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ASBMR 2016 レポート
山本 景子(大阪大学大学院医学系研究科小児科学)

山本 景子

現在、X連鎖性低リン血症性くる病(XLH)に対する抗FGF23中和抗体の治験が進行しており、リン代謝やFGF23の制御に関する注目はますます高まっております。ASBMR2016においては、高分子量FGF2によるFGF23産生制御などについて研究してこられたMarja M. Hurley先生がLaurence G Raisz賞を受賞されたほか、また、エリスロポエチンとFGF23についての講演やリンのセンシングについてのレクチャーなど、リン代謝やFGF23に関連したプログラムがかなりありました。一般演題の中から、私が興味を持った演題を3題紹介させて頂きます。

紹介演題 [1]
Osteopontin Accumulation in the Osteocyte Lacuno-Canalicular Network Contributes to the Defective Bone Mineralization of XLH
(骨細胞の骨小腔—骨細管ネットワークにおけるオステオポンチンの蓄積がXLHの骨石灰化障害に寄与する)

キーワード

オステオポンチン、XLH、骨小腔・骨細管ネットワーク

研究グループ

Boukpessi T, et al.

  • McGill University, University Paris Descartes 他
サマリー

XLHにおける骨石灰化障害の主たる原因はFGF23作用の過剰による低リン血症ですが、もう一つの特徴として、骨細胞周囲の石灰化障害があります。XLHの責任分子であるPHEXはMEPEなどに由来する石灰化抑制因子ASARM ペプチドに結合して分解することが示されています。オステオポンチンは骨石灰化抑制作用を示し、MEPE同様にASARMモチーフを有しています。演者らは、先行研究で、オステオポンチンの全長蛋白質がPHEXに結合すること、Hypマウスの骨ではオステオポンチンの約35kDaのフラグメントが増加していることを報告しています(Barros NM, et al. J Bone Miner Res, 2013)。このマウスでの知見を受けて、今回は、 XLH患者の骨組織を用いた解析が行われました。その結果、XLH患者の骨では、石灰化が不良な骨小腔や骨細管にオステオポンチンの沈着が認められました。また、骨組織から抽出した蛋白質を用いたwestern blotにおいても、XLH患者の骨ではオステオポンチンの蓄積が示唆されました。これらの結果から、演者らは、骨細胞の骨小腔・骨細管のネットワークへのオステオポンチンの沈着が、XLHに特徴的な骨細胞周囲の石灰化障害の原因となっていると結論づけていました。

コメント

マウスでの先行研究を発展させ、XLH患者のサンプルを使用して病態の解析を行った貴重な研究だと思いました。また、骨細胞による骨小腔・骨細管のリモデリングについてはまだ不明な点が多く、今後の研究が期待されます。

紹介演題 [2]
Alteration in Perilacunar and Canalicular Rmodeling in the Hyp Mouse Model of XLH
(XLHモデルHypマウスにおける骨小腔・骨細管リモデリングの変化)

キーワード

XLH、骨小腔・骨小管ネットワーク

研究グループ

Martins JS, et al.

  • Massachusetts General Hospital 他
サマリー

上述の演題とは異なるグループからの発表です。演者らは最近、Hypマウスの成長や骨微細構造、骨強度に対する1,25水酸化ビタミンDとFGF23中和抗体の効果を比較した論文を発表しています(Liu ES, et al. J Bone Miner Res, 2016)。今回の発表では、演者らはHypマウスの骨細胞を詳細に解析し、野生型に比べて骨小腔面積や骨細管が増加していること、cathepsin Kなどの破骨細胞マーカーの蛋白質発現が増加していることを示しました。さらに、Hypマウスに1,25(OH)2Dあるいは抗FGF23中和抗体(FGF23 Ab, Amgen社)の投与を行い、骨小腔・骨細管リモデリングに対する作用を検討していました。骨小腔面積/骨面積比および骨細管ネットワークの構築を指標として検討された結果、1,25(OH)2D投与、FGF23 Abのいずれも、Hypマウスにおけるこれらの指標を改善することはできませんでした。また演者らは、低リン血症とともに高1,25(OH)2D血症を呈するNpt2aKOマウスについてもこれらの指標を検討しており、無治療のNpt2aKOマウスがHypマウスと同様に骨小腔面積/骨面積比の増加、骨細管ネットワーク構築の乱れを示したことを報告していました。彼らは、このことから、低リン血症が骨小腔・骨細管リモデリングに影響を及ぼした可能性を示唆していました。

コメント

Hypマウスの骨細胞において骨細胞性骨吸収が増加していることを示唆する興味深い演題です。今回、実験に使用されていたFGF23 AbはAmgen社のものであり、FGF23作用の抑制が充分であったかどうかは検討の余地があると思います。前述の演題とともに、XLHの病態に関して新たな知見を与える可能性があります。

紹介演題 [3]
Role of FGF9 in Promotion of Early Osteocyte Differentiation and as a Potent Inducer of FGF23 Expression in Osteocytes
(骨細胞の初期分化およびFGF23発現誘導におけるFGF9の役割)

キーワード

FGF9、骨細胞、FGF23

研究グループ

McCormick LA, et al.

  • University of Missouri-Kansas City 他
サマリー

演者らは、昨年のASBMRにおいて、骨細胞様細胞株であるOmGFP66とIDG-SW3が骨細胞へと分化する際にFGF9の発現が増加すること、また、FGF9は骨芽細胞マーカーの発現を低下させるとともに早期骨細胞のマーカーを増加させ、後期骨細胞への分化を遅延させるということを発表していました。続報となる今回の発表では、(1)マウス新生仔頭蓋冠の器官培養系において、FGF9添加はALPの発現を抑制し、Dmp1やE11、PHEXの発現を増加させた (2) 生後2週、4週のマウス脛骨において、抗FGF9抗体による染色性は類骨骨細胞層で強陽性であり、骨芽細胞や成熟骨細胞では弱陽性であった (3) OmGFP66細胞へのFGF9の添加によりFGF23の発現が増加し、FGFR2やFGFR3の発現は抑制された、という実験結果が示されていました。これらの結果から、演者らは、分化過程にある骨細胞はFGF9とその受容体を発現しており、FGF9は骨細胞の早期分化およびFGF23の発現誘導を介してリン代謝を制御する可能性がある、と結論づけていました。

コメント

高分子量FGF2によるFGF23誘導の報告や、骨細胞特異的Fgfr1欠損によるHypマウスの表現型改善の報告など、最近、FGF/FGFRシグナルの活性化がFGF23の発現誘導に関わることが示唆されてきており、私も興味を持っています。この演題は、FGF9が骨細胞におけるFGFRシグナルの活性化において重要なリガンドとなっている可能性を示唆します。また、この研究は、骨細胞の結合性や樹状突起の喪失が、年齢に関連した神経変性と特徴が類似していることからFGF9に着目しており、独創的だと思いました。

空き時間に学会会場のそばにあるジョージア水族館へ足を延ばしました。この水族館にはペンギンや海水魚・淡水魚など沢山の種類の生き物が展示されています。大きな水槽が多数あり、水槽の下から魚が泳ぐ姿を観察ですることもできます。頭上をジンベイザメがゆったりと泳ぐ姿は見応えがあり、お勧めです。

山本 景子
山本 景子