骨ルポ
ASBMR 2018 レポート
天真 寛文(徳島大学大学院 医歯薬学研究部 口腔顎顔面矯正学分野)
数少ない研究を続けている同期と再会しました。向かって左が私です。
紹介演題 [1]
Breast Cancer Bone Metastases are Attenuated in a Tgif1-deficient Bone Microenvironment
キーワード
乳がん転移、骨芽細胞
研究グループ
Marie-Therese Haider et al.
- University Medical Center Hamburg-Eppendorf, Germany
サマリー&コメント
本研究では、乳がんの骨転移における骨芽細胞の働きについて検討を行っている。
骨芽細胞の培養上清は乳がん細胞株である4T1細胞の細胞遊走を高め、また4T1細胞は骨芽細胞のTG-interacting factor-1 (Tgif1)の発現を上昇させた。SILAC法を用いたタンパク質解析とRNAシークエンス解析を行ったところ、Tgif1ノックダウン骨芽細胞においてSemaphorin 3E (Sema3E)というタンパク質が高発現しており、rSema3Eは濃度依存的に4T1細胞の細胞遊走を阻害した。Tgif1ノックダウンマウスおよびワイルドタイプマウスにGFPで標識した4T1細胞を移植し長管骨への転移を解析したところ、Tgif1ノックダウンマウスではワイルドタイプと比較し乳がん細胞の転移箇所が少なく (36% vs. 56%)、転移箇所での4T1細胞数もワイルドタイプより25%少なかった。さらに、Tgif1ノックダウンマウスでは血管の大きさや数には変化が見られなかったが、骨芽細胞数の減少が認められた。これらの結果より、乳がん細胞は骨芽細胞におけるTgif1の発現を上昇させることでSema3Eの発現を抑制し、自らの転移にとって好都合な環境を得ていること、また、Tgif1ノックダウンは血管の形態・数には影響しないが骨芽細胞数を減少させることで乳がんの転移を抑制したことから、骨芽細胞が転移の成立において重要な役割を有していることが示唆された。
本研究では、骨芽細胞が乳がんの転移を制御しているという非常に興味深い知見が示されている。がんの研究ではいかにがん細胞の数を減らすか、というところが注目されがちだが、このようにがんの増殖・転移を支持する可能性のある骨系の細胞への検討もさらに発展していくべき分野であると感じた。
紹介演題 [2]
Fat Regulates Inflammatory Arthritis
キーワード
関節リウマチ、脂肪細胞
研究グループ
Yongjia Li et al.
- Washington University School of Medicine, USA
サマリー&コメント
本研究では、肥満と関節炎との関係を明らかにすることを目的として、以下の検討を行っている。
まずFat-Free (FF)マウスを作成し、脂肪組織が見られないこと、脂肪細胞が産生するアディポカインが血中で検出されないことを確認した。関節炎における脂肪の役割を解析するため、関節炎を誘導するK/BxN serumをWTおよびFFマウスに導入したところ、WTではK/BxN serumによって炎症および関節破壊が亢進されたが、FFマウスではそれらが全く見られなかった。WTマウスより採取した脂肪組織をFFマウスに移植しK/BxN serumを導入すると、関節炎が誘導された。数種類のアディポカインノックダウンマウスを作成し、関節炎誘導能を比較した結果、adipsinノックダウンのみがK/BxN serumによる関節炎誘導に抵抗性を示した。K/BxN serumはadipsinノックダウンマウスより採取した脂肪組織を移植したFFマウスに対して関節炎を惹起しなかった。フローサイトメーターを用いた解析で、WTマウスの滑膜組織には好中球が多量に存在していたが、FFマウスおよびadipsinノックダウンマウスでは好中球がほぼ見られなかった。これらの結果より、脂肪細胞が産生するadipsinが免疫系の細胞の遊走、そして炎症・骨破壊の進展に重要であることが示された。
脂肪細胞が炎症・骨破壊の進展に関わっているという発見は非常に興味深く、また、私は現在関節リウマチに関する研究を行っているので、マウスモデルの解析法など参考になる部分が多い演題であった。