日本骨代謝学会

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ANZBMS 2017 レポート
沖田 紗季(広島大学大学院医歯薬保健学研究科歯科矯正学講座)

沖田 紗季

紹介演題 [1]
Hdac inhibition and bone formation

キーワード

ヒストン脱アセチル化酵素、間葉系前駆細胞、脂肪細胞

著者

Jennifer Westendorf

  • Mayo Clinic, Rochester, Minnesota, United States
サマリー&コメント

軟骨内骨化は間葉系前駆細胞における緻密な遺伝子転写制御により成り立つ複雑なプロセスである。ヒストン脱アセチル化酵素(Hdac)はヒストンのアセチル基を酵素的に除去することによってエピジェネティックに遺伝子発現を制御する。その阻害剤は気分障害や癌などの治療に臨床的に用いられているが、一方で、骨格形成への催奇形性や成人における骨折リスクの上昇が報告されている。本演題では、Hdacの骨における機能と発現、骨密度に対するHdac阻害剤の効果を検討し、さらにHdac3に注目し、加齢における骨密度および骨髄脂肪化に与える役割を評価している。ヒトの骨にはHdac1、Hdac3、およびHdac7の発現が認められ、なかでもHdac3は加齢に伴い発現減少することが明らかとなった。また、Osx-Creを利用したHdac3コンディショナルノックアウトマウスから採取した骨髄間葉系幹細胞を骨分化誘導培地にて培養すると、Runx2陽性でかつ小型の脂肪滴を多く含む細胞の割合が増加した。つまり、Hdac3が骨芽細胞と脂肪細胞の分化方向の可塑性に関与している可能性が示唆された。

これまでに我々の研究グループもRunx2陽性細胞の脂肪分化について報告しており、骨芽細胞系譜の脂肪分化のメカニズムを解明することで、骨粗鬆症などの骨髄の脂肪化を伴う骨代謝疾患に対し新たな治療法確立の足がかりとなると期待される。

紹介演題 [2]
Osteoclasts have two resorption modes that differ with respect to resorption orientation, aggressiveness, molecular characteristics and drug sensitivity

キーワード

破骨細胞、ピット、トレンチ

著者

Kent Søe, Anais MJ Møller, Xenia G Borggaard, Dinisha C Pirapaharan, Jean-Marie Delaisse

  • Vejle Hospital, University of Southern Denmark, Vejle, Denmark
サマリー&コメント

これまで、骨吸収中の破骨細胞は動かずその場に留まり、新しい骨吸収部位へ移動する破骨細胞は骨を吸収しないと考えられていた。これは、丸い骨吸収窩(ピット)の形成を説明するには合理的であるが、細長い骨吸収窩(トレンチ)の形成については説明できない。そこで本演題ではタイムラプス撮影を用いて破骨細胞の動態を観察した。その結果、移動しながら骨吸収を行う破骨細胞が存在し、トレンチの形成に寄与することが確認された。つまり、破骨細胞にはピットを形成するピットモードとトレンチを形成するトレンチモードが存在することが明らかとなった。トレンチモードはピットモードと比較して骨吸収が活発であり、骨吸収窩も深く、骨吸収速度も速いほか、コラーゲン溶解活性が高かった。また、トレンチモードの破骨細胞は骨粗鬆症薬に対する感受性が高いなど差が認められた。さらに、ピットモードの破骨細胞がトレンチモードに移行することも明らかとなった。

ピットモードもトレンチモードも同一の「破骨細胞」である故に、これら2つのモードを分けて解析するのは難しいと考えられるが、タイムラプスを効果的に用いて、とても明快なデータを出されていると思った。2つのモードがどのように制御されているのか等、さらなる分子メカニズムの解明が、骨代謝改善薬の開発に向けた新たな展開に結びつくのではないかと期待された。

沖田 紗季