骨ルポ
ASBMR 2017 レポート
尾野 祐一(秋田大学大学院医学系研究科整形外科学講座)
学会期間中にロッキー山脈の一つであるマウントエヴァンスに登頂。標高4000m近くで酸素濃度の低さを実感しながらの集合写真です。
紹介演題 [1]
Greater abdominal adiposity is associated with lower muscle quality, but not with muscle strength or performance in men and women: The Framingham Study.
キーワード
muscle quality, 腹部脂肪, 皮下脂肪
研究グループ
Hebrew SeniorLife Institute for Aging Research and Harvard Medical School, United States
サマリー&コメント
筋肉と脂肪の関係について検討した臨床研究です。はじめに、加齢に伴う総脂肪量の増加は、除脂肪量・muscle qualityの低下や機能の制限、移動能力の低下に関係するとされている。また、腹囲で定義される中心性の肥満は、脂肪量よりも機能性や移動性に、より密接に寄与すると過去に報告されている。しかし、中心性の肥満や特定部位の貯蔵脂肪量とサルコぺニアとの関係はまだ明らかになっていない。本研究は、腹囲径・腹部皮下脂肪量・内臓脂肪量が高いと、握力が低くなり、muscle qualityが低下し、Chair stand timeが遅くなるという仮説をたて、検証を行った。対象はFramingham Study Offspring cohortに参加した1173名の男女です。測定項目として、BMI、WC(腹囲)、VAT(内臓脂肪量)、SAT(腹部皮下脂肪量)、握力、muscle quality(握力/上肢除脂肪量)、Chair stand time(座ったポジションから5回腕を使わずに立ち上がる時間を計測)を設定した。VAT、SATはCTで、除脂肪量はDXA法で測定した。BMIを30kg/m2未満と30 kg/m2以上の2群に分けて、男女別にそれぞれ解析(重回帰分析)したところ、女性においては、WC・SAT・VATが高いとmuscle qualityが低下し、男性においては、WCが高いとmuscle qualityが低下し、BMI<30 kg/m2のGroupではSATが高いとmuscle qualityが低下していた。自分たちの研究グループでも筋量、筋力と身体能力やQOLについては臨床研究で検討していたが、脂肪量についてはあまり注目していなかったので、今後参考にしていければと思いました。
紹介演題 [2]
Unloaded Mice Treated with the Myokine Irisin Are Protected from Bone Loss and Muscle Atrophy.
キーワード
Irisin, 骨量減少, 筋萎縮
研究グループ
Department of Basic Medical Science, Neuroscience and Sense Organs, University of Bari, Italy
サマリー&コメント
イリシンは、運動に応答して骨格筋から分泌されるマイオカインである。過去に筆者らは、組み換え型イリシン(r-Irisin)を健常マウスに投与し、皮質骨量の増加、形状が改善したことを報告した。本研究は、後肢を懸垂したマウスに、r-Irisinを4週間投与し、大腿骨と外側広筋を解析した。実験群は、Control群、後肢懸垂しVehicleを投与した群、後肢懸垂しr-Irisinを投与した群の3群である。大腿骨をµCTで解析し、外側広筋の重量、筋線維断面積、筋遺伝子(MyHC-II)を測定した。その結果、Control群に比べVehicle群は、皮質骨、骨梁、BMDがBV/TVが有意に低下していたが、r-Irisin群はControl群と有意差がないくらいに改善していた。Tb,Nやフラクタル次元解析においてもr-Irisin投与により減少が防がれていた。さらに、骨量が減少した後にr-Irisinを投与しても、皮質骨、骨梁、BMDは改善していた。また、Control群に比べVehicle群は、筋重量、筋断面積が有意に低下していたが、r-Irisin群はControl群と有意差がないくらいに改善していた。また、MyHC-IIの発現量の低下も防いでいた。この結果を人間に置き換えることができれば、骨粗鬆症とサルコペニアの両方の予防が可能となり、身体活動が制限された人や寝たきりの人、宇宙飛行士のような無重力空間にいる人にも有効となる可能性があると筆者は述べている。高齢者の転倒、骨折予防として、運動療法がまず第1に挙げられるが、実際に行い、また継続していくことは非常に難しいと感じる。しかし、Irisinの研究が進めば、そういった人々の特効薬になるのでは、という期待を感じた。