日本骨代謝学会

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ASBMR 2018 レポート
塚本 翔(埼玉医科大学 ゲノム医学研究センター 病態生理部門)

塚本 翔

紹介演題 [1]
The TGFβ Receptor ALK5 is an Essential Regulator of BMP Signaling in the Growth Plate

キーワード

TGF-β、軟骨細胞

研究グループ

Weiguang Wang, Hyelim Chun, Karen Lyons

  • University of California, Los Angeles
サマリー&コメント

Transforming growth factor-β (TGF-β)は、成長板軟骨の形成や関節軟骨の維持に重要なことが知られているが、TGF-βシグナルの軟骨組織における機能は未だ不明な点が残されている。TGF-βは、ALK5受容体を介して転写因子Smad2及びSmad3を活性化し標的遺伝子を誘導する。発表者のグループは、軟骨細胞特異的なSmad2/Smad3ダブルノックアウト及びALK5ノックアウトマウスを樹立し解析を行った。Smad2/Smad3ノックアウトマウスは、出生後に成長板軟骨の異常と変形性関節症様の表現型が観察された。一方、ALK5ノックアウトマウスは、致死性の重篤な軟骨形成不全を示した。この結果は、ALK5の生物活性にSmad2/3を介さない経路が存在することを示唆する。予想外なことに、ALK5ノックアウトマウスは、BMP受容体によってリン酸化されるSmad1/5の活性化が認められた。そこで、BMP受容体のALK1ノックアウトマウスを掛け合わせ、ALK1/ALK5ダブルノックアウトマウスを樹立した。すると、ALK5ノックアウトマウスの重篤な軟骨形成不全が消失した。また、in vitroの解析から、ALK5をノックアウトした軟骨細胞では、BMP9の反応性が亢進し、ALK5とALK1が複合体を形成することが判明した。以上の結果より、軟骨組織において、TGF-β受容体ALK5は、BMPシグナルを抑制しているという新たなメカニズムが明らかとなった。TGF-βファミリーのシグナル伝達がTGF-β受容体とBMP受容体の複合体によって調整されているという知見は大変興味深い。TGF-βファミリーは、リガンド-受容体-Smadによる一連のシグナル伝達だけではなく、生理的には受容体同士あるいはSmad同士の競合が重要なのかもしれない。

紹介演題 [2]
Activin type 1 receptor ALK4 regulates postnatal bone mass

キーワード

TGF-βファミリー、骨形成

研究グループ

Shek Man Chim, David Maridas, Laura Gamer, Vicki Rosen

  • Harvard School of Dental Medicine
サマリー&コメント

TGF-βファミリー受容体のALK4の骨格に対する影響を遺伝子改変マウスで解析した発表です。ALK4 flox/floxとPrx1-Creを交配し骨格前駆細胞でALK4が欠失するマウスを樹立した。新生児マウスをアリザリンレッド及びアルシアンブルーで染色し骨格標本を作製すると、ALK4ノックアウトマウスの骨格は正常であった。しかし、成長期のALK4ノックアウトマウスの海綿骨をマイクロCT解析すると、コントロールと比較して2ヶ月齢では32%、6ヶ月齢では67%の骨量増加が認められた。さらに、骨形態計測の結果から破骨細胞数に変化はなく、ALK4を介したシグナルが骨形成を亢進していることが判明した。骨組織からタンパクを抽出しウエスタンブロットを行うと、BMPシグナルの指標であるリン酸化Smad1/5は変化がないのに対し、TGF-β/Activinシグナルの指標であるリン酸化Smad2/3は、ALK4ノックアウトマウスで有意に減少していた。また、ALK4を活性化するリガンドのActivinの血中レベルが加齢と共に上昇することが判明した。以上の結果から、Activin-ALK4-Smad2/3経路が、出生後の骨形成に重要なシグナルであることが示唆された。近年、BMP受容体のALK2やALK3の骨芽細胞特異的ノックアウトマウスについても、骨量が増加することが報告されており、今後、TGF-βスーパーファミリー (BMP, GDF, TGF-β, Activin)が、生理的に骨成長や骨量維持にどのように作用しているのか、従来とは異なる概念から明らかになっていくのではないかと感じた。