骨ルポ
ASBMR 2019 レポート
北條 宏徳(東京大学 疾患生命工学センター)
学会では多くの日本人研究者が活躍されており刺激を受けました。
紹介演題 [1]
The epigentic basis for bone development and homeostais: the role of Vitamin C
キーワード
骨芽細胞、エピゲノム、ビタミンC
研究グループ
Roman Thaler, Andre van Wijnen et al.
- Mayo Clinic, USA
サマリー&コメント
ビタミンCは骨形成において必須であり、その作用機序は、プロリンヒドロキシ化によるコラーゲン成熟と架橋結合にはたらくと考えられてきた。しかしながら、演者らはゲノムワイドなエピゲノム解析により新たな作用機序を提唱した。次世代シーケンサーを用いた解析により、ビタミンC欠損が、骨芽細胞転写因子・分化マーカーのmRNA発現減少、DNAメチル化・ヒストンメチル化のグローバルな亢進、および能動的DNA脱メチル化酵素(5-hydroxylation-methylcytosine, 5hmC)の顕著な減少を引き起こすことが明らかになった。ビタミンC存在下において、5hmCは、特に骨格形成にかかわる遺伝子群の転写開始点近傍、遺伝子領域内および遠位エンハンサー領域において強く標識され、ビタミンC依存的な骨芽細胞特異的遺伝子群の発現制御機構の存在が示唆された。
骨分化誘導培地などにおいて伝統的に使用しているビタミンCが、細胞のエピゲノム状態をグローバルに制御しているとの知見には驚いた。その詳細な作用機構の解明が待たれると同時に、in vivoにおいても同様の機構がはたらいているのか興味がわいた。
紹介演題 [2]
Stimulation of Piezo1 by Mechanical Loading Promotes Bone Anabolism
キーワード
骨細胞、カルシウムチャネル、力学的負荷
研究グループ
Xuehua Li, Jinhu Xiong et al.
- University of Arkansas for Medical Sciences, USA
サマリー&コメント
骨基質に埋没し存在する骨細胞は、力学的負荷の刺激を、カルシウムチャネルを介して感知し、骨形成と骨吸収を制御することが知られている。しかしながらその詳細な作用機序は十分に明らかになっていなかった。演者らは、骨細胞株MLO-Y4においてfluid shear stressにより誘導される遺伝子を同定するためRNA-seq解析を行った。その結果、78あるカルシウムチャネルの内、Piezo1が最も顕著にその発現が誘導されることを見出した。次に骨細胞におけるPiezo1機能を明らかにするため、Dmp1-CreマウスとPiezo1-floxマウスを用いて、組織特異的Piezo1欠損マウスを作出した。解析の結果、遺伝子変異マウス骨組織において、野生型マウスと比較して、骨量、骨強度、骨形成率および骨芽細胞数の減少が認められたのに対し、破骨細胞数の増加が認められた。さらに、Piezo1活性化低分子化合物Yoda1の投与は、力学的負荷による骨同化作用と類似の効果を有することが明らかになった。
遺伝子プロファイル解析による標的遺伝子の同定、マウス遺伝学を用いた機能解析および低分子化合物を用いた治療効果の検証と、一連の研究の流れが素晴らしく、感銘を受けた。治療薬としての有効性、組織特異性、副作用に関するさらなる研究が待たれる。
学会ではお世話になっている先生方とゆっくりお話ができ貴重な時間となりました。