骨ルポ
ASBMR 2018レポート
鈴木 孝子(信州大学医学部 整形外科)
ASBMRと同時開催されたMechanistic and Therapeutic Advances in Rare Skeletal Diseasesにも参加してきました。大会長のBrendan Lee先生(左)とMaurizio Pacifici先生(右)
紹介演題 [1]
A novel TRPS1 mutation in a patient with tricho-rhino-phalangeal syndrome provides further support for the importance of this zinc-finger transcription factor in skeletal development
キーワード
遺伝子変異、骨系統疾患
研究グループ
Anara Karaca, Lauren Toyomi Shumate, Monica Reyes, Isilay Taskaldiran, Tulay Omma, Nese Ersoz Gulcelik, Murat Bastepe
- Endocrine Unit, Massachusetts General Hospital and Harvard Medical School
サマリー&コメント
短指趾症タイプE (BDE)は常染色体優性遺伝であるが臨床的には手指足趾の短縮を示し、成長板の軟骨成熟に重要な役割を果たす遺伝子(PTHLH、PRKAR1A、PDE4D、HOXD13、HDAC4やTRPS1など)の異常によって引き起こされる。
本演題では血縁関係のない、BDEを有する二人のトルコ人患者について報告された。一人目の患者は重度のBDEと低身長を示し、二人目の患者は比較的軽度のBDEと正常身長を示した。両患者においてPTHLH、PDE4D及びTRPS1遺伝子のサンガーシーケンスを行った。その結果、一人目の患者ではTRPS1の第6エクソン上に新規ミスセンスヘテロ変異(c.2783A>G、p. Tyr928Cys)を、二人目の患者では過去に報告のあるTRPS1の第4エクソン上にノンセンスヘテロ変異(c. 1870C>T、p. Arg624Stop) をみとめた。一人目の患者で見出した新規ミスセンスヘテロ変異はTRPS1遺伝子の機能として重要な亜鉛転写抑制因子GATA DNA結合ドメインに位置していた。またこの新規ミスセンスヘテロ変異は健常人のゲノムデータベース上に存在せず、in silicoツールではタンパク質の機能に影響することを示唆したため、本変異は病的効果が強い可能性がある。以上のことから本研究で同定された新規ミスセンス変異を有する患者の方がノンセンス変異を有する患者よりも重症な表現型(低身長など)を示すことが示唆された。
今回二名のBDE患者におけるTRPS1遺伝子変異と表現型の関係性についての報告であった。変異の導入した動物モデルで同様の表現型が見られるかなど今後の研究に大変興味がある。原因遺伝子の機能解明により、将来的な診断マーカーや創薬に繋げてほしい。
紹介演題 [2]
Identifying Molecular Pathways in Autosomal Recessive Hypophosphatemic Rickets Type 2 (ARHR2) by Mapping Genetic Changes Associated with ENPP1 Loss of Function
キーワード
遺伝子変異、骨系統疾患
研究グループ
Nathan Maulding, Kristin Zimmerman, Dillon Kavanagh, Mark Horowitz, Thomas Carpenter, Demetrios Braddock
- Yale University
サマリー&コメント
ENPP1遺伝子の機能喪失型ホモ変異は常染色体劣性低リン血症性くる病タイプII型を引き起こす。本疾患はPHEX遺伝子異常によるX染色体連鎖性低リン血症性くる病と臨床的な鑑別が難しい。ヒトにおいて両遺伝子変異はFGF23の発現を上昇させ、続発性低リン血症(尿中へのリン喪失増加、くる病)を引き起こす。また両疾患の病理所見としてリン補充療法に好反応を示す骨量減少が特徴的である。一方でPHEX遺伝子変異を導入したマウスはヒトの表現型と類似するが、ENPP1変異を導入したマウスでは主に低骨密度、骨粗鬆症といった特徴を示すとともに脆弱性骨折が増加する。
本演題ではENPP1遺伝子機能喪失型ホモ変異と関連した遺伝的経路を見出すために10-23週令のマウスを用いてENPP1遺伝子上に同変異を導入し、RNAシーケンスと定量的PCRを用いた解析結果について報告された。結果、皮質骨においてWnt関連遺伝子であるLRP6、Wnt5a及びβカテニンの発現が減少し、SFRP1とWIF1の発現は上昇した。また骨芽細胞マーカーであるosteocalcin、osterix、 bone sialoproteinの発現は減少した。さらに皮質骨においてOPGの発現低下を介した骨吸収の増加が示され、皮質骨と骨梁の骨密度減少と脆弱性骨折増加をみとめた。
つまり、ENPP1遺伝子の機能喪失はアナボリックな古典的Wntシグナル経路と骨代謝を抑制する一方で、OPGの発現低下を介した骨吸収促進を引き起こし骨量を減少させることが明らかとなった。以上、ENPP1の役割は骨形成と骨吸収のバランスを整え骨密度を維持する事が示唆された。
ENPP1の骨代謝における詳細なメカニズムが示された。特にWNTシグナルに着目している点に新規性がある。BMP、FGFなど他の骨格関連因子との検討も期待される。
ノートルダム大聖堂にも行ってきました。