日本骨代謝学会

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JSBMR×医薬ジャーナル社共同企画

ASBMR 2018 シニアレポーター レポート
髙士 祐一(徳島大学先端酵素学研究所 糖尿病臨床・研究開発センター)

 2018年9月28日〜10月1日,カナダのモントリオールで米国骨代謝学会(ASBMR)2018が開催された。本稿では,臨床の観点から骨粗鬆症以外の骨・ミネラル代謝研究に焦点を当てる。当該分野におけるトピックスの一つは,これまで治療が困難とされてきた稀少疾患に対する研究・開発の進歩である。中でも,FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の新規治療薬であるburosumab関連の報告が多く見られた。また,筋肉,オステオカルシン,ビタミンD,腸内細菌叢をキーワードとする研究報告について紹介する。

はじめに

 2018年のASBMR annual meetingは,カナダのケベック州,モントリオールで9月28日から10月1日までの4日間開催された。9月下旬のモントリオールは肌寒かったが,晴天に恵まれ過ごしやすかった。現地で驚いたのは,街の人の話す言語やアナウンス,道路標識などがフランス語であることだ。モントリオールは北米のパリと呼ばれるフランス系カナダ人の街である。基本的に第一言語はフランス語で,第二言語として英語を使うそうだ。モントリオールにはマギル大学があり,日本人留学生も多く在籍する。

 さて本稿では,骨粗鬆症以外の骨・ミネラル代謝研究に関する臨床系トピックスに焦点を当てる。トピックスの一つは,2018年にアメリカ食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品庁(EMA)の承認を受けた完全ヒト型抗FGF23(fibroblast growth factor 23)抗体,burosumabであり,FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症に関しては多くのセッションが開催された。また本年度のLouis V. Avioli Lectureは,Brendan Leeが,From rare skeletal diseases to genetic determinants of skeletal homeostasisというタイトルで講演した。学会全体を通じて,稀少疾患に対する研究・開発の進歩は印象的であった。さらに,本学会のオープニングとして恒例のJohn BilezikianによるClinical science meeting overviewの中では,筋肉,オステオカルシン,ビタミンD,腸内細菌叢などのキーワードが挙げられた。本稿ではこれらのトピックスを紹介する。

髙士 祐一
写真1:カラフルな外装の映える,モントリオールコンベンションセンター。地下鉄の駅が直結しており,利便性はいい。

髙士 祐一
写真2:モントリオールは北米のパリと呼ばれる。街の人の会話やアナウンス,道路標識などは基本的にフランス語である。

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症およびburosumab

 FGF23は骨(主に骨細胞)より分泌され,血中リン濃度を低下させるホルモンである。いくつかの遺伝子異常やFGF23産生腫瘍によりFGF23の作用が過剰となると,低リン血症性くる病・骨軟化症が惹起される。本症に関して,Erik Imel,Thomas Carpenter,Suzanne Jan De Beurをコメンテーターとして,診断に難渋している症例を議論するというNew! challenge the expertsというセッションが行われた。提示されたのは典型的な経過を示すFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の症例であったが,既知のPHEXFGF23,DMP1,ENPP1などの遺伝子に変異を認めなかった。未知の責任遺伝子の存在が示唆されるような症例であった。本セッションで驚いたことには,米国では臨床の現場においてほとんどの場合,血中FGF23濃度を測定できない状況にあるとのことであった。本邦でもFGF23の測定は現在保険未収載であるが,保険収載に向けて検討されている。

 FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症に対する新規治療薬である完全ヒト型抗FGF23抗体,burosumabのいくつかの臨床試験の結果が報告された。小児X染色体優性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLH)に対する無作為化オープンラベル第㈽相臨床試験では,リンおよび活性型ビタミンD製剤による従来治療群を対照群として,0.8 mg/kgからのburosumab,2週間毎の40週間皮下投与の成績が報告された。その結果burosumab投与群において,従来治療群に比較し有意な血清リン濃度の上昇やRSS(Thacher Rickets Severity Scoring)やRGI-C(Radiographic Global Impression of Change)などのくる病スコアの改善を認めた(LB-1168)。成人XLHに対する無作為化二重盲検プラセボ対照第㈽相試験では,1mg/kgのburosumabを4週間毎に皮下投与したところ,やはりburosumab投与群において,プラセボ群に比較し有意な血清リン濃度の上昇および身体機能スコアの改善などが認められた(LB-1169)。小児XLHに関しては,64週間までの長期投与の結果も報告されたが,64週間後においても血清リン濃度およびくる病スコアの有意な改善が維持され,特記すべき有害事象は認められなかった(#1154)。さらに,成人腫瘍性骨軟化症(TIO)に対するオープンラベル第㈼相臨床試験では,0.3〜2.0 mg/kgの burosumabを4週毎に皮下投与したところ,血清リン濃度を上昇させ,身体機能やQOL,易疲労感の改善を認めた(#1153)。

FDA:アメリカ食品医薬品局
EMA:欧州医薬品庁
FGF23:fibroblast growth factor 23
XLH:X染色体優性低リン血症性くる病・骨軟化症

筋肉増強に関する創薬研究

 近年,筋肉をテーマとした研究が加速しつつある。筋量および筋力の低下を主徴とするサルコペニアと呼ばれる病態の認知度が高まるとともに,筋肉を増強させることができる新規治療薬の登場が期待されている。本学会においても,VK5211という選択的アンドロゲン受容体作動薬(SARMs)の第㈼相臨床試験の結果が発表された(#1072)。本試験では,大腿骨近位部骨折後の筋量低下に対する効果が検討された。VK5211はステロイド骨格を持たず,経口投与が可能であることが特徴である。平均年齢77歳の108例の大腿骨近位部骨折受傷患者を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照試験で,12週間にわたり1日1回のVK5211経口投与(0.5 mg,1.0 mg,2.0 mg)を行った。結果,VK5211投与群ではいずれの投与量においても除脂肪体重がプラセボ群に比して有意に高値となった。さらに,6分間歩行や身体機能についても有意な改善が認められた。今後サルコペニア治療薬候補として,さらなる検証が待たれる。

RSS:Thacher Rickets Severity Scoring
RGI-C:Radiographic Global Impression of Change
TIO:成人腫瘍性骨軟化症

オステオカルシン

 2007年のGerard Karsentyらのグループの報告以降,オステオカルシンがホルモンとしての作用を有し,糖・エネルギー代謝に関与していることが,基礎的検討を中心に明らかとなってきた。しかし,この作用がヒトにおいても認められるかについては未だに議論が絶えない。Cyrille Cinfavreuxらは,323名のコホートを5年間前向きに追跡し,血清オステオカルシン濃度と2型糖尿病の発症との関連を調査した(#1049)。その結果,血清オステオカルシン濃度の低値は2型糖尿病の発症に有意に関連しており(HR=1.81,p<0.05),ROC曲線からそのカットオフ値は14.8 ng/mLであった。これまで,ヒトにおけるオステオカルシンの成績は横断研究や後向き研究に留まっていた。本研究は,ヒトにおいてもオステオカルシンが糖・エネルギー代謝に関連していることを前向きに示した貴重な報告であると考えられる。

SARMs:選択的アンドロゲン受容体作動薬
PTH:副甲状腺ホルモン

ビタミンDと心血管疾患

 ビタミンD欠乏は骨疾患のみならず,癌や自己免疫疾患,メタボリック症候群などの発症に関係していることが明らかとなってきている。本研究では,血清25-水酸化ビタミンD濃度が心血管疾患と関連しているか,Rochester Epidemiology Projectの11,022人のコホートを用いて後方視的に検討した(#1116)。平均フォローアップ期間4.8年の間に4,355の心血管疾患の発症があった。各因子で補正後,血清25-水酸化ビタミンD濃度12 ng/mL未満および12〜19 ng/mLのビタミンD欠乏群では,それぞれHR 1.33(1.17-1.51),1.22(1.12-1.33)と有意に心血管疾患が多かった。意外なことに,有意ではなかったものの,血清25-水酸化ビタミンD濃度50 ng/mL以上のビタミンD過剰群においてもHR 1.15(1.00-1.31)と心血管疾患が多いという結果になった。ビタミンDの充足状態は,様々な疾患の発症と関係することが報告されているが,その詳細については不明な点も多い。さらなる研究の進捗が期待される。

腸内細菌叢とPTH

 近年,腸内細菌叢が骨の健康状態にも関係していることが明らかとなってきている。Jau-Yi Liらは,マウスモデルを使って腸内細菌叢と副甲状腺ホルモン(PTH)の関係性を検討した(#1106)。骨に対する持続的なPTH作用は,原発性副甲状腺機能亢進症に認められるように,骨の異化を促進する。一方,既にテリパラチドという骨粗鬆症治療薬が存在するように,PTHの間欠的投与は逆に骨の同化を促進する。本研究では,無菌マウスないし抗生剤により腸内細菌叢を除菌したマウスにPTHを間欠的に投与しても,骨量の増加が認められなかった。さらに興味深いことに,これらのマウスではPTHの持続投与による骨量減少も認められなかった。演者らは,腸内細菌叢の存在がPTHに対する骨の表現型の出現に必須であり,この作用には制御性T細胞/Wnt10bシグナルやTNF/IL-17/RANKL経路が関与していることを示した。PTHの骨への相反する効果の機序についてはこれまで不明であったが,腸内細菌叢が関係しているという知見は興味深かった。  

 

髙士 祐一
写真3:骨のリン感知機構の解明をテーマとした筆者(左)のポスター発表にて, 福本誠二先生(右)と。多くのリン代謝の研究者が,リン感知機構に注目していることを再認識した。

おわりに

 筆者が初めてASBMRに参加したのは2015年にSeattleで開催された時であった。本年の学会は,当時に比べるとやや規模が縮小した印象を受けた。これまで骨代謝研究領域のメインストリームであった骨粗鬆症治療薬の開発が一段落し,今後は稀少疾患に対する新規治療法の開発や,骨・筋肉・軟骨などを含めて広く運動器としてとらえる視点,また臓器連関における骨という視点が強まっていくものと考えられた。