骨ルポ
ASBMR 2018 レポート
白木 誠(佐賀大学医学部 整形外科)
紹介演題 [1]
[1006] The impact of Bisphosphonate Drug Holidays on Fracture Rates
キーワード
ビスホスホネート、drug holidays、大腿骨近位部骨折
研究グループ
Jeffrey Curtis et al.
- University of Alabama at Birmingham, United States
サマリー&コメント
強力な骨吸収抑制効果を持つビスホスホネート(以下BP)は骨粗鬆症治療の第一選択薬の1つで、椎体骨折や非椎体骨折を抑制する優れた薬剤ですが、長期の内服により非定型大腿骨骨折のリスクを増加させることが報告されています。そのような中、アメリカでは少なくとも3-5年BP治療を受けたのち休薬する“drug holidays”が一般的になってきているといいます。しかし休薬によるリスクとベネフィット、いつ休薬するのか、またいつ再開するのかは不明です。そこで研究者らは3年以上BPを内服し、1年以上休薬した女性を対象としたコホートスタディを行い骨折の発生を調査しました。結果2年以上の休薬によって、BP全体で見ると休薬しなかった群と比較し、大腿骨近位部骨折のハザード比が有意に上昇し、4年以上の休薬でさらに顕著になりました(休薬による骨折リスクの上昇はリセドロネート>アレンドロネート>ゾレドロネート、上腕骨骨折リスクも上昇)。このことから2年以上の長期間の休薬はリスクがあることが示唆されました。私自身も非定型大腿骨骨折症例を経験し、drug holidaysの話を伺うようになってから、休薬するとすればいつ、どのくらいの期間なのか疑問に思っていたので大変参考になりました。今後さらなるエビデンスの蓄積が待たれます。
紹介演題 [2]
[1042] Osteoblast-derived NOTUM Reduces Cortical Bone Mass in Mice and the NOTUM Locus is Associated with Bone Mineral Density in Humans
キーワード
NOTUM、Wntシグナル
研究グループ
Karin Nilsson et al.
- Centre for Bone and Arthritis Research at the Sahlgrenska Academy, 41345 Gothenburg, Sweden他
サマリー&コメント
骨粗鬆症は世界的なcommon diseaseであり、皮質骨量減少に起因する非椎体骨折治療の進歩が必要とされています。Wntシグナル経路は骨芽細胞だけでなく破骨細胞においても重要な経路であり、骨代謝に深く関わっていることが明らかになっています。Wntタンパク質は海綿骨と皮質骨量調節に必須ですが、Wntシグナル伝達に関わるNOTUMが骨量に与える影響を検討した研究です。近年、NOTUMは分泌型リパーゼで、Wntの脂質部分を取り除くことによりFrizzled受容体への結合を阻害することが示されました。研究者らは3つの手法(global, osteoblast specific, tamoxifen-inducible)を用いてNOTUMをノックアウトすることにより海綿骨、皮質骨への影響を明らかにしました。まず、ノックアウトマウスは胎生致死でしたがヘテロマウスでは皮質骨幅の増加を認めました。NOTUMの主要な産生源は骨芽細胞であり、骨芽細胞特異的ノックアウトにより皮質骨幅、骨強度の増加を認めましたが、海綿骨への影響はありませんでした。また英国バイオバンクを用いた遺伝子解析(n=445921)により、NOTUM遺伝子座(17q25.3)に125のSNPsのうち骨密度と関連する2つの独立したバリアンスを見出しました。以上から骨芽細胞由来のNOTUMはマウス皮質骨幅と骨強度の調節に必須であり、ヒトにおけるNOTUMの遺伝的バリアンスが骨密度と関わることが明らかとなりました。骨芽細胞由来のNOTUMをターゲットとした治療が非椎体骨折予防になる可能性が示唆されました。NOTUMを異なるアプローチで不活化し骨量への影響を見事に示し、さらにゲノムバンクを用いてヒトの遺伝的バリアンスまで明らかにした大変興味深い研究でした。今後こう言った観点の新しい治療法が確立されることを期待します。