日本骨代謝学会

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ASBMR 2018 レポート
高士 祐一(徳島大学 先端酵素学研究所)

高士 祐一
自身のポスター発表にてフランスのLaurent Beck先生と。

紹介演題 [1]
The skeletal actions of irisin are mediated through alpha V integrin receptors on osteocytes

キーワード

イリシン、骨細胞、インテグリン

研究グループ

Hyeonwoo Kim et al.

  • Dana Farber Cancer Center
サマリー&コメント

イリシンは、運動によって誘導される骨格筋由来のホルモンである。イリシンは膜蛋白であるFNDC5より未知の蛋白分解酵素を介して血中に分泌される。血中に分泌されたイリシンは、脂肪細胞に作用することが明らかとなっているが、骨に対する作用の詳細については明らかとなっていない。研究チームは、イリシンが直接骨細胞に作用するモデルを提唱し、検討を行った。OVXマウスでは腰椎骨量が減少するが、イリシンの機能喪失型モデルであるFNDC5 KOマウスでは骨量の減少は認められなかった。さらに、FNDC5 KOマウスではOVXによる破骨細胞の活性化や骨細胞性骨溶解も認められなかった。次いで、イリシンの骨細胞における受容体を検索したところ、イリシンはαV/b5インテグリンに結合していることが見出された。αVインテグリン阻害剤により、イリシンの骨細胞に対する作用は抑制されたことから、イリシンはαVインテグリンを介して骨細胞にシグナル伝達していることが明らかとなった。

本演題は、学会のオープニングのRoland Baron先生によるOverviewで最初に取り上げられた。イリシンは同センターのBruce Spiegelman先生らのグループによって発見され、ベージュ脂肪細胞を褐色脂肪化する作用が注目されていた。イリシンは運動誘導性のホルモンであり、運動の生体に対する作用を説明する可能性のある一つの因子である。その機序の一つとしてのイリシンの骨細胞への作用を解明した本研究は興味深い。さらに、イリシンの受容体が細胞接着因子であるインテグリンであった点も興味深い。間葉系細胞由来の組織である骨、筋、脂肪の連関については、今後も新たな発見があるものと予想された。

紹介演題 [2]
Osteocalcin function on energy metabolism is conserved in human: Results of a 5 year prospective cohort of diabetes onset

キーワード

オステオカルシン、2型糖尿病

研究グループ

Cyrille Cinfavreux et al.

  • University of Lyon
サマリー&コメント

骨基質蛋白であるオステオカルシンはホルモンとしての作用を有し、糖・エネルギー代謝に関与していることが、基礎的検討を中心に明らかとなっている。オステオカルシンは、膵臓β細胞からのインスリン分泌や脂肪細胞からのアディポネクチン分泌を促進することが報告されている。一方、同様のことがヒトにおいても認められるのかは重要な点である。しかし、この点に関するこれまでの報告は横断研究や後向き研究に留まっている。研究チームは323名のコホートを5年間前向きに追跡し、2型糖尿病の発症と血清オステオカルシン濃度に関連があるかどうかを調査した。追跡期間中40名の新規糖尿病発症があった。コックスハザード解析の結果、血清オステオカルシン濃度の低値が糖尿病の発症に有意に関連していた(HR = 1.81, p < 0.05)。研究チームはさらに、ROC曲線から血清オステオカルシン濃度のカットオフ値を14.8 ng/mlとし、これより低値の群では糖尿病の発症リスクがHR = 3.28 (p < 0.001)であった。以上より、オステオカルシンがヒトにおいても糖・エネルギー代謝に関与していることが示唆された。

研究チームは前向きコホート研究により、これまでの一連のオステオカルシンのストーリーに支持的な結果を報告した。発表の中では、特に従来の糖尿病発症リスクである、メタボリックシンドロームや高血圧、脂質異常症などの合併がない集団において、血清オステオカルシン濃度が強く糖尿病発症に関係していたと言及している。オステオカルシンは今後創薬の標的となり得るだけでなく、このような骨の有する内分泌臓器としての機能を高めることができるような新規骨粗鬆症治療薬の開発が求められるのではないだろうか。

高士 祐一
フレンチディナー。モントリオールは北米のパリと呼ばれる。