日本骨代謝学会

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JSBMR×医薬ジャーナル社共同企画

ASBMR 2018 シニアレポーター レポート
小林 泰浩(松本歯科大学 総合歯科医学研究所 硬組織機能解析学)

 2018年9月にモントリオールで米国骨代謝学会(ASBMR 2018)が開催された。破骨細胞およびWntシグナルに関するトピックスを紹介する。

はじめに

 ASBMR 2018は,カナダ・ケベック州のモントリオールにて9月28日から4日間にわたりPalais des congrès de Montréal(モントリオール国際会議場)で開催された(写真1)。モントリオールでの開催は,2008年以来の2回目である。国際会議場の色ガラスが,10年前と同様に太陽に照らされ輝いていた(写真1)。会場近くは,フランス統治時代の旧市街に近く,落ち着いた静かな雰囲気であった。例年のようにGerald D. Aurbach lectureから始まった。今年は,Laurie Grimcher教授が,「Building Bone By Targeting the Schnurri3 Pathway」と題し,骨代謝におけるSchunurri3の役割を講演した。その後,John Bilezikian教授による臨床研究演題のハイライトと,Roland Baron教授による基礎研究ハイライトの紹介が続いた。今年は,1,304演題が登録された中で,35演題(2.7%)がプレナリーオーラルに,122演題(9.3%)がコンカレントオーラルに選ばれた。オーラル演題に選ばれることは狭き門である。日本の研究室からは,プレナリーオーラル1演題(#1044,慶応義塾大学,黒田有希子先生)とコンカレントオーラル2演題(#1103,北海道大学,佐藤 大先生;#1124,埼玉医科大学,塚本 翔先生)が選ばれた。また,ここ数年で,オーラルセッションの内容がずいぶん様変わりした。昨年の宮本健史先生(慶応義塾大学)の報告によると,Osteoclasts,OsteoblastsやOsteocytesのオーラルセッションが1ずつあったようであるが,今年は,Osteocytesが1セッション,Osteoclasts and OsteoblastsおよびOsteoblast and osteocyte biologyというセッションがそれぞれ1つであった。代わりに,骨髄環境,間葉系幹細胞や筋と骨の細胞の相互作用に関連するセッションが目を引いた。

小林 泰浩
写真1:モントリオール国際会議場。壁の色ガラスが美しく輝いていた。

骨吸収に関連したトピックス

紹介演題 [1]
TRAPは骨リモデリング部位における新規骨形成因子である(#1130)

 ロチェスター大学のグループは,酒石酸耐性酸ホスファターゼ(TRAP)と結合するTRIP(TGF-βreceptor interacting protein)を同定した。TRAPは,骨芽細胞の細胞質に入り,TRIPを脱リン酸化する。脱リン酸化TRIPは核内に移行し,骨芽細胞の分化を促進する。TRIPをノックダウンするとオステオカルシン,アルカリホスファターゼ,Ⅰ型コラーゲンの発現が低下した。TRAPノックアウトマウスは,骨吸収が低下した骨量増加を示すことが報告されている(Mech Dev 129:162-176, 2012)。TRAPノックアウトマウスおよびTRIPノックアウトマウスの骨形成の解析が待たれる。

TRAP:酒石酸耐性酸ホスファターゼ
TRIP:TGF-βreceptor interacting protein

紹介演題 [2]
骨細胞が分泌するRANKLは加齢に伴う皮質骨の減少に必要である(#1035)

 アーカンソー大学のObrienらは,骨細胞でreceptor activator of NF-κB ligand(RANKL)が欠損したマウス[RANKL-conditional knock out(cKO)]の骨を解析した。対照の脊椎骨密度は20カ月から減少したが,RANKL-cKOの骨密度は増加し続けた。対照マウスの皮質骨の厚さは24カ月齢で有為に減少したが,RANKL-cKOの皮質骨の厚さは増加した。加齢に伴い皮質骨のRANKL発現が増加することから,骨内膜面の骨吸収に骨細胞が産生するRANKLが関与していることを示唆する。

RANKL:receptor activator of NF-κB ligand
cKO:conditional knock out

紹介演題 [3]
RANKL陽性形質細胞性B細胞およびTGF-β陽性骨髄細胞は,老化に伴って骨髄に引き寄せられ,TRAF3依存的な機構によって骨吸収が増加し骨形成が抑制されることで,骨粗鬆症が悪化する(#1036)

 ロチェスター大学のBoyceらは,加齢に伴い骨髄中のRANKLおよびtransforming growth factor-β(TGF-β)レベルが増加する。これにより,NF-κBシグナルの抑制因子であるTRAF3の分解が骨芽細胞と破骨前駆細胞で起こり,骨吸収が亢進することを示した。骨髄間葉系細胞あるいは骨髄系細胞でのTRAF3 cKOマウスは,加齢に伴う骨粗鬆症が悪化した。骨髄系細胞がTGF-βのソースであり,形質細胞性B細胞がRANKLのソースであることを示した。C-X-C chemokine receptor type 4(CXCR4)アンタゴニストPlerixaforとC-C chemokine receptor type 5(CCR5)アンタゴニストであるMaravirocを投与し,これらの細胞の骨髄への遊走を阻害すると,骨量が増加した。これらの薬剤が加齢に伴う骨粗鬆症に効く可能性を示した。

TGF-β:transforming growth factor-β
CXCR4:C-X-C chemokine receptor type 4
CCR5:C-C chemokine receptor type 5

紹介演題 [4]
破骨細胞由来のオートタキシンは,炎症時の骨吸収を制御する特徴的な因子である(#1131)

 オートタキシン(ATX)は,リゾホスファチジルコリンをリゾホスファチジン酸に変換する酵素である。ATXは,関節リウマチ(RA)患者の滑液中で増加し,滑膜炎症に関与する。フランス国立保健医学研究機構のグループは,骨吸収におけるATXの役割を報告した。破骨細胞特異的ATX cKOマウスの骨量は正常であった。しかし,lipopolysaccharide(LPS)投与による骨量減少がcKOマウスでは認められなかった。また,cKOマウスでは,関節炎による骨破壊が認められなかった。破骨細胞由来のATXは炎症性骨吸収を促進する因子である。今後,メカニズムの解析が待たれる。

ATX:オートタキシン
RA:関節リウマチ
LPS:lipopolysaccharide

紹介演題 [5]
破骨細胞が産生するSfrp4はWnt非古典系路を阻害し,破骨細胞形成を阻害する(FRI0596)

 Pyle病は皮質骨の菲薄化による易骨折性が特徴の遺伝病である。ハーバード大学のGoriらは,Pyle病の原因が,Wnt阻害因子Sfrp 4(secreted frizzled-related protein 4)の機能喪失変異であることを報告した(New England J Med, 2016)。今回は,そのメカニズムを解析した。Sfrp 4欠損マウス由来の前駆細胞の培養では,RANKL誘導性の破骨細胞形成が亢進した。また,Sfrp 4を添加すると,破骨細胞形成が抑制された。Wnt古典経路の阻害ではなく,Wnt非古典経路の阻害あるいはRor2のノックダウンにより,破骨細胞形成は低下した。Sfrp 4欠損により,Wnt非古典経路が活性化され,骨内膜の骨吸収が亢進することが示された。破骨細胞分化にRor2を介した非古典経路が重要であることが示された。

Sfrp 4:secreted frizzled-related protein 4

Wntシグナルのトピックス

紹介演題 [1]
骨芽細胞由来のNotumはマウスの皮質骨を減少させる。また,Notum遺伝子は,ヒト骨塩量と関係する(#1042)

 Notumは,Wntのもつパルミトオレオイル基を切断し,Wntと受容体との結合を阻害する結果,Wntを抑制する(Nature 519:187-192, 2015)。本演題は,Notum+/−マウスと骨芽細胞特異的cKOマウスを解析した。Notum+/−マウスでは,皮質骨の厚さが増加し,骨量も増加した。cKOマウスにおいても,皮質骨の骨量の増加が認められたが,海綿骨量の増加は認められなかった。骨芽細胞系細胞は,皮質骨におけるNotumのソースとして重要であり,Notumは皮質骨形成を抑制していることが示された。また,ヒト遺伝学解析により,Notum遺伝子上の2つのSNPが骨密度と関係することが示された。

紹介演題 [2]
WntアゴニストR-spondin3:予想外の骨形成ネガティブ調節因子(#1087)

 E3ユビキチンリガーゼZNFR3は,Wnt受容体Frizzledをユビキチン化し,分解を促進する。R-spondinはZNFR3を抑制し,Wntシグナルを亢進させる(Nature 488:660-668, 2012)。ハーバード大学の永野らは,R-spondin3がWnt阻害因子であることを報告した。R-spondin3は骨組織で強く発現した。R-spondin3+/−マウスは骨形成が亢進し,骨量が増加した。ヘテロ欠損マウス骨髄間葉系幹細胞は,著しい増殖と骨芽細胞への分化促進を示した。欠損マウス胎児由来線維芽細胞は,extracellular signal-regulated kinase(ERK)とWnt/β-カテニンシグナルの活性化が起こり,これにより骨芽細胞分化が亢進した。以上の結果は,R-spondin3が骨形成抑制因子であることを示しており,非常に興味深い。

ERK:extracellular signal-regulated kinase

紹介演題 [3]
脂肪細胞および骨芽細胞によるLrp4発現は,スクレロスチンの内分泌作用を調節する(#1030)

 スクレロスチンのWntシグナル抑制作用には,LDL receptor-related protein 4(Lrp4)が必要である。ジョンホプキンス大学のクレメンスのグループは,骨芽細胞特異的Lrp4 cKOマウス(ObΔLrp4)と脂肪細胞特異的Lrp4 cKOマウス(AdΔLrp4)を作製し解析した。AdΔLrp4は,肥大化した脂肪細胞が減少し,糖代謝の改善が認められた。一方,ObΔLrp4は,骨量増加は,認められるものの,全身の脂肪量が増加し,糖代謝が障害された。このように,脂肪細胞でのスクレロスチンの作用は,骨での骨形成抑制作用とは異なることが示されており,非常に興味深い。

Lrp4:LDL receptor-related protein 4

紹介演題 [4]
骨細胞バイオロジーと骨細胞の樹状突起形成におけるosterixの役割(#1043)

 ハーバード大学のグループは,骨細胞特異的Sp7(osterix)cKOマウス(OcyΔSp7)を解析した。OcyΔSp7は,骨内膜のリモデリングが亢進し,皮質骨の多孔化を呈した。骨細胞の樹状突起がほぼ消失した。Sp7をノックダウンあるいは過剰発現したOCY454細胞(株化骨細胞)のRNAシークエンス(Seq)解析,Sp7のChiP-Seq解析から,骨細胞の樹状細胞形成にosteocrin(OSTN)とposterior neuron-specific homeobox 3(Pnx3)が重要であることが示された。Sp7は,骨細胞のスクレロスチン発現に必要であることが示されている。今後,スクレロスチン発現と樹状突起形成との関係がさらに明らかになることが期待される。

Seq:シークエンス
OSTN:osteocrin
Pnx3:posterior neuron-specific homeobox 3

紹介演題 [5]
PPARαは,スクレロスチンのネガティブ制御因子である(#FRI0656)

 Peroxisome proliferator-activated receptor-α(PPARα)はエネルギー産生と脂質代謝に関与する転写因子である。本演題は,PPARαがスクレロスチン発現を抑制することを報告した。PPARα−/−マウスは,骨髄脂肪の増加,皮質骨の菲薄化,骨芽細胞数の減少,骨形成の低下と骨吸収の亢進を示した。PPARα−/−マウス由来の骨細胞はスクレロスチン発現が高かった。PPARαアゴニストWY14643はPPARαのSost遺伝子プロモータ上の応答配列PPREへの結合を促進した。PPARαアンタゴニストGW6471はその結合を阻害した。PPARαのPPAR response element(PPRE)への結合は,スクレロスチンプロモータ活性と発現を低下させた。以上から,PPARαがスクレロスチンの発現を抑制することが示された。PPARαがそのプロモータ活性を抑制する機構について,今後の解析が期待される。

PPARα:peroxisome proliferator-activated receptor-α
PPRE:PPAR response element

おわりに

 ASBMR 2018で発表された骨吸収とWntに関するトピックスを紹介した。紙面の都合上,独断で10演題を紹介させていただいた。骨髄間葉系幹細胞やCXC motif chemokine ligand 12(CXCL12),外骨膜のカテプシンK陽性骨性幹細胞やマイオカインであるイリシンなど,多くの興味深い演題があった。ASBMRで発表された研究の広がりや多様性をあらためて感じる学会であった。

CXCL12:CXC motif chemokine ligand 12

小林 泰浩
写真2:中華レストランでの筆者たち。中華街はそれほど大きくはないが,にぎわっていた。お客さんでにぎわっているレストランに入り,チンタオビールと北京ダックに舌鼓をうった。