日本骨代謝学会

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ASBMR 2021 レポート
佐伯 法学(愛媛大学プロテオサイエンスセンター病態生理解析部門)

紹介演題 [1]
TGFβ reprograms macrophage response to TNFα and switches cell fate towards osteoclasts

キーワード

TGFβ、TNFα、破骨細胞

研究グループ

Yuhan Xia, Kazuki Inoue, Yong Du, Matthew B Greenblatt, Baohong Zhao

  • Arthritis and Tissue Degeneration Program and The David Z. Rosenswing Genomics Research Center, Hospital for Surgery
サマリー&コメント

破骨細胞分化にRANKL刺激が重要であることはよく知られている。TNFαは関節リウマチ(RA)のような炎症性疾患の骨破壊に寄与することが知られていたが、単独では破骨細胞分化を誘導しない。一方で、TGFβの破骨細胞分化に対する働きは議論の余地がある。筆者らはTGFβが破骨前駆細胞に働く影響とTNFαと協調した破骨細胞分化に寄与する影響を調べた。ヒトCD14陽性単球を用いてTGFβ priming後にTNFαで刺激したところ、驚くべきことに、RANKL非依存的に破骨細胞分化を認めた。また、Tgfr2ノックアウト(KO)マウス由来マクロファージは同条件による破骨細胞分化が抑制された。さらに、関節炎モデルの解析で骨破壊はTgfr2 KOマウスで有意に減少した。RNAseq、ATACseqおよびChIPseq解析により、マクロファージはTNFα刺激でクロマチンアクセシビリティやヒストン修飾の変化に伴って炎症関連の遺伝子発現が上昇するのに対し、TGFβ priming後のTNFα刺激ではそれらの遺伝子発現は上昇せず、破骨細胞分化関連の遺伝子が上昇することを明らかにした。加えて、RA患者の末梢血単球はSLE患者と比較してTGFβシグナルパスウェイ関連の遺伝子が発現上昇しており、TGFβ活性は破骨細胞活性と正の相関を示していた。

破骨細胞分化にRANK-RANKLシグナルは必須であると考えていたが、本研究で示されたTGFβ/TNFα刺激は破骨細胞分化に十分であり非常に驚かされた。RANKL刺激による破骨細胞とTGFβ/TNFα刺激による破骨細胞にどのような違いがあるのか、また、TGFβによるシグナルはM2マクロファージのpolarizingに関与することが報告されているためin vivoでM2マクロファージから破骨細胞が分化するのか、今後の研究が期待される。

紹介演題 [2]
Efferocytic Bone Marrow Macrophages Drive Inflammation in Skeletal Metastasis

キーワード

前立腺癌、腫瘍微小環境、マクロファージ

研究グループ

Veronica Mendoza-Reinoso, Patricia Schnepp, Dah Youn Baek, John Rubin, Ernestina Schipani, Evan Keller, Laurie McCauley, Hernan Roca

  • University of Michigan
サマリー&コメント

前立腺癌は男性で最も好発する癌であり90%以上が骨転移すると言われている。腫瘍随伴マクロファージは前立腺癌の悪性度と相関する。骨転移した骨髄内においてマクロファージはアポトーシスを起こした前立腺癌を貪食し、炎症や免疫抑制を誘導することで腫瘍微小環境の構築に関与していると考えられているが、炎症に寄与する分子機構は不明である。筆者らはアポトーシスを誘導した前立腺癌細胞を骨髄マクロファージに貪食させ、Single-cell RNA-seqで遺伝子発現パターンの変化を解析した。発現変動の見られた遺伝子に関してGene ontology解析を行ったところ、hypoxia関連の遺伝子が発現上昇していた。中でもHif1αは転写因子Stat3により誘導されて発現上昇していた。また、発現変動の見られた遺伝子のProtein-protein interaction analysisでHif1αはMifと相互作用していることが示唆された。マクロファージ特異的Hif1αミュータントマウス由来の骨髄マクロファージを用いてMifの発現がHif1αによって正に制御されていることを示した。興味深いことに、Mifの受容体の一つであるCd47遺伝子発現は貪食していないマクロファージで高く、貪食後に減少していた。Mifを骨髄マクロファージに作用させると、NF-κB関連のシグナルが活性化し、炎症性サイトカインの遺伝子発現が上昇した。以上より、前立腺癌細胞を貪食したマクロファージではHif1αの活性化によりMifが産生され、パラクラインによりMifの刺激を受けた他のマクロファージが炎症反応を誘導することが示唆された。

近年、微小環境によるマクロファージ活性化機構およびマクロファージを対象とした炎症制御は注目されている。本研究により、腫瘍微小環境を形成するマクロファージの異なる働きが示された。今後、本研究の発展が期待される。