度に影響を与える因子を検討するうえで,皮質骨と海綿骨におけるナノスケールの力学特性,材料特性を知ることは重要である.本演題では,ナノインデンテーション,赤外分光法(FTIR),ラマン分光法,X線顕微法を用いて閉経後骨粗鬆症患者の腸骨皮質骨および海綿骨を骨層板,介在層板に分け,ナノスケールの力学特性と材料特性を比較検討した.各組織間では,弾性率,散逸エネルギー,石灰化度,結晶化度等の変化が示され,ナノスケールの力学特性,材料特性の変化は骨組織レベルで強度に影響を与えることが示唆された.
赤外分光法とラマン分光法を用いた詳細な骨質評価の報告であり,参考になる部分が多い演題でした.ナノスケールの力学特性,材料特性の骨強度への寄与については明らかになっていない点も多く,今後さらなる研究が期待されます.