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JSBMR×医薬ジャーナル社共同企画

ASBMR 2017 シニアレポーター レポート
宇田川 信之(松本歯科大学生化学講座)

 2017年9月に,コロラド州デンバーにて第39回米国骨代謝学会(ASBMR 2017)が開催された。破骨細胞および骨吸収関連の発表演題についてのトピックスを紹介する。

はじめに

 今回のASBMRは,コロラド州デンバーにて9月8日から4日間にわたり,コロラドコンベンションセンターにて開催されました。写真1に示すコンベンションセンターをのぞきこむクマは,クマのぬいぐるみである「テディベア」発祥の地であるコロラドを記念して造られたとのこと。「テディベア」は,クマ狩りが趣味であったルーズベルト大統領(愛称:テディ)が,狩りの成果なく落胆してホテルに戻ったところ,大統領をなぐさめるためホテルのメイドさんがクマのぬいぐるみをプレゼントしたことに由来するそうです。
 「コロラド褐色斑」をご存知ですか?我々歯科医師には有名な知識なのですが,飲料水のフッ化物イオン濃度が高い地方で認められるエナメル質形成不全歯(斑状歯)のことで,ここコロラドにおいて世界で初めて報告され命名されたそうです。
  さて,デンバーは,ロッキー山脈を遠く望む落ち着いたたたずまいの街並みでした(写真2)。以下,筆者の研究分野である破骨細胞・骨吸収関係のトピックスについて紹介します。

宇田川 信之
(写真1)

宇田川 信之
(写真2)

骨代謝リモデリングを制御する因子

紹介演題 [1]
骨細胞からのTGF-βシグナルは骨小腔のリモデリングを通じて骨質を調節する

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(USCF)のAllistonら(#1141)は,骨細胞特異的にTGF(transforming growth factor)-βを欠損させると,骨質低下が認められること,TGF-β受容体阻害剤投与は破骨細胞からのカテプシンKやMMP13(matrix metalloproteinase 13)などの酵素活性を低下させることを示した。骨細胞由来のTGF-βの骨代謝カップリングにおける重要性を提唱した。

紹介演題 [2]
TGF-β誘導性の破骨細胞分泌性サイトカインWnt1による骨形成促進作用

メイヨクリニックのOurslerら(#1151)は,破骨細胞にTGF-βを処理することにより誘導されるサイトカインとしてWnt1を見出し,破骨細胞特異的にWnt1を欠損させたマウスを作製した。Wnt1欠損マウスは骨芽細胞性の骨形成が低下し,骨量低下が認められたことから,TGF-β 誘導性の破骨細胞由来のWnt1の骨カップリングにおける重要性を示した。

紹介演題 [3]
破骨細胞が産生するCthrc1の骨リモデリングにおける重要性

国立長寿医療研究センターの竹下ら(#1090)は,破骨細胞が産生するCthrc1の受容体として,Waif1(Wnt-activated inhibitory factor 1)を同定した。骨芽細胞特異的にWaif1を欠損させると,骨吸収と骨形成が低下し大理石骨病を呈すること,RANKL(receptor activator of nuclear factor-κB ligand)投与によって正常に戻るという実験結果を示し,破骨細胞が産生するCthrc1の骨リモデリングにおける重要性を提唱した。

紹介演題 [4]
破骨細胞由来のIgf-1はEphrinB2/EphB4シグナルを介して骨形成を正に制御する

インディアナ大学の栗原ら(#1108)は,破骨細胞特異的にIgf-1を欠損させると,破骨細胞数およびEphrinB2発現が減少し骨量が低下することから,破骨細胞由来のIgf-1の骨形成における重要性を発表した。

紹介演題 [5]
可溶性RANKLは成体における骨リモデリングに重要である

アーカンソー大学のOBrienら(#1043)は,可溶性RANKLの遺伝子欠損マウスを作製し解析した。その結果,生後の歯の萌出やリンパ節などの異常は認められなかったが,3〜8カ月くらいで破骨細胞数が減少し海綿骨・腰椎の骨量が増加すること,しかし,卵巣摘出は骨組織に対して影響を与えないとする実験結果を示した。

紹介演題 [6]
骨吸収を抑制し骨形成を促進する新しいサイトカインNELL-1

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のTingら(#1048)は,卵巣摘出マウスに対してビスホスホネートと共にNELL-1(neural epidermal growth factor-like-like 1)を投与すると,骨吸収を抑制しながら骨形成を促進し,骨量増加作用が認められることを発表した。

破骨細胞分化を制御するメカニズム

紹介演題 [1]
細胞老化(SASP)の誘導は,破骨細胞性の骨吸収を促進し骨芽細胞性の骨形成を抑制し,骨量減少に作用する

メイヨクリニックのOurslerら(#1042)は,細胞周期阻害因子であり老化マーカーであるp16INK4a陽性細胞と骨代謝との関係に注目した。細胞の老化は,SASP(senescence associated secretory phenotype)と称され,炎症性サイトカインの上昇を介して全身に損傷を与える。JAK(ヤヌスキナーゼ)1/2阻害剤や抗酸化作用薬剤などをマウスに投与し,p16INK4a陽性の老化細胞を除去すると,骨吸収の抑制と骨形成の促進により加齢による骨喪失を防止した。老化細胞は破骨細胞性の骨吸収を促進し,骨芽細胞性の骨形成を抑制する可能性が示された(Farr JN, et al:Nat Med, 2017に掲載)。

紹介演題 [2]
ニューロン特異的にアンドロゲン受容体を欠損させると骨吸収が亢進し皮質骨厚さが低下する

ベルギーのCarmelietら(#1052)は,ニューロン特異的なアンドロゲン受容体欠損マウスを作製すると,若年齢では骨組織の変化は認められないが,老化するに従い雄マウスにおいて,骨吸収の亢進が認められ(骨形成は変化なし)皮質骨の厚さが低下することを示した。

新しい骨代謝疾患治療薬の開発

紹介演題 [1]
進行性骨化性線維異形成症(FOP)へのALK2(㈵型BMP受容体)中和抗体の投与

埼玉医科大学の片桐ら(#1094)は,型骨形成タンパク質(BMP)受容体であるALK2(activin receptor-like kinase-2)の中和抗体を作製し,マウスにおけるBMP誘導性の異所性骨形成を阻害することを示し,FOP患者の治療薬として,ALK2中和抗体が有用であることを示した。

紹介演題 [2]
骨形成不全症(OI)への可溶性アクチビン受容体の投与

ミズーリ大学のPhillipsら(#1096)は,可溶性アクチビン受容体(sActRIIB-mFc)をOIモデルマウスに投与することにより,症状改善が認められることを発表した(Jeong Y, et al:Muscle Nerve, 2017に掲載)。

紹介演題 [3]
スクレロスチン中和抗体投与は骨芽細胞前駆細胞数を増加させ直接骨形成促進に寄与する

ハーバード大学のKronenbergら(#1142)は,スクレロスチン中和抗体の正常マウスへの投与は,骨芽細胞前駆細胞数を増加させ,アポトーシスを減少させることにより骨形成促進効果を発揮することを示した。

紹介演題 [4]
Siglec-15中和抗体投与による骨量増加作用

破骨細胞分化に重要な役割を果たすDAP12(DNAX activating protein of 12kDa)とFcRγのダブル欠損マウスは重篤な大理石骨病を呈する。最近,DAP12と会合する免疫グロブリンスーパーファミリー分子として,シアル酸受容体タンパク質Siglec-15が同定された。第一三共株式会社の津田ら(#FR0318,FR0319,SU0191)は,Siglec-15の中和抗体を作製し,卵巣を摘出したラットやサルに投与することにより骨吸収を阻害し骨形成を促進する実験結果を発表した(写真3)。ヒトに対するフェーズ1トライアルの結果(FR0293)も発表され,今後の薬剤開発が楽しみである。

宇田川 信之
(写真3)

おわりに

 昨年のASBMRにおけるオダナカチブの突然の開発中止の悲報から1年が経過しましたが,今回のASBMRでは新しい薬剤開発に結びつく研究成果が発表されていました。今年のGIDEON A. RODAN AWARDは,野田政樹先生(東京医科歯科大学名誉教授)が受賞され,YOUNG INVESTIGATOR AWARDも4名の日本人若手研究者が受賞し,とても喜ばしいことでした。来年のモントリオールで開催されるASBMRが楽しみです。