日本骨代謝学会

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ANZBMS 2016 レポート
下出 孟史(近畿大学大学院医学研究科分子生体制御学)

下出 孟史

この度は、ANZBMS2016 Travel Awardを頂き、誠に有難うございました。2016年8月21日から8月24日の会期にて開催されました同学会に参加させて頂きましたので、ご報告申し上げます。開催地であるオーストラリア-ゴールドコストは、クイーンズランド州東南部に位置しており、現地は冬季であるにも関わらず、日中は半袖で過ごすことができる非常に快適な気候でした。名前の通り、どこまでも続く黄金色に輝く砂浜に、日常を忘れ、穏やかな時間を過ごすことができました。
実は私にとって、初めての国外学会であり、自身の発表経験とともに国内外の研究者との交流を深めることができ、非常に有意義な学会となりました。本学会で私が興味を持った演題を紹介させていただきます。

紹介演題 [1]
The role of sphingosine-1-phosphate in infection-induced bone loss (#350)

キーワード

骨芽細胞、破骨細胞

研究グループ

Lan Xiao et al.

  • The Institute of Health and Biomedical Innovation, Queensland University of Technology, Brisbane, Queensland, Australia
サマリー&コメント

本学会において、私が特に注目した演題は、La Xiaoらの報告による、スフィンゴシン1リン酸塩(以下S1P)の感染性骨欠損における役割についてです。
演者らは、S1Pの骨代謝における役割について検討していました。S1P は、スフィンゴ脂質由来の脂質メディエータですが、近年その細胞増殖作用などが徐々に明らかとなり注目され始めています。 S1Pは、その受容体(S1PR)を介する作用のみならず,細胞内でセカンドメッセンジャーとしての作用も有しており、その生理作用は細胞増殖・分化、炎症、免疫、神経機能などの調節と多岐にわたっています。骨と関連した報告として、免疫細胞の集簇と機能を制御する過程、特に破骨細胞形成の重要因子であるRANKLの誘導において、S1PRとの結合を介しての機能が、骨代謝において重要であることが挙げられています。
本演題における演者らの研究目的としては、ヒトおよびラットで、歯牙根尖部の感染性病巣におけるS1PならびにS1PRの発現を調べ、その病態機序におけるこれらの役割を解明することでした。結果の概要は以下の3つです。
[1] S1P1と、S1P1Rの発現は、ヒトの根尖病巣部で増強されており、過剰なRANKLの発現との関連を認めた。[2] S1P1陽性細胞は、ラットの根尖病巣部でも確認され、その数は、14日目で極大を迎え、その後漸減する。S1P1陽性細胞の分布は、RANKL陽性細胞の分布と正の相関を認めた。[3] S1P1のアンタゴニストであり、免疫抑制剤として臨床応用されているFTY720(Fingolimod)によるS1P1の制御は、RANKL発現を抑制し、RANKL/OPGの不均衡を緩和し、炎症性骨破壊を抑制した。
私は歯科口腔外科を専門としておりますが、歯科日常診療において、口腔内の感染のコントロールは非常に困難です。感染の制御は重要ですが、感染によって引き起こされる炎症によって生じる骨吸収を制御することができれば、多くの口腔疾患の進行を制御できる可能性があるのではないかと感じました。

紹介演題 [2]
Direct effects of orexin A and B on bone metabolism in vitro (#334)

キーワード

骨芽細胞、破骨細胞

研究グループ

Young Eun Park et al.

  • Bone and Joint Research Group, Department of Medicine, The University of Auckland, Auckland, New Zealand
サマリー&コメント

本演題は、オレキシンの骨代謝への直接的影響について検討されていました。オレキシンは、1998年に日本で発見された神経ペプチドで視床下部から分泌される神経伝達物質であり、食欲や、睡眠・覚醒を制御することがわかっており、オレキシンの不足はナルコプレシーの原因とされています。2014年に我が国で、オレキシン受容体拮抗薬が不眠症治療薬として認可されたのも記憶に新しいです。2014年に、Weiらが、オレキシン受容体ノックアウトマウスを用いた実験により、オレキシンの中枢性の骨代謝への影響を報告していますが(Orexin regulates bone remodeling via a dominant positive central action and a subordinate negative peripheral action. Cell Metab. 2014;19(6):927-940.)、本演題では、in vitroでオレキシンの骨芽細胞や破骨細胞に対する直接的な影響について調べることが目的とされていました。
実験方法は、ラット初代骨芽細胞を採取し、オレキシンA、Bの存在下で培養し、石灰化への影響を解析し、骨芽細胞におけるオレキシン受容体の存在について、RT-PCRで検討されていました。また、破骨細胞への影響については、多核TRAP陽性細胞の数で評価していました。結果は、オレキシンの直接処理では、骨芽細胞の増殖促進、石灰化の増加傾向を示すも有意差は認めず、この骨芽細胞でのオレキシン受容体の発現も確認できませんでした。ラットの頭蓋骨から分離した骨芽細胞では、オレキシン受容体の発現をわずかに認めていました。破骨細胞分化に関しても影響を認めませんでした。
本演題では、オレキシンの骨芽細胞への直接的な影響は限定的でしたが、このように、異なる分野における既知の物質に関して、骨代謝に関する未知の作用を検討することは非常に興味深く感じました。オレキシンについては、睡眠関連の研究は急速に進んでいますが、骨代謝に関しては報告が少なく、今後さらなる解析が進むことが期待されます。

下出 孟史