骨ルポ
ASBMR 2016 レポート
枝元 美緒(慶應義塾大学医学部共同利用研究室 細胞組織学)
Atlantaの夜明けam7:00
夜明けが遅くて日暮れも遅い不思議な街だと思っていたら、ただのサマータイム…
2016年9月16日~9月19日、アメリカ アトランタ(ジョージア州)で開催されたASBMR Annual Meeting 2016(米国骨代謝学会)に参加しました。私は9月17日のConcurrent Orals: Musculoskeletal Developmentのセッションにおいて、”How do osteoclasts shape the cranial base bones during development?” という演題で口頭発表をさせて頂きました。
ASBMRの演題は多岐に渡っており、口唇口蓋裂の治療といった形成外科的なものや、骨と腎臓におけるホルモンバランスについて考察した内科的な演題など、興味深く拝見しました。特に印象的だった2演題をご紹介させて頂きます。
紹介演題 [1]
(1149) Identification and localization of a key skeletal stem cell population with high regenerative potential in the periosteum of growing and adult bones
キーワード
骨膜幹細胞、ペリオスチン、骨再生
研究グループ
Oriane Duchamp de Lageneste, Anais Julien, Rana Abou-Khalil, Caroline Carvalho, Giulia Frangi, Celine Colnot.
- INSERM UMR1163, Imagine Institute, Paris Descartes, Paris Descartes University, France
サマリー&コメント
骨折後の骨再生には骨幹細胞(SSCs)が関与していることが知られていますが、その詳細に関しては不明な点が多くあります。演者らは骨膜由来の骨幹細胞(PSSCs)に着目し、その特徴や機能を骨髄幹細胞(BMSCs)と比較しました。まず、BMSCsと同様にSca1, CD29, CD105の3種類全てがポジティブであること、さらに造血幹細胞マーカーがネガティブであることを利用してPSSCsを単離し、in vitro実験系で骨細胞、脂肪細胞、軟骨細胞に分化することを示しました。また、PSSCsはin vitro実験系でCFU-F活性が高く、細胞増殖が盛んでした。続いて蛍光標識した幹細胞を移植したところ、BMSCsとPSSCsの起源は共通しているものの、成熟した骨における修復にはPSSCsの方が大きく寄与していると明らかになりました。マイクロアレイ解析によってペリオスチンがこの修復能に関連していると考えられたため、ペリオスチンノックアウトマウスを観察した結果、ノックアウトマウスでは骨折後の修復が有意に減少し、線維化が生じていました。以上から、PSSCsが骨折後の骨再生に重要であること、さらにPSSCsに発現するペリオスチンがその過程で働くことが明らかになりました。この研究は骨折の治療に直結しており、臨床的に応用が可能だと考えられます。そして、臨床的なバックグラウンドを踏まえて、in vitroでの結果を提示し、最後にノックアウトマウスで予想された形態が見られたことを示す、という結果の組み立て方が非常に美しいと感じました。
紹介演題 [2]
(1027) Analysis of cellular dynamics revealed stem cell niche formation in the postnatal epiphyseal growth plate
キーワード
静止軟骨細胞、幹細胞、イメージング
研究グループ
Phillip Newton1, Simon Suter2, Xiaoyan Sun2, Lei Li2, Meng Xie2, Igor Adameyko2, Lars Sa¨vendahl33, Maria Kasper2, Andrei Chagin2.
- 1. Karolinska Institute & Karolinska University Hospital, Sweden
- 2. Karolinska Institute, Sweden
- 3. Karolinska University Hospital, Sweden
サマリー&コメント
三次元イメージングを駆使して「立体」を理解することは、骨形態学において今後ブレイクする分野ではないでしょうか。この演題はとてもユニークな内容であると同時に効果的にムービーを用いていて、非常に引き付けられるプレゼンテーションでした。成長板は静止軟骨細胞層、増殖軟骨細胞層、肥大軟骨細胞層の3層から構成され、内軟骨性骨化によって骨が伸長することが知られています。しかし、静止軟骨細胞層における細胞の挙動や制御についてはよく知られていません。演者らはclonal genetic tracingという方法を用い、骨端の成長板における静止軟骨細胞をConfettiマウスを活用して4種の蛍光タンパク質でclone毎に識別しました。その観察により、胎仔・新生仔と成獣で分裂様式が異なることを明らかにしました。胎仔・新生仔では1つのcloneは細胞4-9個程度のかたまりとして存在し、一方成獣では20個以上の細胞から成り立つ長軸方向に長い構造をしていました。これは、「成長が進むにつれて静止軟骨細胞の分裂は減少する」という従来の考えと全く異なるものでした。続いてH2B-GFP-retainingマウスおよび EdUラベルを用いて細胞増殖を詳細に解析した結果、胎仔・新生仔では静止軟骨細胞はすぐに増殖軟骨細胞に分化する一方、成獣では二次骨化中心形成後もとどまり、自己複製して50細胞を超える大きなcloneを作り出すことを示しました。すなわち、発生の早い段階では静止軟骨細胞は成長のために消費されますが、成獣では自己複製されており、生後に幹細胞が自己複製するニッチェが骨端に形成されると結論付けられました。静止軟骨細胞は肥大軟骨細胞などに比べてあまり注目されていない場所かもしれませんが、今回彼らの研究で初めて、マウスにおける詳細な分裂様式が明らかになったのではないかと考えられます。また、聴衆を巻き込むような臨場感のある発表を初めて目にし、とても勉強になりました。
初めて海外での学会に参加し、様々なバックグラウンドを持つ研究者たちが言語の壁を越えて自由にディスカッションをしている様子が印象的でした。そして、英語で自由に話せることがサイエンスの世界で生きていくための大前提であると痛感しました。最後になりましたが、ご援助を頂きこのような機会を得られましたこと、心より感謝申し上げます。
Georgia World Congress Centerの前で