骨ルポ
ANZBMS 2018 レポート
尾市 健(東京大学 医学部 整形外科)
クイーンズタウン、ワカティプ湖をバックに
紹介演題 [1]
STAT3 signaling in heterotopic ossification following spinal cord injury
キーワード
Neurological heterotopic ossification, JAK/STAT3 signaling
研究グループ
Kylie Alexander1, Hsu-Wen Tseng1, Marjorie Salga2, Whitney Fleming1, Frederic Torossian3, Irina Kulina1
- 1. Master Research Institute
- 2. University de Versailles Saint-Quentin-en-Yvelines
- 3. Inserm UMR-S-MD1197
サマリー&コメント
神経原性異所性骨化(Neurological heterotopic ossification: NHO)は脳挫傷や脊髄損傷後にしばしばみられる合併症で、関節付近の軟部組織に異常な骨化を呈する。NHOは疼痛、関節拘縮および心血管の圧迫を起こす。NHOの病因は分かっておらず、外科的切除が唯一の効果的な治療法であるが、切除後にしばしば再発する。NHOの病因を理解するため、脊髄損傷後のNHO野もであるマウスを作製した。脊髄損傷および筋損傷/炎症がNHOをひきおこすために必要で、損傷した筋に浸潤する単球が重要な役割を果たす。我々は最近、NHOの重要なメディエーターとしてinflammatory cytokine Oncostatin M (OSM)を同定した。OSMはNHO周囲および損傷した筋に発現していることが確認された。また、OSM受容体を欠損させたマウスではNHOの発生が有意に減少することが分かった。このマウスでのNHOで見られた所見と同様に、OSMの発現はヒトNHO患者で有意に上昇していた。さらには、NHO患者から単離したマクロファージの馴化培養液は、NHO患者の筋肉由来間質細胞の鉱化を亢進し、この効果は抗OSM中和抗体によりキャンセルされた。脊髄損傷手術マウスではシャムマウスと比べ、OSMの下流シグナルであるSTAT3のリン酸化が有意に増強していた。STAT3のリン酸化を阻害するためJAK1/2阻害剤をin vivoで投与したところ、術後7日目のNHO量は52%減少し、21日目では76%減少した。本研究からJAK/STAT3シグナルの阻害はNHO発生を減少させる妥当な治療戦略と考えられた。
紹介演題 [2]
Cognitive decline is associated with an accelerated rate of bone loss and increased fracture risk in women 65 years or older in the longitudinal population-based Canadian multicenter osteoporosis study (CAMOS)
キーワード
Osteoporosis, Cognitive decline
研究グループ
Dana Bluic1, Thach Tran1, John Eisman, Tuan Nguyen, Jackie Center
- 1. Garvan Institue of Medical Research
サマリー&コメント
認知障害と骨粗鬆症は高齢者でよく見られる病態で、両者には相関が示唆される。しかし、認知障害、骨密度の低下、骨折のリスクの複雑な関係を調べた縦断研究はない。本研究では、1)認知障害と骨量減少、2)Mini Mental State Examination (MMSE)で3点以上の認知機能の悪化と新規骨折リスクとの相関、を調べた。Canadian Multicentre Osteoporosis Study (CaMos)に参加した女性2433人、男性844人のコホートを1997年から2013年まで追跡した。骨量減少と認知機能の低下の相関は10年間で3回測定し、mixed-effects modelにより見積り、骨折リスクはCox Proportional Hazardsモデルにより見積もった。モデルは年齢、教育、および併存疾患にて調節した。
95%以上の参加者は開始時、認知機能は正常であった(MMSE≧24)。MMSEの年間変化率は男性、女性とも違いが無かった(女性-0.33、男性-0.33)。交絡因子を調整した後も、認知機能の低下は骨量減少と有意な相関があった(0.13%/年 MMSEの減少により1%/年のBMD減少)。およそ13%の参加者が5年以内に有意な認知機能の低下が見られた。このグループでは骨折リスクは女性においてのみ有意に増加した(HR1.45)。本研究から、認知機能と骨量減少には有意な相関があることが分かった。これらのありふれた病態をつなぐメカニズムの解明にはさらなる研究が必要と考えられた。