骨ルポ
ECTS 2021 レポート
加藤 創生(東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科)
紹介演題 [1]
From the Voice of Patients and Caregivers: Burden of Illness in Infantile Onset ABCC6 and ENPP1 Deficiency (GACI and ARHR2)
キーワード
骨軟化症, 石灰化, ピロリン酸
研究グループ
Christine O’Brien et al.
- GACI global
サマリー&コメント
・Enpp1タンパク質はヌクレオチド三リン酸(ATP)を加水分解しピロリン酸を産生することで過剰な石灰化や骨形成を抑える役割をもち、Enpp1の遺伝子変異は重篤な石灰化や骨疾患につながることが知られている。また、ABCC6遺伝子は細胞外へとATPを輸送する膜タンパクをコードしている。ENPP1遺伝子やABCC6遺伝子の機能喪失型変異は、生下時~乳幼児には乳児全身性動脈石灰化(Generalized arterial calcification of infancy: GACI)となり、約半数が6カ月までに死亡する。一方でENPP1遺伝子異常は青年期~成人期にかけて骨軟化症や常染色体劣性低リン血症性くる病2型(Autosomal recessive hypophosphatemic rickets 2: ARHR2)の原因としても報告されている。本研究ではGACI/ARHR2と診断された患者およびその家族を対象に症状等についてのアンケート調査を実施した。アンケートを実施したのは9か国、38名(ABCC6遺伝子変異:6名、ENPP1遺伝子変異:32名)で、うち10名は12カ月までに死亡していた。乳幼児期は心臓に関連した症状が大半を占めており(12例中11例)、成人期でも同様であった(7例中6例)。一方、骨・関節痛は乳幼児期には少ないが(12例中3例)、成人期になると7例全例で認めた。聴力障害は青年期に最も多く認められた(13例中7例)。GACI/ARHR2は希少疾患であることから、少数での検討ではあるがこれらの結果は臨床での治療方針に役立つものであると著者らは結論付けている。
・著者らの一部が所属するInozyme Pharma社はENPP1補充療法を開発しており、既にARHR2モデスマウス等で補充療法の効果を報告しています。今後これらの合併症がENPP1補充でどのように改善するのか、実臨床でのデータ集積が期待されます。
紹介演題 [2]
Developing a service for the incidental identification of osteoporotic vertebral fractures and the secondary fragility fracture prevention using artificial intelligence
キーワード
椎体骨折, 機械学習, 人工知能
研究グループ
Eleni Kariki et al.
- Manchester University NHS Foundation Trust-Manchester Royal Infirmary, Department of Clinical Radiology
サマリー&コメント
・骨粗鬆症は椎体、大腿骨頸部等の脆弱性骨折をきたす。このうち、椎体骨折は他部位の脆弱性骨折と比較して早期に発生する傾向がある。適切な治療介入のため椎体骨折の早期発見が肝要だが、椎体骨折は無症候であることが多く報告によっては13-46%程度しか椎体骨骨折が正確に診断されていない。著者らは胸椎~腰椎CTの矢状断画像を用いて各画像の椎体一つずつに椎体骨折の有無を紐づけしたデータセットを作成し、これらのデータセットを用いた椎体骨骨折診断の機械学習システムを構築した。機械学習では、多数の決定木(ディシジョンツリー)を作成して各ツリーの予測結果の多数決を取ることで最終予測値を決定する方式(ランダムフォレスト)を採用し、モデルを作成している。作成されたモデルはASPIREという商標名として各医療施設に提供された。これまでにASPIREは50歳以上の女性10000人超の椎体画像を読影し、このうち20.6%で椎体脆弱骨折を拾い上げた。拾い上げられた症例の約60%は未診断例であった。また、これまでにASPIREで椎体脆弱性骨折を指摘された症例のうち2000例以上は医療機関を紹介受診し適切な治療を受けている。
・院内で開催されている機械学習の勉強会に参加し、自身も(拙いものですが)レントゲンから椎体骨折を診断するソフトを作成した経験がありました。すでにこのようなソフトが作成され、また医療機関での診断支援に実装されているのを拝見し、世界での人工知能(AI)を用いたソフト開発のスピードにあらためて驚かされました。今後、AIによる画像診断支援等の役割はますます高まってくると思い、本演題を紹介させて頂きました。