日本骨代謝学会

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ANZBMS 2018 レポート
浮田 万由美(北海道大学 大学院歯学研究院 冠橋義歯補綴学教室)

浮田 万由美

紹介演題 [1]
Circadian clock disruption in the pathogenesis of osteoarthritis.

キーワード

変形性関節症、概日リズム

著者

Raewyn Poulsen

  • The University of Auckland
サマリー&コメント

概日リズムでよく知られているのが、視床下部にある視交叉上核(SCN)で行われる光応答性の体内リズムの調節であり、体温やホルモン分泌、睡眠覚醒サイクルの調整など、体内の様々なリズムを調節している。そして、体のほとんどすべての細胞にこのようなリズムを調節する細胞時計があり、細胞の分化や増殖を調節している。細胞時計が壊れてしまうと、神経変性や糖尿病、がんなどの様々な病気になってしまう。近年、変形性関節症の軟骨細胞では、細胞時計が変化していることを発見した。変形性関節症の動物モデルを使った実験を行い、細胞時計の変化は、軟骨細胞の性質を変化させ、軟骨の喪失をもたらすことがわかった。
概日リズムは環境からの刺激によって毎日リセットされる。このリセットは、細胞内の時計と外界との時刻合わせをする上で大切である。SCNでは、N-メチルD-アスパラギン受容体(NMDAR)が時計のリセットに重要である。軟骨細胞はNMDARを発現していて、変形性関節症の軟骨細胞ではNMDARの発現が変化する。変形性関節症の軟骨細胞で見られるNMDARの発現の変化は。細胞の形質や、時計の構成要素の発現も変化させることがわかった。また、IL-1βと酸化ストレスは、軟骨細胞の性質を変形性関節症の性質に変化させてしまうものであるが、軟骨細胞の時計も変化させることがわかった。
軟骨細胞の細胞時計が壊れてしまうことは、軟骨細胞の性質変化を引き起こす重要なメカニズムなのかもしれない。

変形性関節症は夕方に、また私が現在研究している顎関節症も朝夕に痛みがひどくなるといわれています。2つの病気は、夕方には1日の動作による疲労が出たり、寝ている間の歯ぎしりで翌朝に痛みが出ると考えられています。その考えは最もだと思うのですが、この研究では概日リズムに着眼し、細胞形質の変化の可能性を考えている点が示唆に富む演題でした。

紹介演題 [2]
Resveratrol ameliorates bone loss in non-obese diabetic (NOD) mice by promoting bone formation

キーワード

レスベラトロール、糖尿病、骨粗鬆症

著者

Zhengju Fu

  • The Affiliated Hospital of Qingdao University
サマリー&コメント

レスベラトロール(RESV)はポリフェノールの一種で漢方薬にも使われている。これまでの研究で、1型糖尿病自然発症モデルであるNODマウスにおいて、RESVはグルコース不耐性とインスリン耐性を改善することがわかった。本研究では、NODマウスを用いて、RESVが糖尿病による骨のダメージを保護する作用があるか、そしてそのメカニズムについて検討した。
NODマウスでは骨密度が低下し、糖尿病による骨量の減少が示唆されたが、インスリンまたはRESVを投与すると骨密度が増加した。RESV投与では骨密度はほぼ正常に戻った。RESV投与したNODマウスの大腿骨では骨形成のマーカーOCNとRunx2のmRNA発現が増加し、TrapのmRNA発現は減少した。また、RESV添加によってMC3T3-E1細胞のOCNとRunx2のmRNA発現は増加した。ウェスタンブロットでは、インスリン添加によってTGF-βのタンパク発現が増加した。RESVは骨芽細胞分化を促進し、ERK1/2のリン酸化の活性化を引き起こした。
以上から、RESVはERK1/2シグナル伝達経路を介して骨形成を促進し、糖尿病による骨量減少から保護する役割があり、糖尿病に関わる骨粗鬆症の治療に役立つ可能性が示唆された。

赤ワインに含まれる成分で、アンチエイジングに効果があるとして注目されたレスベラトロール。サプリメントで飲んでいたこともあったので、このように疾患との関連が研究で裏付けされていくことはとても興味深く感じました。

浮田 万由美