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ASBMR 2018 レポート
前川 知樹(新潟大学大学院医歯学総合研究科 高度口腔機能教育研究センター)

前川 知樹
ASBMRのメイン会場でのセッション間は、素敵な音楽とライトアップがされていた。

ASBMR2018では,Osteoimmunology(骨免疫学)に近接する一分野としてのOsteomicrobiology(骨微生物学)の報告がいくつかなされていた。その中で特に興味深かった演題を紹介する。

紹介演題 [1]
Probiotic Treatment Using a Mix of Three Lactobacillus Strains Protects Against Lumber Spine Bone Loss in Health Early Postmenopausal Women

キーワード

プロバイオティクス,ラクトバチラス

研究グループ

Claes Ohlsson, Dan Curiac, Klara Sjogren, Per-Anders Jansson

  • University of Gothenburg
サマリー&コメント

女性での閉経後の腰椎の骨吸収により、骨折等の臨床的な問題が多々ある。そこで、閉経後骨吸収に対して、プロバイオティクスによる腰椎での骨吸収抑制効果を検証した。本研究では、スウェーデンにおいてすでにプロバイオティクスとして認可市販されている3種類のラクトバチラスを混合したものを使用した。対象は閉経後の女性とし、週に3回経口摂取してもらった。すると、閉経3年後の女性において、有意にLS-BMDの減少抑制が認められた。しかしながら、Hip-BMDに変化は認められなかった。閉経後6年までの追跡調査においても、LS-BMDの減少は対照群と比較して有意な抑制効果を認めた。また、本研究における副作用等は認められなかった。本研究では、プロバイオティクスとしてのラクトバチラスの混合剤が腸内細菌叢を変化させ、免疫系を調節(Immunomodulatory)することで、骨代謝に影響していることが示唆された。今後は、詳細なメカニズムの検討が必要である。

骨微生物学は、微生物によって引き起こされた免疫が骨代謝へ影響するという考え方である。ASMBR2018における骨微生物学に関する研究発表では、免疫調節(Immunomodulatory)が多用されていた。本研究においては、プロバイオティクスによる腸内細菌の改善による骨代謝への影響を、実際に臨床でのアウトプットとして示した興味深い結果ではある。しかしながら、腸内細菌叢がプロバイオティクス投与によってどのように変化したのか、また表現系としての免疫系はどのように変化したのかなど、作用メカニズムに関しては示されていなかった。今後は、腸内細菌による骨代謝に関連する免疫系への影響の解析によるさらなるエビデンスの構築と発展が期待される。

紹介演題 [2]
Specific Gut Bacterium Alters Commensal Microbiota Immunomodulatory Actions Regulating Skeletal Development

キーワード

腸内細菌、免疫調節作用

研究グループ

Jessica Hathaway-Schrder, Nicole Poulides, Sakamuri Reddy, Caroline Westwater, Chad Novince.

  • Medical University of South Carolina
サマリー&コメント

微生物叢は、過敏性腸症候群や歯周病等の炎症疾患において、バランスが重要であることが報告されている。また、腸内細菌が免疫系の確立に関連している報告も多数ある。特に、腸内細菌でのSFB(セグメント細菌)は、Th17の誘導に必須である。そこで、SFBが骨代謝に与える影響を検索することとした。SFBをもつマウスと、SFBを持たないSPFマウスにおいて、BV/TVの違いは認められなかった。続いて、顎顔面領域のリンパ節におけるTh17の存在比率を比較すると、SFBを持つマウスにおいて、予想に反し、有意な減少が認められた。しかしながら、SFBを持つマウスでは、頭蓋部位での軟骨細胞の生成と、骨量の増加が認められた。腸では、顎顔面領域と異なり、SFBを持つマウスにおいてIL17の産生が認められるとともに、補体であるC3やC4bの上昇、M1マクロファージや樹状細胞の存在%上昇が認められ、破骨細胞分化促進傾向にあった。両者のBMMを採取し培養したところ、SFBを持つマウスでは、CD11bの発現が上昇しており、分化実験においてTRAP陽性細胞の比率が高かった。さらに肝臓においてはSFBの有無により、M1/M2マクロファージの比率が異なっていた。以上の結果から、腸内細菌のバランスによって、免疫系が変化することで、骨代謝への影響が少なからずあることが示唆された。

SFBの有無により、腸管組織でのTh17分化のみならず、顎顔面領域と腸周辺、肝臓との免疫系の変化における部位特異的な違いが認められた点が興味深い。腸内細菌制御による多臓器への影響を考慮することが、骨微生物学の臨床応用には重要であることが示唆された。

前川 知樹
学会場から車で2時間の秋のローレンシャン高原にて。ベストシーズンで素晴らしい紅葉でした。