日本骨代謝学会

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ANZBMS 2019 レポート
谷本 幸多朗(徳島大学大学院 医歯薬学研究部 口腔顎顔面矯正学分野)

谷本 幸多朗

紹介演題 [1]
Single Cell Ligand-Receptor Mapping of the Endosteal Bone Niche Identifies Regulators of Tumour Cell Dormancy

キーワード

多発性骨髄腫、内骨膜ニッチ、DTC

研究グループ

Alexander P Corr[1][2], Ryan C Chai[1], Weng Hua Khoo[1], Matthew A Summers[1][2], John A Eisman[1][2][3], Paul A Baldock[1][2][3], Peter I Croucher[1][2]

  • [1] Bone Biology, Garvan Institute of Medical Research, Sydney, NSW, Australia
  • [2] St Vincent’s Clinical School, Faculty of Medicine, UNSW, Sydney, NSW, Australia
  • [3] School of Medicine Sydney, University of Notre Dame Australia, Sydney, NSW, Australia
サマリー&コメント

多くの癌で骨転移の再発は死亡の重要な原因となっている。原発巣が治療により消失したと思われた場合でも、数年後転移による骨に再発が起こることがあり、これは骨微小環境に治療抵抗性の休眠腫瘍細胞(DTC)が潜み再活性化することによると考えられている。しかし、腫瘍細胞に休眠をもたらす分子メカニズムや骨微小環境の役割についてはほとんど解明されていない。本研究者らは骨内膜ニッチに存在する細胞が特定のリガンド受容体を介してDTCを誘導するという仮説を立て研究を行った。

SMART-Seqプラットフォームを用い、骨内膜ニッチで分裂のしないDTC状態および活性化増殖状態の5TGM1マウス骨髄腫細胞をそれぞれ36、43個回収しトランスクリプトーム配列を決定し、DTC状態と関連する遺伝子を特定した。DTCと骨内膜の細胞間の相互作用をモデル化した結果、214種のリガンドー受容体の組み合わせのパターンが特定された。骨芽細胞はこの特定した受容体のほとんどを発現しており、マクロファージおよび内皮細胞もその一部を発現していた。骨芽細胞系の細胞を高解像度マッピングで検討したところ、CXCL12-abundant reticular(CAR)細胞がDTCとニッチの相互作用に関わる受容体を最も多く発現しており、そのうちAxl-Gas6が最もDTCとの関係性が高かった。実際in vivoにおいてAxl-Gas6を阻害するとDTCが増殖するようになった。

本研究は、シングルセルの転写データを用いDTCと骨内膜ニッチにおける細胞間リガンドー受容体コミュニケーションをモデル化し、得られたネットワークモデルにより腫瘍細胞の休眠に重要な因子の候補を選出したものである。本研究はDTCを標的とした、骨髄腫に対する新たな再発抑制療法の開発につながる可能性があり、今後のさらなる検討が期待される。

紹介演題 [2]
Upregulated macrophage distribution in reduced osteonecrosis of the jaw-like lesions by the discontinuation of anti-RANKL antibody in mice.

キーワード

BRONJ、デノスマブ、mAb

研究グループ

Saki Tamaki , Shinichiro Kuroshima , Hiroki Hayano , Maaya Inoue , Kazunori Nakajima , Muneteru Sasaki , Takashi Sawase

  • Department of Applied Prosthodontics, Graduate School of Biomedical Sciences, Nagasaki University, Nagasaki City, Nagasaki, Japan
サマリー&コメント

デノスマブに関連した顎骨壊死(DRONJ)は、患者のQoLを大きく低下させる。しかし、DRONJの発症メカニズムと治療方法はいまだ不明のままである。本研究者らは抗RANKL中和抗体(mAb)を用いてDRONJ様病変のモデルマウスをつくり、免疫病理学的検討を行った。

C57BL/6Jマウスを用い、シクロホスファミド(CY)とmAbの併用投与を行った。薬物療法3週間後に左右の上顎第一大臼歯を抜歯した。その後ONJ様病変が認められたマウスは、mAb投与継続群(mAb-C)とmAb中止群(mAb-D)の2つのグループにランダムに分けられた。抜歯後5週および7週でマウスを安楽死させ病理学的検討を行った。抜歯後5週および7週の時点でmAb-C群では骨が露出したままだったが、mAb-D群では創傷が縮小した。mAb中止後2週で、コラーゲン産生と生体骨が増加し、骨細胞密度の増加とともにempty lacunaeと好中球が減少し骨壊死が有意に改善していた。また、mAb-D群では抜歯窩の結合組織におけるマクロファージの分布がmAb-Cと比較し減少していた。抜歯窩における血管新生とリンパ管新生は、mAb中止後2週間でmAb-C群とmAb-D群の間で明らかな違いはなかった。

本研究より抜歯窩における好中球やマクロファージの蓄積がCY/mAb誘発ONJ様病変の発生に関与していることが示唆された。抜歯や外科的侵襲による顎骨壊死のメカニズムはいまだ解明されておらず、重要な研究と思われる。