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ANZBMS 2019 レポート
玉城 沙貴(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 口腔インプラント学分野)

玉城 沙貴
開催地Darwin Waterfront内遊歩道から撮影したパノラマ写真,右端白く細長い建物が会場

紹介演題 [1]
Mice with myocyte-deletion of vitamin D receptor (VDR) have sarcopenia and impaired muscle function

キーワード

Vitamin D, Myocyte Cre/LoxP

著者

Prof. Jenny Gunton

  • Westmead Institute
サマリー&コメント

多数の観察研究によりビタミンD不足と身体能力の低下の関連性が示されているが、ビタミンD補充介入研究では、投与条件により結果に違いが生じている。ビタミンDと筋の直接的関係を明らかにすべく、発表者らはCre/LoxPシステムによりマウスの遺伝子を組み替え、骨格筋細胞のVDRのみが特異的にノックアウトされたマウスモデル(mVDR)を作製し、握力、骨密度、自発的運動量をコントロール群(Floxed)と比較した。10週、13週、17週のすべての観察ポイントにおいてmVDRではFloxedと比較して握力が7~14%低く、13週に行った運動と体組成、筋肉量測定においては、mVDRでは自発的運動は速度が緩慢になり、運動距離も減少し、さらに体重は増加したのに対し除脂肪量は減少、筋量も減少していることが明らかとなったが、筋繊維は予想に反して大きくなっていた。そこで筆者らは、mVDRマウスの四頭筋の細胞周期の変化の検索を行い、細胞周期を進行させる遺伝子群であるCyclinD1, CyclinD2, CyclinD3, Cdk2, Cdk4が抑制される一方、細胞周期進行を抑制するp19, p21, p27などの遺伝子に影響は認められないことを確認し、G1期からS期への移行が妨げられたことがmVDRマウスの筋繊維の増大と関係していると結論付けた。さらにmVDRマウスでは筋の収縮弛緩に必要なカルシウムポンプであるSerca2b, Serca3, カルシウムバッファーであるCalbindin-D28Kの発現が低下していることも分かっており、このことが握力低下の原因となっている可能性も示唆された。以上から、ビタミンDシグナリングは筋の大きさや機能の維持にかかわることが明らかになっているため、長期活性型VDR類似薬は加齢関連性筋力低下の治療戦略の一つになりうるという結論が示された。

演題紹介者の講座でも病態を模したモデルマウスを作製し、疾患の病態を明らかにする研究を行っており、他のモデルマウスの作製にも興味を持っていました。本発表では、cre/loxシステムによる遺伝子変異操作によるモデルマウスの作製について非常にわかりやすく説明されており、結果もクリアで、さらにビタミンDの運動機能に関する研究は時代のニーズから見ても有意義と思われたので、本発表を紹介しました。

紹介演題 [2]
Increased osteocloast activity precedes rebound bone loss following withdrawl of RANKL inhibition

キーワード

RANKL, Denosumab, rebound

著者

Michelle McDonald

  • Garvan Institute
サマリー&コメント

デノスマブの休薬後のリバウンド骨吸収による急速なBMDの低下や椎骨骨折増加が問題となっている。本発表では、RANKL抑制中止後のリバウンド骨吸収は破骨細胞の急速な増加によって引き起こされると仮説を立て、RANKL抑制中止後の骨量、構造、破骨細胞機能の変化を調べること、および、RANKL抑制中止後のリバウンド骨吸収の裏に潜むメカニズムを同定することを目的として、RANKL抑制剤としてOPG-Fcを用いて実験を行っている。2週間のOPG投与後に休止期間を3週と10週として骨量・骨構造、血清TRAPを検索した結果、RANKL抑制休止の影響がマイクロCT解析における骨量や骨構造に現れるのに先立って、血清TRAP値が上昇することがわかった。さらに休止期間を15週とした群の結果をあわせると、血清TRAP値は休止直後~10週の期間に急速に上昇し、休止群の骨量が非投薬群のBMDを下回る前にそのピークに達することが示された。さらに、骨吸収亢進の背後には破骨細胞の融合と分裂のリサイクル機構が関係していると考え、破骨細胞の真球度の解析結果から、OPG投与下では抑制されていた破骨細胞の融合が抑制の休止により急速に引き起こされることがわかった。

以上の結果から、発表者は結論としてRANKL抑制の休止による骨吸収の抑制とそれに先立ち上昇した血清TRAP値を休止後の骨折リスクを予測するマーカーとして利用したり、破骨細胞のリサイクリングを抑制することによる骨折リスクの抑制への応用することが今後できるようになる可能性があると結論付けた。

演題紹介者が今回ANZBMSで発表した内容は、デノスマブ休止により作製したDRONJ治癒マウスモデルを使用しており、リバウンド骨吸収は重要な検討課題のひとつとして興味を持っていました。また、学術的にも臨床的にもデノスマブの休止後のリバウンド骨吸収については学会等で注目されている事象であり、動物モデルにおいて骨吸収とTRAP値上昇のタイミングの差異や仕組みを明らかにし、予測法や治療法について展望を示した本研究は価値があると思い、紹介いたしました。