日本骨代謝学会

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Infinite dream

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何事にも「心」をこめて

産業医科大学医学部第1内科学講座 教授 田中 良哉
  • 関節リウマチ
  • 臨床応用
  • 骨代謝疾患
  • 間葉系幹細胞

The Chemical Dynamics of Bone Mineral

「大学院に行って免疫を研究しなさい」
 「大学院を作るから、診療をしながら研究もしなさい。内科が専門ですといえる医者になりなさい。全身を診ることが出来て、一つだけ人より秀でたものがあればよい。それを免疫にしろ。ただし、出世しないかもしれないけど。」
 1984年、当時の産業医科大学第1内科の鈴木秀郎教授のこの一言が、私の人生の転機になりました。前任の東京大学第一内科でも「臨床の神様」といわれていた鈴木先生はとても魅力的でした。内科全般を診療するという東大でのスタイルを産業医大にそのまま持ち込み、免疫、内分泌代謝、血液、消化器、腎の医師が揃っていました。憧れの先生の一言に何の疑問も抱かず、素直に「わかりました」と即答してしまいました。
 さて、1984年に新設の大学院に進学しましたが、「免疫をしろといわれても・・・」と途方に暮れていました。しかし、同年秋にケーラーとミルシュタイン博士がモノクローナル抗体作製法の開発の功績によりノーベル賞を受賞しました。「これだ!臨床に応用できる基礎研究をしよう」と思いました。免疫学の山下優毅先生の門を叩き、自己免疫疾患におけるBリンパ球の役割を研究し始めました。5年後に留学したNIHでもリンパ球の接着分子に対するモノクローナル抗体作成から研究を始め、リンパ球の血管内から組織への遊出機構を解明し、Natureに発表しました。

The Chemical Dynamics of Bone Mineral
Genant教授を囲んで

「骨も研究しなさい」
 「免疫も良いけど、骨の研究をしなさい。高カルシウム血症とも関連づけて、IL-1とも関係すればもっと良い。」
 1993年、リンパ球の研究をやる気満々で産業医大に帰学した時には、江藤澄哉教授が2代目を継承されていました。そこで「骨を研究しなさい」と言われ、再び途方に暮れました。まず、Russellらの方法で手術中に患者から戴いた骨片から骨芽細胞の分離に取り組みました。そこで、骨芽細胞は多様な接着分子を発現して、リンパ球などとべたべたと接着すること、IL-1等で刺激すると接着分子の発現が亢進し、骨芽細胞の形態が変化していき、樹状突起を出すことなどが観察されました。そのような折に、骨研究の師匠である中村利孝先生に出合うことができました。本格的な骨代謝研究が始まったのはそれからでした。
 江藤先生も興味を持って下さり、私を売り出して下さいました。江藤先生から学んだことは昼夜に及び、数多に及びますが、何事にも決して垣根を作らず、良いことは何でも受け入れる、できることは積極的に取り組む、良い結果が出れば売り出すなどの教授としての御姿勢は、今もしっかりと受け継いでいるつもりです。

徹底的に全身を診察する内科医を目指して
 時は流れて2000年、江藤澄哉教授の後任の3代目として産業医大第1内科学教授を拝命しました。現在でも、全身を診る内科医の育成を目指し、免疫疾患、感染症や内分泌疾患、糖尿病・代謝疾患など、全身性内科疾患を中心に幅広く担当しています。例えば、私が専門とする膠原病、リウマチ性疾患の場合、関節や筋肉に加えて、神経、呼吸器疾患、循環器、消化器と多様な臓器障害が出るわけですから、必然的に全身を診る必要があります。
 ここでは、患者の病歴や所見を徹底的に取り、最も大切にするという姿勢を基本としています。診断がつかない時、「もっと検査しなさい」という方が大部分ですが、「徹底的に診察しろ。発熱時に発疹はないか、雑音は聴取できないか」と言います。いずれも当科の伝統を継受しているだけですが、鈴木先生は膨大な知識に基づく証拠や問題点に立脚した診療を平然と普通に、しかも患者本位で実践されていました。そのレベルにはなかなか到達しません。

The Chemical Dynamics of Bone Mineral
産業医科大学医学部

世界に負けないリウマチ診療を目指して
 診療では、膠原病リウマチ内科、内分泌代謝糖尿病内科を担当しています。患者の皆様の立場からの診療の実践を心掛け、専門性の高い難治性内科疾患に対して高度医療を率先して実践してきました。例えば、関節リウマチは、発症早期から関節が進行性に破壊する自己免疫疾患ですが、破壊が進行して普通の暮らしができなくなるのではというのが、患者の皆様の最大の不安です。私達は、抗リウマチ薬を使用しても疾患制御が不十分な方に、積極的に生物学的製剤の導入を行なってきました。しかし、効果的、安全に使用するために、初回導入時や変更時には、全員に短期入院して頂き、副作用の危険性、導入の適応を検討しました。その結果、約2300名に導入し、生物学的製剤は使用実績、治験実績共に全国第1位になりました。また、平成20年度からは厚生労働省の研究代表者として、「関節破壊ゼロを目指す研究(ZERO-J研究)」を実施し、抗リウマチ薬と生物学的製剤を発症早期から適切に使用し、関節破壊を抑止するガイドラインの策定を目指してきました。さらに、生物学的製剤や抗リウマチ薬をいつまでも使用するのではなく、疾患が制御されたならば、如何に適切に減量・中止し得るかを研究し、欧州リウマチ学会賞を受賞しました。平成26年度からは、日本版NIH型研究として「ドラッグホリデーを目指す研究(FREE-J研究)」を実施中です。薬剤を適切に減量・中止できる新規治療戦略が確立されれば、患者負担、医療費削減を含む医療経済的問題の改善に資するものと期待されます。

The Chemical Dynamics of Bone Mineral
(左)第1内科学講座の集合写真、(右)教授回診風景

ベッドサイドからベンチ、ベンチからベッドサイドへの研究を
 研究では、「ベッドサイドからベンチ、ベンチからベッドサイドへ」をモットーに、研究成果を臨床に役立てると同時に、診療で生じた問題点を研究することにも力を入れています。主に、リンパ球のサブセットやシグナル分子を標的とした病態解明と新規治療の開発、間葉系幹細胞を用いた破壊された骨、関節などの組織再生を目指した研究を展開しています。
 関節リウマチで破壊された関節、多様な原因で壊死に陥った骨等は、再生医療が不可欠です。iPSやESは確かに魅力的ですが、臨床応用には幾つかの問題があります。そこで、骨髄、滑膜、脂肪など全身から抽出可能な間葉系幹細胞に着目して研究してきました。ヒト骨髄由来間葉系幹細胞を用いて、骨芽細胞、軟骨細胞への分化誘導機構を研究し、IL-1β-wnt5a/ror2シグナル経路を介する迅速かつ効率的な骨芽細胞・骨細胞への増幅誘導系を確立しました。また、コラーゲン誘導関節炎モデルを用いたin vivo実験から、間葉系幹細胞はナノファイバーをscaffoldとして用いることによって、移植部位への局在性が保たれて骨芽細胞への効率的な分化が誘導されるとともに、TGF-β等の産生が誘導され、免疫抑制作用が発揮された可能性が示されました。以上より、間葉系幹細胞は、骨・関節疾患の局所治療・再生ツールとしての臨床応用の可能性が示唆されました。勿論、斯様な研究成果には、国内外の多くの施設との研究協力・連携が不可欠であり、関係者にはとても感謝しています。
 これまでの努力が評価されて、欧州リウマチ学会では、5年間に当科から3名が基礎医学領域で学会賞を受賞し、世界トップに躍り出ることが出来ました。今後も当科の特徴を生かして分野横断的な病態解明研究に力を入れています。例えば、免疫疾患と代謝疾患を同時に捉えれば、両者の特徴や相違が一層強調されますし、両者の普遍性から新たな発見があるはずです。骨代謝研究は、将にその架け橋です。

何事にも「心」を込めて
 教育、診療、研究など何事にも『心を込めて』臨んできた成果が少しずつ開花してきました。のびのびと元気で楽しい仲間だからできたのだと思います。今後も、教育というのは、臨床と研究の架け橋だということをしっかりと見据えて、それに賛同する若い先生や大学院生とご一緒したいと思います。難病に立ち向かい、世界に負けずに突き進んで行くためには、若い力を結集する必要があります。このような気持ちをお持ちの方は、臨床と研究の双方の門戸を大きく開き、人材を募集しています。これからも「楽しく、美しく、格好良い」講座であり続けるよう努めていきます。