日本骨代謝学会

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ASBMR 2016 レポート
田井 宣之(帝京大学ちば総合医療センター)

田井 宣之
(写真1) 左:筆者、右:井上大輔教授

ASBMR 2016 Annual Meetingが9月16日から19日にジョージア州アトランタで開催されました。学会会場はアトランタのダウンタウンの中心部にあるGeorgia World Congress Centerで行われました。学会会場周辺には世界最大の水族館であるジョージア水族館やCNNテレビ放送局などの観光スポットも多数ありました。学会期間中、興味深い演題が多数ありましたが、その中で特に興味深かったものをご紹介させていただきます。

紹介演題 [1]
Hypoxia Signaling-Induced Glycolytic Metabolism in Osteoblast can Affect Systemic Glucose Homeostasis by Increasing Glucose Utilization by the Skeleton

キーワード

HIF1α、VHL、低酸素

研究グループ

Dirckx N ら

サマリー&コメント

近年、骨はエネルギーや糖代謝において重要な役割を果たしている臓器として注目され、代表的な介在因子としてオステオカルシンやインスリン等が知られています。低酸素ストレスに対する適応応答で中心的役割を果たしている転写因子であるHIF-1α(低酸素誘導因子hypoxia-inducible factor:HIF)は低酸素細胞でのグルコース代謝に関わっていることが報告されていますが、骨における役割は不明です。HIF-1αは大気中の21%酸素下ではE3ユビキチンリガーゼVHLにより分解されますが、低酸素状態ではVHLが阻害されるために蛋白が安定化して発現が増加します。本研究では骨多細胞特異的なVHLノックアウト(Osx-VHL-/-)マウスを作製し、骨局所の低酸素状態が骨における糖代謝に与える影響を検討しています。VHL-/-培養骨芽細胞を低酸素状態にすると、Glut1の増加を介して糖取り込みが増加し、解糖系マーカーであるPdk1(glycolytic enzymes phosphoglycerate kinase 1)とPgk1(pyruvate dehydrogenase kinase 1)の発現が増加することが示されました。さらに、Osx-VHL-/- miceではインスリン感受性の増加とともに低血糖が示され、これはインスリンやオステオカルシンとは非依存的でした。さらに、VHL-/-mice はFDG-PETでの骨への糖取り込み増加、qRT-PCRでPdk1、Pgk1、Glut1の増加を示しました。これらの結果から骨局所の低酸素血症を介して、骨が全身の糖代謝を直接制御している可能性が示されました。

紹介演題 [2]
Regulation of appetite by the skeleton

キーワード

Lipocalin-2、食欲、糖代謝

研究グループ

Luo N ら

サマリー&コメント

Lipocalin-2(LCN2)は25kDaの分泌型糖タンパクで細胞分化や癌の増殖、転移などに関わる因子ですが、代謝領域では肥満、インスリン抵抗性、高血糖などと関連することが報告されています。LCN2は脂肪組織、肝臓など様々な臓器で発現していますが、骨芽細胞では脂肪細胞の10倍も高発現しています。本研究では、骨芽細胞特異的LCN2ノックアウトマウスLCN2osb-/-mice )が高血糖、体脂肪量および体重の増加、インスリン分泌低下、することが示されました。脂肪細胞でのLCN2ノックアウトマウスではこれらの変化は認められませんでした。LCN2は食欲を制御している視床下部や脳幹に発現おらず、LCN2-/-miceに末梢からrLCN2を投与すると血液脳関門を通過して視床下部、脳幹にLCN2が蓄積しました。LCN2をLCN2osb-/-mice脳室内に注入すると、確かに亢進した食欲が是正されました。これらの結果から骨芽細胞由来のLCN2が中枢神経を介して食欲を制御している可能性が示されました。
本研究によりLCN2のオステオカルシンのような糖・エネルギー代謝への関与、および食欲制御因子としての可能性が示されました。LCN2の骨作用にはまだ不明な点が多い状況ですが、LCN2ノックアウトマウスでは骨芽細胞数が減少(破骨細胞は変化なし)して骨量が低下することが報告されており、骨代謝における役割についても、今後さらに研究の進展を期待したいと思います。

今回、私はYoung Investigator Awardを頂けたので、学会3日目に受賞式に参加しました(写真1)。参加前は緊張しましたが、会場は和やかな雰囲気でしたので楽しむことができました。海外の若手研究者と交流もできとても有意義な時間を過ごせました。
4日目は学会会場に隣接するCNNセンターのツアーに参加し(写真2)、学会期間中はケイジャン料理や南部料理などアトランタグルメも堪能しました。

田井 宣之
(写真2) 左:筆者、右:井上大輔教授