骨ルポ
ASBMR 2021 レポート
小林 紗知(大阪大学大学院歯学研究科生化学教室)
紹介演題 [1]
#1001
Growth plate long-term self-renewing stem cell population contributes to regeneration of injured physis.
キーワード
成長板軟骨、骨格系幹細胞、FoxA2、骨端軟骨損傷
研究グループ
Shanmugam Muruganandan et al
- Northeastern University, United States
サマリー
近年の細胞系譜解析から、成長板軟骨には2種類の骨格系幹細胞(Skeletal Stem Cell)が存在することが明らかとなっている。一つはPTHrP陽性の静止軟骨細胞であり、もう一つは二次骨化中心に隣接する静止軟骨細胞である。これらの骨格系幹細胞に加えて、Long-term skeletal stem cell (LTSSC) サブグループの存在が疑われているが、まだ証明されていなかった。
演者らは、二次骨化中心に隣接するFoxA2陽性の細胞集団がLTSSCサブグループであることを証明している。FoxA2+細胞は骨芽細胞、軟骨細胞および脂肪細胞へと分化する多分可能を持つこと、さらにPTHrP陽性の骨格系幹細胞に比較して高いクローン形成能と高寿命を有することを示している。
さらに、著者らは小児の骨端軟骨損傷におけるFoxA2の役割についても検討している。骨端軟骨損傷分類の一つであるSalter-Harris分類1型である骨端線離開を再現するマウスモデルを用いて解析した結果、FoxA2+細胞が外傷に反応して増殖し、硝子軟骨の産生に関与することで、軟骨が再生することが明らかとなった。さらに、ジフテリア毒素でFoxA2+細胞を破壊すると、軟骨再生が阻害されることが示された。
コメント
成長板軟骨における新たな骨格系幹細胞を証明した演題である。軟骨細胞の肥大化に重要な転写因子として報告されていたFOXA転写因子が(Dev Cell. 2012)、骨格系幹細胞においても機能している点は興味深い。本研究では骨端軟骨損傷の治癒過程におけるFoxA2陽性細胞の重要性も明らかにしており、臨床的にも重要な演題である。骨折治癒におけるFoxA2の役割についても興味がもたれる。
紹介演題 [2]
#1004
Glucose metabolism prevents ferroptosis and secures proteostasis in the developing growth plate
キーワード
成長板軟骨、ペントースリン酸回路、フェロトーシス
研究グループ
Shauni Loopmans et al
- Clinical and Experimental Endocrinology, KU Leuven, Belgium
サマリー
グルコース代謝は細胞の増殖に必須の代謝経路である。成長板軟骨の増殖軟骨細胞は活発な細胞増殖能を有することから、代謝経路をリプログラミングすることで軟骨の成長を制御している可能性がある。
そこで、本研究では成長板軟骨細胞を用いたシングルセルRNA-seqを行い、成長板軟骨細胞ではペントースリン酸経路(pentose phosphate pathway:PPP)が増加していることを見出した。ペントースリン酸経路は、解糖系から分離する経路であり、核酸の構成成分であるリボース-5-リン酸やNADPHといった成体に重要な分子を合成する。
成長板軟骨におけるPPPの重要性を検討するために、PPPの律速酵素であるグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)をCol2-Creマウスを用いて軟骨細胞特異的に欠損させたマウスを作製した(G6PDH/Chon-マウス)。G6PDH/Chon-マウスは、軟骨細胞の増殖が低下しているのみならず、TUNEL染色陽性の死細胞が増加していた。さらに詳細な結果、G6PDH/Chon-マウスの軟骨細胞は細胞死の1つであるフェロトーシスが亢進し、ERストレスタンパク質のATF4やタンパク質分解に関わる酵素が増加していることが示された。
以上の結果より、軟骨細胞におけるPPP経路はフェロトーシスとタンパク質恒常性の維持に重要であることが明らかとなった。
コメント
成長板軟骨におけるPPP経路の重要性を示した演題である。無血管、低酸素の成長板軟骨は、正常細胞とはことなる代謝経路が活性化している可能性は高く、その一つを示した点は非常に興味深い。PPP経路から合成されるリボース5リン酸は核酸合成の前駆体としても重要であることから、DNA合成を通じて軟骨細胞が増殖を制御している可能性も推察される。