日本骨代謝学会

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ANZBMS 2016 レポート
白川 純平(鶴見大学歯学部口腔内科学講座)

白川 純平

以下の4演題を御紹介いたします。他にもポスター発表などで興味深いものがいくつかありましたが今回はオーラルから選ばせていただきました。

紹介演題 [1]
An update on ONJ in oncology (ESA/ANZBMS symposium)

キーワード

ONJ, Risk factor, treatment

著者

Jacques Brown

  • Centre de recherché du CHU de Quebec Canada
サマリー&コメント

先日発表された、ONJにおけるポジションペーパーをもとにカナダにおける現状の報告でした。カナダではBRONJからMRONJとし、ステージ分類、各ステージに対する治療方針、癌患者での(骨関連治療薬使用)発生頻度、ONJを惹起すると考えられるリスク因子についてはポジションペーパーを採用しているとのことでした。新たに、ONJの起炎菌としてアクチノマイセスが主体であるという報告に基づき、抗菌薬の併用が一定の効果を上げているとのことでした。その際選択する抗菌薬としてβラクタム系がよく作用するとのことでした。ONJの発生機序につては、多くの因子が関わっていますが、局所の炎症と感染に対し、骨代謝の低下、及び多剤併用による免疫能の低下が関連しているとのことでした。また口腔内外科処置に関しては、一次閉鎖することが大事とのことでした。

今回、Dr.Brownに直接質問することができましたので、口腔外科医として口腔内の外科処置について尋ねました。

  1. Q:日本ではBP製剤の投与方法(経口か注射か)によって発生頻度が異なるがカナダでは変わらないのか。変わるなら日本との違いは何か。やはり人種の違いか。
  2. A:カナダでは違いがある。原因ははっきりとわからないが、人種の違いもあるかもしれない。
  3. Q:日本では現在口腔外科処置に対して手術前BP製剤の3ヶ月休薬が行われているが、カナダはどうか。また、再開のタイミングは決まっているか。
  4. A:カナダでも同様に3ヶ月の休薬を推奨している。再開のタイミングは炎症所見の消失を確認できてからとしている。
  5. Q:BP製剤の休薬はその薬剤性質上効果がないのと報告が出ているがそれでも休薬は必要だと思うか。
  6. A:それは今後ディスカッションしていかなくてはならないところだ。

と、新しい発見ではないが、口腔外科医として他の国の現状を確認できたことは有益であったと思います。

紹介演題 [2]
Activins as a causative factor in keloid pathogenesis

キーワード

Activin, keloid, CTGF

著者

Seungmin Ham

  • Hudson Institute of Medical Research, Australia
サマリー&コメント

ケロイドは繊維芽細胞の異常増殖が原因で起こる。創傷治癒の過程は複雑でいくつもの因子が関わっており今回注目したアクチビンもその1つだ。アクチビンはTGFβ関連因子の1つであり創傷治癒の際に発現の増加が認められている。過剰発現させると創傷治癒は促進されるが繊維様となる。ケロイドについてはこれまで多くの臨床的特徴が報告されているが、分子メカニズムは解明されていない。今回は人の正常組織とケロイド組織より繊維芽細胞を回収し、in vitroで実験を行った。結果、まず初めにアクチビンには3つのアイソフォームがあるためそれぞれの遺伝子発現とタンパク量を正常組織由来とケロイド組織由来で比較検討した。遺伝子レベルでアクチビンが、タンパクレベルではアクチビンAが増加した。さらに、培養液中のアクチビンA濃度の増加も認めた。一方、アクチビンBや拮抗するフォリスタチンなどの発現に変化は認めなかった。アクチビンAの下流のシグナル経路にあるCTGFも発現の増加がみられたため、アクチビンの拮抗因子である、フォリスタチンを加えるとCTGFの発現が減少した。今後ケロイド治療へのフォリスタチンの有用性が示唆された。

今回Dr.Hamに直接質問することができたので、同様に創傷治癒でレプチンの研究を進める当教室として、いくつか質問をした。

  1. Q:勉強不足で申し訳ないのですがCTGFはどのように繊維芽細胞に作用するのでしょうか?
  2. A:オートクリンによって作用していると考えている。
  3. Q:アクチビンからCTGFに至るまでの他の因子はどのように変化しているのか。
  4. A:あまり多くは調べていない。
  5. Q:実際臨床で使用を開始しているのか。
  6. A:すでに治験を開始するところだ。

と、現在レプチンの治験を検討している当教室と同様の実験経過と考える。今後当教室でも口腔粘膜創傷治癒におけるシグナル経路の解明において遺伝子、タンパク、および培養液内のサイトカインやタンパクの検討も考える必要があると思いました。

紹介演題 [3]
Regulation of mitochondrial transfer and mitophagy in osteocytes

キーワード

Osteocyte, mitochondria, glucocorticoid

著者

Junjie Gao

  • Center for Orthopedic Research, school of Surgery, University of Western Australia
サマリー&コメント

ミトコンドリア機能の維持とエネルギー代謝は哺乳類の細胞にとっては生涯を通じて曝されるストレスに対して適応するために必要不可欠である。しかし、石灰化した骨基質に埋入している骨細胞内での薬物応答、メカニカルストレス応答におけるミトコンドリアの機能については未だ明らかではない。蛍光ライブイメージンングと骨細胞培養株(MLO-Y4)を用いて、樹状突起内のミトコンドリアの遊走能を観察した。さらに頭蓋骨からの初代骨細胞でも同様の観察を行った。
このミトコンドリアの遊走はデキサメタゾン(グルココルチコイド)で妨げられた。このDXによる骨細胞間のミトコンドリア遊走阻害はミトコンドリアの膜電位を減少し、ミトコンドリアの断片化を誘導することで最終的にはミトコンドリアのリサイクルを導く結果となった。この分子経路道程としてミトコンドリアマイクロアレイを施行し、MPK1をコードするDUSP1を、ミトコンドリア機能を調整するDX応答遺伝子として同定した。さらにミトコンドリアの内外膜両方にMPK1の局在を認めた。これがDX投与時に外膜から内膜に転移することを見出した。これに対応して外膜へのPINK1の集積と脱分極が導かれ、結果としてミトコンドリア断片化の誘導とマイトファジーによる傷害したミトコンドリアの除去を導いた。Si-MPK1により発現を抑制したうえでDXを作用させるとDXによりみられた変化が見られなくなった。これまでのデータで骨細胞間での樹状突起を用いたミトコンドリアの遊走を初めて明らかにし、これは骨芽細胞同士がエネルギーを共有していることを示し、オートファジー(マイトファジー)の促進を導くミトコンドリアストレスを誘導するMKP1を介したDXによって障害された。
質問と回答としてはDXの効果に対してはミトコンドリアだけではなくERへの効果も考えているとのことでした。DX投与の結果骨細胞がどのような変化を示すかについては指名していませんでした。

これはストロイド性の骨粗鬆症にこける骨粗鬆症の原因の一つとして考えられるとともに蛍光で細胞小器官の遊走を見るという新しい試みであり大変興味深い技術と知見でした。

紹介演題 [4]
The cold exposure produced by standard housing conditions reducec bone mass in mice through a neuropeptide Y-mediated mechanism

キーワード

Cold stress, NYP, BAT

著者

Natalie K Wee

  • Skeletal Metabolism Garvan Institute of Medical Research, Australia
サマリー&コメント

マウスの恒常的な体温は29℃であり、一般的な飼育環境の22℃は低温ストレスを与えていることになる。この環境が骨にどのような影響を与えるかは明らかではない。NYPが慢性的なストレスへの骨格応答に関与していること及び、寒さに応答する重要な因子であるUCP1に変化がみられることを示した。褐色脂肪細胞におけるUCP1のアップレギュレートは熱の発生を促し、骨量に対して同化に作用する一方、負のエネルギーバランスによりNPYレベルは増加させられ骨に対しては有害に働く。今回、WTとNYP-KOマウスを作成し、29℃と22℃で5~16週まで飼育し比較検討した。熱応力の大きさを示す、エネルギー消費量は22℃で飼育したWT・NYPKOとも29℃で飼育したものより著明に増加した。これと一致して、褐色脂肪細胞内でのUCP1レベルにおいても2~4倍の増加を認めたことから、標準的な飼育環境はエネルギー代謝と熱生成に大きな影響を与えることを示した。エネルギー代謝の増加と一致して、WT・NYPKOともカロリーの摂取量も増加したが体組成に変化は認めなかった。低温で飼育されたWTでは全身および大腿骨でBMC・BMDの減少が認められ、関連して皮質骨量にも減少がみられたが、NPYKOマウスでは温度による変化は認めなかった。大腿骨の海綿骨は、WTでは22℃で減少しNYPKOでも低い程度ではあったが減少した。培養系では骨細胞の活性に温度が影響しなかったことが、定常状態に達していることを示していた。今回温度の変化がNPYの活性が関与する褐色脂肪細胞の活性及び骨量への負の影響とエネルギー消費の著明な増加に関与していることを示した。

今回Dr.Weeに直接質問することができたので、同様にストレスに対する骨芽細胞の応答を研究していたためいくつか質問をした。

  1. Q:結果で示しているデータはベースラインですでに違いがあるように見えるがそれはどういうことなのか。
  2. A:これはすでに実験開始時のものでノーマライズしており変化量を表しているのでベースラインの差は関係ない。
  3. Q:全身的なストレスであるので、全身的な骨吸収・骨形成の指標は検討していないのか。
  4. A:現在はまだ行っていない。
  5. Q:温度感覚刺激が骨形成もしくは骨吸収を調整するメカニズムはどんなものがあるのか。
  6. A:これから検討していく予定である。

これまで自身の研究でもメカニカルストレスを用いた実験を行ってきたが、薬剤もしくは物理的な刺激に着目していたが飼育環境などに着目することはなかったのでとても面白い着眼点だと思いました。