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JSBMR×医薬ジャーナル社共同企画

ASBMR 2017 シニアレポーター レポート
大薗 恵一(大阪大学医学系研究科小児科学)

 今年のASBMRの主なトピックスの一つは,加齢と老化細胞に対する研究の進歩であり,骨粗鬆症を加齢に伴うage-related diseaseとして捉えることにより,新たな治療戦略が期待されることが示された。また,代謝性骨疾患や骨系統疾患において,抗体や修飾リガンドによる増殖因子やホルモン作用の修正,異所性石灰化の抑制,筋肉増強などの機序による新しい治療薬,候補薬の報告が多く見られた。

はじめに

 今年のASBMR annual meetingはコロラド州のデンバーで開かれた。デンバーでは,2009年にも学会が開催されており,筆者はその時も参加しているが,大きなブルーベアがシンボルとなっているコンベンションセンターをはじめ,町並みは大きく変わらない印象であった(写真1,2)。ただ,デンバー空港から市内へのアクセスには,電車が開通して便利になっていた(写真3)。  今年のASBMRの演題数は95のlate-breaking abstractsを除くと1,235で昨年と同数とのことであった。私に与えられているタスクは臨床系の演題の紹介であるが,その時の学術集会を代表するのは,特別講演Gerald D. Aurbach Lectureと最も重要な賞であるLouis V. Avioli賞であり,まず,そのことに触れ,その後,治療薬の開発を中心に臨床系の演題を紹介したい。

大薗 恵一
(写真1)

大薗 恵一
(写真2)

大薗 恵一
(写真3)

細胞老化と骨粗鬆症

 今年の特別講演として,J. CampisiがCellular Senescence:Yin and Yangという演題名で講演を行った。私は小児科医という立場なので,aging研究に詳しいわけではないが,私にもこの分野の著しい進展が感じ取れる素晴らしい講演であった。まず,加齢とともに骨粗鬆症を始めとする慢性疾患が増えるのは偶然ではなく,この両者の関連性を説明できるメカニズムがあるという話から講演は始まった。加齢とともに,Senescent cellは各臓器でその割合が増えていく。Senescent cellは複雑なストレス応答の結果生み出され,不可逆的に増殖が停止している,いろいろな分泌機能を持っている,アポトーシスに抵抗性であるというような性格を持っている。このことにより,各臓器内で,ゲノムダメージの蓄積,腫瘍化を促進する遺伝子変異,代謝バランスの乱れ,組織修復の低下,細胞内小器官のストレスなどがもたらされる。これらの結果,慢性疾患が引き起こされるので,加齢とともに慢性疾患が増えることになる。Senescent cellは,β-gal染色,p16の 発現などで特徴づけられ,p53 依存的(DAMP:damage-associated molecular patternに関連)および非依存的(サイトカインや増殖因子などに関連)に炎症を惹起する細胞である。この性質,Senescent-associated secretory phenotype(SASP)は,加齢に伴う臓器機能障害の主たる機序の一つであり,パラクリン的に種々の生理活性物質を分泌して,幹細胞機能を損ない,加齢に伴う慢性疾患を引き起こす。これらをサポートする実験結果も多数提示されたが割愛する。

 Louis V. Avioli賞受賞講演で,S. Manolagasは,彼が長年行ってきた骨粗鬆症の発症メカニズムの研究について紹介した。閉経後骨粗鬆症における女性ホルモンの役割,ステロイド性骨粗鬆症における骨細胞アポトーシスを介する機序など,彼は,骨粗鬆症研究分野において多くの業績を持つが,近年は,骨粗鬆症をage-related bone diseaseとして解析し,重要なデータを発表している。加齢とともに骨組織において骨幹細胞(Osx1陽性細胞)数が減少し骨形成が低下するとともに,破骨細胞形成を促進するサイトカインを含むSASP関連遺伝子の発現増加により,骨吸収が亢進するという知見である。彼が,閉経後骨粗鬆症は,性ホルモンに焦点を絞りすぎた疾患単位なので,骨粗鬆症を加齢関連疾患と位置づけ,もっと広い視点に立つ方が新しい治療を生み出すことになるという意見を述べたのは印象的であり,今年のASBMRの特徴を端的に述べたと思う。余談ではあるが,彼はギリシア出身であり,多民族を受け入れてきたアメリカに感謝するとともに,この姿勢がアメリカにおける科学研究を発展させてきたのであり,この方針の継続を望むというスピーチを行った時,聴衆から大きな拍手があった。トランプ大統領の政策を危惧する人たちが多いからと思われる。

  この流れと関係して,most outstanding translational abstract はjanus kinase(JAK)inhibitorを用いてSASPの阻害を行い,老化を修正するものであった(#1042)。この発表はすでに論文となっている(Farr JN, et al:Nat Med, 2017)。また,Manolagas,O'Brienらのグループから,senescent cellを除去する作用を持つABT263という薬剤が骨粗鬆症の治療薬となる可能性を示す報告があった(#1027)。これも論文化されている(Kim HN, et al:Aging Cell, 2017)。  

骨系統疾患および代謝性骨疾患の治療

1.骨形成不全症

 骨形成不全症(OI)は,主として⟨CODE NUMTYPE=SG NUM=82F1⟩型コラーゲンの異常により骨脆弱性を呈する,代表的な遺伝性の骨系統疾患である。病態として骨粗鬆症に近似し,治療薬としてもビスホスホネートが使用され,デノスマブなど骨粗鬆症治療薬として開発された薬剤の適応も検討されているところである。今年のASBMRでは,OIにある意味特化した治療薬の開発が報告され興味深かった。モデルマウスを用いている段階であるが,GDF ligand trapという薬剤をマウスに投与すると,筋肉量が増加し,骨塩量の増加には至らないものの大腿骨の周囲径が増加した(#1097)。ミオスタチンの阻害効果をもつsoluble activin receptor type ⟨CODE NUMTYPE=SG NUM=885B⟩Bをモデルマウスに投与すると,筋量および筋力が増加し,海綿骨および皮質骨の微小構造が改善した(#1096)。筋肉−骨連関を考える上でも興味深い演題である。また,transforming growth factor(TGFβ)の中和抗体もOIの治療薬として期待され,Fresolimumabという名で治験が開始された(Rare Bone Disease working groupでの発表)。モデルマウスへのTGFβの中和抗体投与実験はポスターで発表された(SU0080)。筆者らは,OI患者由来iPS細胞の骨芽細胞分化誘導系を用いて,シャペロン機能を持つ4-phenylbutyric acidが石灰化能を回復させることを報告した(MO0714)。

2.軟骨無形成症

 軟骨無形成症は,線維芽細胞増殖因子3型受容体の活性化変異により内軟骨性骨化に障害をきたす四肢短縮性の骨系統疾患である。近年,本症の治療薬としてC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)が期待されているが,半減期が数分と非常に短いため,治療効果を得るには,半減期を伸ばす必要がある。今年のASBMRでは,TransConという緩徐にCNPを遊離することができる構造をつけたTransCon-CNP(半減期は80時間に延長)の薬理学的動態とモデルマウスとサルにおける効果が報告された(FR0343,SU0337)。

3.進行性骨化性線維異形成症,多発性骨軟骨腫

 進行性骨化性線維異形成症(FOP)はALK2(ACVR1)に変異を有し,この変異体がactivinに対して親和性を持つことが異所性骨化のメカニズムであることが,昨年複数の研究室より報告された。片桐らは,このALK2に対する抗体を作製し,その中に,異所性骨化を阻害する効果を持つ抗体があることを見出し,FOP治療への可能性を示唆した(#1094)。Palovaroteneというレチノイン酸受容体γ(RARγ)アゴニストも,異所性骨化を阻害する効果を有し,FOPに対して治験が行われ,新たな異所性骨化を防ぐ効果が示された(FR0334)。Palovaroteneはまた,FOP以外の適応も考えられ,多発性骨軟骨腫(MO)のモデルマウスを用いた検討では,あらたな骨軟骨腫の発生を抑制した(#1095)。

4.FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症

 ヒト型FGF23(fibroblast growth factor 23)中和抗体は,今はBurosumab(KRN23)とよばれているが,X連鎖性低リン血症性くる病(XLH),腫瘍性骨軟化症(TIO)に対して治験が行われ,有効性,安全性が報告された(#1154,SU0325,FR0331,MO0695,LB-1159)

5.その他

 PTH/PTHrP受容体(PTHR1)の活性型変異を持つJansen型骨幹端異形成症モデルマウスを用いて,PTHR1の恒常的活性型受容体の活性を元に戻すアゴニストを用いた効果が発表された(#1098)。この研究はJansen病の団体から研究費の支援を受けており,発表会場でも患者さんが聴講されたとのことである。PTHとPTHrPを基本骨格として,アミノ酸を入れ替えて,agonist, antagonistに変えて,その効果を検討する発表は,他にも見られた(SU0099,MO0477)。

 アルカリホスファターゼ(ALP)異常症である低ホスファターゼ症に対して酵素製剤(Asfotase alfa)が承認されて2年が経過した。その効果および副作用に関し,臨床的に検討した演題が多数見られた(SA0338,SU0331,SU334,LB-SU0386,MO0394,LB-MO0751)。

 骨粗鬆症治療薬として注目されているAbaloparatideに関しても多数の演題があったが,字数の関係で省略する。

ビタミンD関連

 Vitamin D欠乏,不足に対する演題は多数あった。口演としては,XLHモデルマウスHypに活性型ビタミンDを投与するとFGF23, αKlothoの発現が上昇するが,NHERF1(Na+/H+ exchanger regulatory factor 1)とNpt2aの相互作用が上昇することにより,腎におけるリン再吸収は障害されないと報告された(#1104)。1位水酸化酵素欠損マウスにおいて自然発症腫瘍の増加を認め,ビタミンD欠乏と酸化ストレスおよび細胞老化との関連が指摘された(#1123)。比較的大量(平均1日3,500単位)のビタミンDを長期にわたり服用しても,米国黒人女性(平均年齢68歳)において骨量減少は防げないことが報告された(#1157)。

 ビタミンDの主要な代謝物の一つである24,25-dihydroxyvitamin D(24,25-D)に関しては,以前より,不活性代謝物か独自の作用を持つか論争があったが,今回,軟骨および骨折治癒過程において独自の作用を持つという有力なデータが発表された(#1041,SU0055)。24水酸化酵素の欠損マウスを用いて,24,25-Dの効果判定を行い,下流の作用分子であるFAM57B2を同定し,その酵素活性により生じるlactosylceramideが軟骨分化に関わることまで見出しており,24,25-Dの独自効果が裏付けられた。

おわりに

 ここ数年,ASBMRの規模は横ばいとなり,以前より驚嘆すべき発表は減少したのかもしれないが,今年も見どころ・聞きどころはいっぱいで,また来年も参加したいと思わせてくれる良い学会だった。