骨ルポ
JSBMR×医薬ジャーナル社共同企画
ASBMR 2017 シニアレポーター レポート
宮本 健史(慶應義塾大学医学部整形外科学教室)
2017年9月に,コロラド州デンバーで米国骨代謝学会(ASBMR 2017)が開催された。破骨細胞および骨吸収に関連したトピックスを紹介する。
はじめに
今年のASBMRは,日本のマラソン選手らが高地トレーニングで訪れるボルダーにほど近い高地の町,デンバーで9月8日から11日にかけて4日間にわたり開催された。新たに完成したregional transportation district(RTD)A line鉄道でデンバー中心街まで空港から直通で行くことができ(写真1),そこからは無料の赤いシャトルバスがコンベンションセンター近くまで周回しており,アクセスは便利だった。Little blue bearが町のマスコットらしく,会場にも巨大なlittle blue bearがいた(写真2)。さて,Osteoclastやosteoblast,osteocyteなどと銘打ったconcurrent oral sessionが毎日開催されていたのは過去のことで,いずれもが4日間で1sessionしかなくなっていた。造血や神経と骨などの臓器連関やがんのトピックスもかなり扱いが小さくなり,今年はsenescenceやaging,代謝といったキーワードが幅をきかせていた。そういう訳で,今回のレポートは,破骨細胞を正面から取り扱ったもの,というよりは,なんらかの解析の中で登場した破骨細胞・骨吸収を中心にレポートすることになる。
(写真1)
(写真2)
紹介演題 [1]
脂肪なしマウスは骨量が増える
ワシントン大学のTeitelbaumらのグループは,Adiponectin Creでジフテリアトキシンを誘導する,あるいはジフテリアトキシン受容体を誘導してジフテリアトキシンを投与することで,脂肪がほとんどなくなる脂肪なしマウス(Fat Free mouse)を作成した。このマウスでは骨形成と骨吸収の両方が上昇していたが,骨吸収を上回る骨形成により骨量は増えていた。詳しいメカニズムは不明だが,骨芽細胞と脂肪細胞の分化調節が骨芽細胞側へシフトすることによると思われる。また,このマウスは耐糖能障害も呈しており,詳しい機序の解明が待たれる(#1005)。
紹介演題 [2]
前脳のApo Eが骨形成を負に制御する
ドイツのNiemeierのグループは,Apo E(apolipoprotein E)が骨形成を負に制御することを示した。グローバルApo E欠損マウスは骨形成率が上昇し,骨量が増加していた。組織特異的Apo E欠損マウスの作成から,Runx2 Cre(骨芽細胞特異的Apo E欠損)では骨吸収の増加と骨量が減少,Lys M Cre(マクロファージ・破骨細胞特異的Apo E欠損)では表現型がなく,NKX2.1 Cre(前脳特異的Apo E欠損)では,ほぼグローバルApo E欠損マウスの表現型を再現しており,前脳のApo Eが骨量制御に機能しているとした(#1006, Young Investigator Award)。
紹介演題 [3]
PPAR-gammaによる骨芽細胞・破骨細胞制御
ジョージア大学のMcFee-Lawrenceのグループは,脂肪分化に必須の転写因子であるPPARgammaは骨芽細胞を減少させ,逆に破骨細胞は増加させることで骨量を減少させること,Dermo1 Creで初期の骨芽細胞で脂肪分化に必須の転写因子であるPPARgammaを欠損させると,これらの表現型はキャンセルされ,骨量は増加し,炎症性サイトカインも減少するとした(#1008, Young Investigator Award)。
紹介演題 [4]
静止期制御因子による骨制御
Arkansas大学のグループは,加齢により静止期マーカーの1つであるSAA3の発現が上昇し,骨形成低下と骨吸収増加がみられ,SAA3欠損マウスではこれらの表現型が解消すると報告した(#1021)。
また,同様に同じグループでは,加齢マウスでは静止期マーカーの1つであるp16の発現がosteoprogenitorsで上昇し,ABT263あるいはより強力なABT263Aはp16発現細胞を除去することで,RANKL(receptor activator of nuclear factor-κB ligand)低下,OPG(osteoprotegerin)上昇,MMP13(matrix metalloproteinase 13)低下,IL-1(interleukin-1)低下から破骨細胞が減少することを報告した(#1027)。
紹介演題 [5]
Pyk2およびNotch阻害剤による破骨細胞制御
Indiana大学のグループはグルココルチコイド投与による破骨細胞増加と,それによる骨量減少,骨脆弱性の惹起が,Pyk2の遺伝子的あるいは薬剤による抑制により,破骨細胞のアポトーシスが誘導されることで回避されることを報告した(#1029)。
また同グループは,Notch阻害剤であるGSI 〈CODE NUMTYPE=SG NUM=95B2〉,そしてそれを骨特異的にデリバーするBone targeted GSI 〈CODE NUMTYPE=SG NUM=95B2〉(BT GSI 〈CODE NUMTYPE=SG NUM=95B2〉)を開発し,マウスに投与したところ,GSI 〈CODE NUMTYPE=SG NUM=95B2〉では骨への効果はほとんど認められなかったが,BT GSI 〈CODE NUMTYPE=SG NUM=95B2〉は骨量増加,骨吸収抑制,破骨細胞減少,OPG上昇,RANKL減少を呈することを報告した。一方で,BT GSI 〈CODE NUMTYPE=SG NUM=95B2〉投与によっても,脳や腸は影響を受けず,骨形成率は変化なしとした。BT GSI 〈CODE NUMTYPE=SG NUM=95B2>は酸性環境下で活性化されることを示しており,組織特異性と破骨細胞による酸性環境との関連が考えられる。詳しい分子機構はまだ不明である(#1030)。
紹介演題 [6]
チェルビズムのモデルマウスではc-Fos欠損によっても骨破壊が一部残る
チェルビズムのモデルマウスでは,SH3BP2変異マウスでは破骨細胞の異常活性化が起こっていることがUekiのグループから示されてきたが,今回同グループから,c-Fos欠損マウスとの交配によっても,骨破壊が一部残ること,それは破骨細胞以外のMMP14を介したマクロファージの活性により起こることが示された(FR0187)。
紹介演題 [7]
ET1による破骨細胞制御
血管内皮から発現されるendothelin(ET1)が破骨細胞に発現する受容体ETBを介して,破骨細胞を活性化していることが韓国のChangらのグループから示された。Lys M Creを用いた解析では,破骨細胞数の減少と骨密度の増加を呈した。ETB(エンドセリンB)のグローバルノックアウトは胎生致死である(FR0193)。
紹介演題 [8]
p16による骨量の負の制御
Mayo ClinicのKhoslaのグループは20カ月齢の老齢マウスの皮質骨にp16陽性のsenescence細胞が6%ほど出現し,その細胞を除去,あるいはDasatinib(Src inhibitorだがp16を抑制)を投与すると,破骨細胞の抑制と骨形成促進で,老化による骨量が回復するとした。若年齢マウスには同様の処置をしても効果がないことから,老化による骨量減少に骨細胞のsenescenceが寄与するとした。卵巣摘出(OVX)マウスでも骨量が回復した。また,Jak inhibitorでも同様の効果が見られた(#1042, Most Outstanding Translational Abstract Award)。
紹介演題 [9]
可溶型RANKLの役割
Arkansas大学のグループは,RANKLのsheddingに必要なドメインにCRISPR/Cas9 system(clustered regularly interspaced short palindromic repeats/CRISPR associated proteins)で変異を入れて,sheddingできない,つまり可溶型RANKLができないマウスを作成した。このマウスは,通常のdevelopmentを示し,破骨細胞の形成は正常で,歯も生え,リンパ節等の形成も正常,OVXでも野生型マウスと同様の骨量減少を示すことを報告した。つまり,通常の発育や病的な骨量減少には可溶型RANKLは必要ないことになる。ただ,このマウスでは,老化マウスでは破骨細胞の形成抑制と骨量増加を示した(#1043)。
紹介演題 [10]
FoxP3陽性免疫抑制性CD8+T細胞の制御
Saint Louis大学のグループは,CD8+T細胞にも免疫抑制性のFoxP3+Tregがあり,破骨細胞あるいは樹状細胞が発現するDLL4あるいはCD200Rが,それぞれCD8+T細胞に発現するNotch4あるいはIKK-NFκB(IκB kinase/nuclear factor-κB)を活性化することで直接CD8+T細胞のFoxP3の発現を誘導することを示した(SA0192)。
おわりに
今回の学会では破骨細胞や骨芽細胞,骨細胞といった単体の細胞を取り扱った発表がめっきり減っている印象であった。このことは,今回紹介したトピックスの内容からも伺われる。この傾向は,今後ますます進み,研究の嗜好や方向性がさらに進化していくものと思われた。
(写真3・4)