骨ルポ
ASBMR 2016 レポート
寺島 明日香(東京大学大学院医学系研究科 免疫学)
夕食風景
紹介演題 [1]
Regulation of Appetite by the Skeleton
キーワード
骨芽細胞、食欲調節
研究グループ
Ioanna Mosialou*, Steven Shikhel, Na Luo, Stavroula Kousteni
- Columbia University, United states
サマリー
骨組織から分泌されるホルモンの中で、よく知られているものにはFGF23やオステオカルシンがある。これら2つのホルモンは腎機能と糖代謝恒常性を調節していることが報告されている。このことは、骨組織は他にも他臓器の機能を調節するホルモンを分泌する可能性を想起させる。研究チームは骨芽細胞が産生するLipocalin 2(Lcn2)が食欲をコントロールする可能性を提唱した。Lcn2は既報からアディポカインであることが報告されているものの、チームは、Lcn2の骨芽細胞での発現が脂肪細胞よりも10倍高いという結果を得た。Lcn2遺伝子を骨芽細胞特異的に欠失させると、血糖値、体脂肪、体重の上昇が観察され、耐糖能異常が見られた。一方でLcn2を脂肪細胞特異的に欠失しても耐糖能異常は認められなかった。骨芽細胞特異的Lcn2ノックアウトマウスを注意深く観察すると、食物摂取量が野生型に比べて増加している事がわかった。腸管や脂肪細胞から分泌する既知の食欲に関連する因子には影響がなかったので、研究チームはLcn2が直接食欲を調節しているかどうかを確かめた。末梢から導入したLcn2が血液脳関門を通り、食欲を制御する領域として知られている視床下部で検出できる事を見出した。また、Lcn2を脳室内へ注入すると欠損マウスで観察された食欲増進を抑制できた。以上の結果はLcn2が骨芽細胞から分泌される食欲減退ホルモンであることを示す。
コメント
骨芽細胞が分泌するLcn2が視床下部に作用し、食欲調節をするという報告は興味深いが、Lcn2は、細菌感染により血清や滑膜で発現量が増加する事が知られており、細菌の鉄イオン獲得を阻害する静菌作用をもつ因子としての報告がある。食欲調節に関しては、Lcn2–/–マウスと骨芽細胞特異的Lcn2ノックアウトマウスの表現型が一致していたので、骨芽細胞由来のLcn2が中心的な役割を果たすと考えられるが、骨芽細胞由来Lcn2が免疫反応に機能する可能性もあるかもしれない。
紹介演題 [2]
Sclerostin influences body composition by regulating catabolic and anabolic metabolism in adipocytes.
キーワード
スクレロスチン、糖代謝
研究グループ
Julie Frey, Soohyun Kim, Zhu Li, Ryan Tomlinson, Mehboob Hussain, Daniel Thorek, Michael Wolfgang, Ryan Riddle
- Johns Hopkins University
サマリー
スクレロスチンは、骨芽細胞のWnt/β-catenin経路を阻害し、骨形成を抑制する事が知られている。臨床のデータから代謝異常と血中のスクレロスチンのレベル上昇には関連があることが報告されている。研究チームは2型糖尿病マウスにおいて、血中のスクレロスチン量と体脂肪量が上昇していることを確認した。以上のことから、スクレロスチンと代謝の関連を確かめるために、Sost–/–マウスの解析を行なった。Sost–/–の体重は野生型と変わらないにもかかわらず、体脂肪が減少しており、脂肪細胞のサイズも小さくなっていた。さらに、Sost–/–マウスでは耐糖能、白色脂肪細胞のインスリン感受性の改善も見られた。Sost–/–マウスに高脂肪食を与えると、野生型マウスに比べて体重上昇が抑えられ、脂肪肝や脂肪細胞炎症の発生も見られなかった。スクレロスチンを過剰に産生するマウスでは正反対の表現型、すなわち、糖代謝異常による脂肪の蓄積が見られた。研究チームは、スクレロスチンの体脂肪に対する効果が白色脂肪細胞のWntシグナルの活性化と考えている。Sost–/–マウスから採取された白色脂肪細胞を解析すると、Ppargc1aとUcp1のmRNAの増加が見られ、脂肪酸の酸化分解が促進していると考察できる。研究チームは、in vitroのスクレロスチン存在下での培養は脂肪細胞の分化を亢進するという結果も示していた。
コメント
糖代謝における骨細胞の役割は未だ不明な点が残るものの、スクレロスチンの主要な産生源が骨細胞ということを考えると、この報告は骨細胞が糖代謝を制御している可能性を示唆するという点で興味深い。骨組織と脂肪組織の新たな相互作用因子としてのスクレロスチンの新たな役割を提唱している。
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