骨ルポ
ASBMR 2016 レポート
渡辺 隆一(慶應義塾大学医学部整形外科学教室)
左手前が筆者(慶應義塾大学医学部整形外科学 ASBMR参加メンバー)
紹介演題 [1]
Vitamin D metabolism and action in human mesenchymal stem cells: Effects of fibroblast growth factor 23
キーワード
FGF23、ビタミンD、ヒト間葉系幹細胞(hMSCs)
研究グループ
Brigham & Women’s Hospital, United states of America
サマリー&コメント
慢性腎不全(CKD)では腎臓における活性型ビタミンD(1,25(OH)2D3)の産生が障害されることにより骨量低下が生じ、骨折リスクが高まる。このグループは、ヒト間葉系幹細胞(hMSCs)にKlothoの共受容体を形成するFGF23受容体であるFGFR1,3,4が発現していることを示し、透析歴のある整形外科患者から単離したhMSCsにおけるFGF23の発現が、CKDのstageの進行とともに上昇し、Klothoの発現が抑制されるという、従来の慢性腎不全における挙動と一致することを示した。そこで、hMSCsにおいてFGF23がビタミンDの代謝や機能を抑制しているという仮説のもと、cyp27b1、ビタミンD受容体(VDR)遺伝子に対するFGF23の効果について検証を行った。hMSCsをFGF23刺激下で培養するとCyp27b1、Klotho、VDRの発現が低下した。さらに、25(OH)D3、1,25(OH)2D3それぞれにFGF23を添加したMSCsの培養下では、本来のビタミンDシグナルによる骨形成への促進がFGF23によって抑制され、BMP7の発現が優位に低下することが示された。また、そのメカニズムとしては、腎障害によって過剰となったFGF23シグナルがIGF-1Rを介してビタミンD代謝を阻害することで骨分化のautocrine/paracrineシステムが破綻されることを実証した。この発表では、これまで知られていた腎におけるビタミンD合成障害が骨量低下の原因となっていたことに対して、hMSCsにおいても同様なメカニズムによって骨形成が抑制されていることを示し、詳細なメカニズムについても解析を行っている点が今後のCKDにおける骨量維持への治療応用に期待されると感じた。
紹介演題 [2]
Therapeutic Effect of Alendronate on Skeletal Muscle Atrophy in vitro and in vivo
キーワード
Alendronate、筋萎縮、サルコペニア
研究グループ
National Taiwan University, Taiwan, province of china
サマリー&コメント
ビスホスホネート製剤(BP)であるAlendronate(ALN)は骨粗鬆症治療薬として広く使用されており、骨量増加効果は多くのエビデンスがあるが、骨密度増加とともに筋力増加の報告もある。しかしながら、ALNの筋への作用効果は未だわかっておらず、台湾大学のグループは骨格筋筋萎縮に対してALNが効果的な薬剤となりうるかについて検証を行った。In vivoでは、野生型マウスの片側坐骨神経切断による脱神経で誘導される筋萎縮モデルを作製し、ALN投与によって筋萎縮の程度を評価した。神経切断側ではALN投与群においてヒラメ筋線維径・筋線維数・筋湿重量が優位に回復していた。一方、in vitroではマウス筋芽細胞株C2C12をALNで刺激すると筋管形成が優位に増加し、タンパクレベルにおいてSIRT-3の発現は低下し、一方筋分化で増加するmyogeninやMHCの発現は優位に上昇していた。さらにdexamethasone(Dexa)による薬剤誘導の筋萎縮擬似状態ではFoxo3aのリン酸化は抑制されるが、これにALNを添加するとリン酸化が回復することがわかった。また、Dexa投与によって上昇する筋萎縮関連遺伝子Atrogin-1の発現はALNによって濃度依存的に低下した。最後に、In vivoにおいてALN投与の坐骨神経切断野生型マウスではヒラメ筋におけるSIRT-3、Atrogin-1のタンパクレベルの発現は優位に低下していた。
以上より、ALNは筋芽細胞から筋管細胞への分化を促進するとともにSIRT-3の発現低下を介して筋萎縮を抑制する薬剤であることを示した。
長期臥床などの不動などが原因で骨粗鬆症とサルコペニアは高齢者のADL低下の引き金に深く関与し、現在多くの分野から大変注目を浴びている領域である。私もBP製剤が骨量低下を抑制するだけでなく、筋萎縮予防にも作用するのではないかという仮説のもと、同様の研究をしていたため、非常に興味深かった。しかしながら、BP製剤は破骨細胞への骨親和性が非常に高いため、どのような機序で筋に作用するのか、BPの骨外作用についてはまだ解明されていない点が多く残っており、今後の研究課題として引き続き取り組んでいきたいと考えさせられるテーマであった。
今回、ASBMRのtravel awardに選出していただきありがとうございました。ASBMRの参加は昨年に引き続き2回目でしたが、自分の研究領域の最先端の話題の多さに驚くとともに世界中の研究者のひたむきな努力と独創性を勉強させていただき、改めて自分自身の研究へのモチベーションが高まる大変貴重な機会でした。このような素晴らしい勉強の場のご支援をしていただいた田中栄教授、高柳広教授、中島友紀教授、日本骨代謝学会の関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。
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