日本骨代謝学会

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ASBMR 2017 レポート
廣瀬 勝俊(大阪大学大学院歯学研究科口腔病理学教室)

廣瀬 勝俊
アメリカでのポスター発表中で、拙い英語で悪戦苦闘している写真です。多くの方にポスターを見ていただきました。

2017年9月8日~9月11日、アメリカ デンバーで開催されたASBMR Annual Meeting 2017(米国骨代謝学会)に参加しました。私は9月9日のポスターセッションにおいて、” Analysis of the role of Fam20C in Fam20C-transgenic mice” という演題で発表をさせて頂きました。マウスジェネティクスを駆使して、骨・軟骨における幹細胞を探求する研究に多くの日本人研究者が携わっており、海外で活躍する日本人研究者がまぶしく感じられました。そのなかで特に印象的だった2演題をご紹介させて頂きます。

紹介演題 [1]
A Novel Cell Population Contributing to Appositional Growth of Growth Plate in Postnatal Mice

研究グループ

Yu Usami1, Aruni Gunawardena2, Noelle Francois2, Hajime Takano2, Satoru Otsuru3, Masahiro Iwamoto4, Wentian Yang5, Satoru Toyosawa1, * Motomi Enomoto-Iwamoto6.

  • 1. Osaka University
  • 2. Children's Hospital of Philadelphia
  • 3. Nationwide Children's Hospital
  • 4. University of Maryland Baltimore
  • 5. Brown University
  • 6. University of Maryland Baltimore
サマリー&コメント

Wnt/β-catenin signalingは、骨・軟骨の成長に重要な役割を担っている。演者らはWnt/β-catenin signalingのターゲット遺伝子であるAxin2の下流にCreERを有するAxin2CreERマウスとRosaZsGreenマウスを用いてAxin2CreER;ZsGreenマウスを作製し、骨端部軟骨における軟骨幹細胞の同定を試みた。
生後6日目にタモキシフェンを投与し、その3日後から9週にかけてZsGreen(ZsG)陽性細胞の末裔を追跡した。タモキシフェン投与後3日では、Ranvier's grooveと呼ばれる成長板軟骨辺縁に位置する軟骨膜、および軟骨膜に接する成長板軟骨辺縁にZsG陽性細胞が多く観察された。その後、それらZsG陽性細胞は成長板辺縁部から内側に広がり、タモキシフェン投与後9週で成長板軟骨の辺縁部1/4を占めた。このことから、Axin2CreER;ZsGreenマウスシステムでZsG陽性となる細胞には、生後の成長板軟骨の成長に関わる幹細胞が含まれていることが明らかとなった。さらに、詳細な組織学的解析により、成長板軟骨辺縁とRanvier's grooveの間に扁平な細胞(以下、flat cell)が認められ、それらの細胞は軟骨基質内に存在し、Sox9陰性で、幹細胞マーカーの一つであるalpha 5 integrin陽性、細胞周期の回転が遅いslow-cycle cellであることが明らかになり、成長板軟骨幹細胞の候補と考えられた。
そこで演者らはRanvier's grooveとその周囲組織からZsGreen陽性細胞から細胞を分離し、FACS解析を行ったところ幹細胞の性質があることが示唆された。また培養を行ったところ、軟骨細胞あるいは骨芽細胞への分化が示され、軟骨・骨芽細胞幹細胞であると推測された。
次に、軟骨細胞特異的系譜解析が可能であるCol2CreER;ZsGreenマウスで同様の解析を行った。いずれの時期を解析しても、幹細胞の候補と考えられたflat cellを含む軟骨細胞は全てZsGreen陽性、かつ、Ranvier’s grooveの細胞はZsGreen陰性であり、経時的な成長板軟骨へのZsGreen陰性細胞の関与は確認されなかった。さらにRanvier's grooveの細胞を追跡可能なCtskCreER;ZsGreenマウスで同様の解析を行った。いずれの時期を解析しても、軟骨細胞は概ねZsGreen陰性、Ranvier’s grooveの細胞はZsGreen陽性であり、このCtskCreER;ZsGreenマウスシステムにおいても経時的な成長板軟骨へのZsGreen陽性細胞の関与は確認されなかった。このことから、生後の成長板軟形成に関わる軟骨幹細胞はRanvier's grooveに存在する非軟骨細胞に由来する細胞群ではなく、Ranvier's grooveと成長板軟骨の間に存在するflat cellである可能性が支持された。
最後に演者らは、ZsGreen陽性細胞でβ-cateninが非活性となるAxin2CreEr; β-cateninfl/flマウスを作製し、Axin2発現細胞特異的にβ-cateninシグナルをノックアウトしたところ、成長板軟骨の外側近傍に異所性の軟骨細胞の集塊が認められた。この結果はβ-cateninシグナルがRanvier's groove周辺で軟骨幹細胞の幹細胞性維持に寄与していること示唆している。
以上より、Axin2CreER;ZsGreenで追跡したZsGreen陽性細胞は、生後の成長板軟骨における外側方向への軟骨付加成長に関与し、Ranvier's grooveとその周囲が重要な幹細胞nicheである可能性が示された。

解析が非常に丁寧で、経時的変化をとてもきれいな組織写真、蛍光免疫染色写真で提示されていた。きれいで正確な形態像は、多くの情報を伝えるとともに、聴衆への説得力につながる非常に重要な要素であると実感した。これに関しては日本人の手先の器用さ、きめ細やかさは世界と戦える武器であろう。ASBMRでの演題発表はこの研究機関の研究代表者がされていたが、研究をメインで行っているのは私と同じラボの先輩であり、アメリカ留学時から継続してこの研究を続けている。この素晴らしい研究をされた先輩を、今まで以上に尊敬できるようになった。

紹介演題 [2]
Resting Zone of the Growth Plate Harbors a Unique Class of Skeletal Stem Cells

研究グループ

Noriaki Ono1, Koji Mizuhashi1, Henry Kronenberg2, Wanida Ono1.

  • 1. University of Michigan School of Dentistry
  • 2. Massachusetts General Hospital / Harvard Medical School
サマリー&コメント

Skeletal stem cellは、軟骨細胞、骨芽細胞、骨髄間質細胞などを供給することによって骨の成長や維持、修復を調整していると考えられている。しかしながら生体組織において 、skeletal stem cellの局在は明らかではない。演者らは、副甲状腺ホルモン関連タンパクであるparathyroid hormone-related protein (PTHrP) CreERマウスとtdTomatoマウスを用いてPTHrP;tdTomotoマウスを作製し、skeletal stem cellの同定を試みた。タモキシフェン注射後の早期には、tdTomoto陽性は静止軟骨細胞のみにみられ、大部分はEdUに陰性を示したことより、静止軟骨細胞に特異的にtdTomato陽性となると推測された。タモキシフェン注射数週間後には、肥大軟骨細胞や骨芽細胞にtdTomoto陽性が認められ、PTHrPを発現する静止軟骨細胞から分化したと推測された。成長板軟骨細胞よりtdTomoto陽性細胞を分離し培養したところ、in vivoと同様に、基質を産生する軟骨細胞や骨芽細胞への分化が認められた。これらのことより、PTHrPを発現する静止軟骨細胞はskeletal stem cellであると考えられた。

初めて海外での学会に参加し、様々なバックグラウンドを持つ研究者たちが、骨研究という共通話題のもと自由にディスカッションをしている様子が印象的でした。そして、大学院生という立場から本当の研究者の世界へと足を踏み入れるためには、英語で自由に話せることが必須であると痛感しました。最後になりましたが、ご援助を頂きこのような機会を得られましたこと、心より感謝申し上げます。

廣瀬 勝俊
デンバーといえばロッキーマウンテンということで、バスツアーで登山をしてきました。発表での緊張感が嘘のように麓のロッジでダラダラしています。