骨ルポ
ASBMR 2016 レポート
山川 晃(東京大学医学系研究科臨床医工学部門)
この度、アトランタで開催されたASBMR2016に参加する機会を頂きました。多くの興味深い発表の中から、2つの口頭発表に関してご紹介させて頂きます。
紹介演題 [1]
Mechanically-Induced Calcium Oscillations in Osteocytes Facilitate Release of RANKL, OPG, and Sclerostin Through Extracellular Vesicles and Mediate Skeletal Adaptation
キーワード
骨細胞、メカニカルストレス、カルシウムシグナル
研究グループ
Genevieve Brown*, Andrea Morrell, Samuel, Robinson, Rachel Sattler, X. Edward Guo.
- Columbia University, United states
サマリー&コメント
骨基質中に存在する骨細胞において、メカニカルストレスがタンパク質の発現を調節することと、Ca2+ oscillationsがメカニカルストレスにより引き起こされることはすでに報告されています。しかし、メカニカルストレスにより引き起こされるCa2+ oscillationsが骨細胞でのタンパク質発現を調節していることや、骨形態変化に関わっているということを検証した報告はわずかです。
研究グループは、in vitroでMLO-Y4 細胞にメカニカルストレスを与えることで、分泌小胞のマーカーであるLAMP1の発現と培地中の分泌小胞数が増加することと、Ca2+ oscillationsを阻害するネオマイシンを投与することで、この反応が見られなくなることを確認しました。さらに、回収した分泌小胞内にLAMP1、Sclerostin、RANKL、やOPGなどのタンパク質が存在することをウエスタンブロットにより確認しました。
次に、マウス脛骨にメカニカルストレスを与えて2週間後の骨形態変化をマイクロCTにて比較した結果、ネオマイシン投与群では、メカニカルストレスにより通常認められる骨形態変化率が減少することが確認されました。
これらの結果から、演者らは骨細胞へのメカニカルストレスは、Ca2+ oscillationsを引き起こし、それにより分泌された分泌小胞が骨細管を経由して、骨組織での適応反応を引き起こしていると考察しました。
本演題を通じて、カルシウムシグナルを介したメカニカルセンサーとしての骨細胞の働きの一端が明らかになった印象を持ちました。
紹介演題 [2]
Phosphate Restriction Promotes the Differentiation of Multipotent Marrow Stromal Cells into Marrow Adipose Tissue.
キーワード
リン制限、CAR細胞、脂肪細胞
研究グループ
Frank Ko*, Marie Demay.
- Massachusetts General Hospital, United states
サマリー&コメント
成長期のリン制限は骨形成不全と、骨髄内脂肪組織の増加を引き起こします。現在までに、リン制限時の骨形成不全は、骨芽細胞分化不全のみでなく、骨髄細胞の脂肪細胞分化亢進によっても引き起こされることが報告されています。しかし、リン制限時に出現する骨髄内脂肪組織の由来はいまだに不明です。
今回、骨髄でCXCL12を高発現する細網細胞(CAR細胞)でレプチン受容体(LepR)が高発現することに着目して、LepR-Creマウスを用いて、CAR細胞が骨髄内脂肪細胞の由来細胞であることを検証しました。まず、LepR-Creマウスをリン制限食で飼育してlineage tracing実験を行い、骨髄において増加したLipidTox陽性脂肪細胞がLepR陽性CAR細胞由来であることを確認しました。さらに、リン制限食で1週間飼育したマウスから、このLepR陽性CAR細胞を回収してmRNA発現を評価するとC/EBPαやPPARγの脂肪細胞系のマーカーの上昇が確認されると共に、古典的WntシグナルのLef1の発現量が有意に減少していることも確認されました。このことから、古典的Wntシグナルの抑制が骨髄内脂肪細胞の増加を引き起こしていることが示唆されました。このことを検証するために、リン制限食で飼育する際に古典的Wntシグナルの活性化試薬であるLiClを投与することで骨髄細胞でのC/EBPαやPPARγの上昇が抑制されると共に骨芽細胞分化が抑制されないことを確認しました。
これらの結果から、演者らはリン制限食により引き起こされる骨髄細胞の脂肪変性はCAR細胞における古典的Wntシグナルの活性抑制を介して引き起こされると考察しました。
本演題を通じて、リン制限に伴う生体内での変化に対するCAR細胞の役割の重要性を感じました。