破骨細胞に魅せられて
総合歯科医学研究所・硬組織機能解析学ユニット・教授 高橋 直之
歯学部口腔生化学講座・教授 宇田川 信之
- 破骨細胞
- 骨芽細胞
- 骨細胞
- 骨リモデリング
松本歯科大学硬組織研究グループメンバーと。
研究グループの誕生
2001年9月に、私たちは、昭和大学から松本歯科大学に赴任した。当時、松本歯科大学では、総合歯科医学研究所を基盤に大学院を設立するというプロジェクトが進行しており、それをお手伝いするために赴任した。私たちを誘ってくださったのは、小澤英浩先生(現松本歯科大学名誉教授)である。2003年に大学院歯学独立研究科は開校し、現在180人以上の学位取得者を出すまでに至っている。松本歯科大学は、私たちの赴任に際し、硬組織研究に必要な施設を総合歯科医学研究所内に設置し、研究環境を整備してくれた。また、たくさんの新規教員の採用も可能としてくれた。これらの厚情には心より感謝している。現在、総合歯科医学研究所・硬組織機能解析学ユニットと口腔生化学講座が1つのグループとして研究を行っている。総合歯科医学研究所に所属する小林泰浩准教授、山下照仁准教授、小出雅則講師、溝口利英講師、中道裕子講師、口腔生化学講座に所属する中村美どり准教授、上原俊介講師が私たちの仲間である。
師である須田立雄先生と共に。
破骨細胞が大好きな田中栄教授と破骨細胞を作ったことが無い須田先生
研究テーマと特徴
破骨細胞分化因子(RANKL)の発見後に松本歯科大学に赴任したため、新たな研究テーマを決めることは、大変に重要なことであった。様々な研究課題を考えた末に、私たちは、2つの研究 (1)骨吸収と骨形成の共役機構の解明と、(2)歯周病における骨吸収誘導機構の解明を目指すことにした。OPG(osteoprotegerin)欠損マウスは、骨吸収の亢進とともに骨形成が亢進している。そこで第1の研究では、OPG欠損マウスにビスフォスフォネートを投与し、骨形成を評価した。この研究で、私たちは骨吸収と骨形成は厳格に共役していることを実感した(Endocrinology 144:5441-5449, 2003)。また、第2の研究では、歯周病の病原因子と考えられているLPS (lipopolysaccharide) による骨吸収誘導機序を解析した。骨吸収を誘導するLPS作用において、アダプター分子MyD88が重要な役割を担っていることを明らかにした(J Exp Med 200:601-611, 2004)。これらの研究成果が基盤となり、現在の研究課題が生み出された。 (1)骨代謝を制御するWntの役割の解明、(2)破骨細胞前駆細胞の動態解析、(3)歯周病による歯槽骨吸収機序の解明、および、(4)硬組織の再生を目指した骨カップリング機構の解明、が現在の主な研究テーマである。私たちの研究の特徴として、in vivoでの標的分子の作用の解明を目指していることが挙げられる。そのため、小林泰浩准教授を中心に遺伝子改変マウスの作製も行われている。中村浩彰教授(松本歯科大学第2口腔解剖学講座)の形態系研究グループと共同研究も日常的に行われており、同一研究施設内で骨組織を形態学的に解析できることも大きな特徴である。
硬組織研究ハンドブック
2005年に刊行した硬組織研究用語集。
Journal ClubとResearch Meeting
水曜日と金曜日の朝は早い。私たちは、朝7時30分から一時間ほど学習会を行っている。水曜日は総合歯科医学研究所の抄読会で、主に骨と歯に関する論文が2報紹介される。この抄読会は、形態系の研究者や他講座の研究者も参加しており、総勢20名ほどで行われている。また金曜日には、私たちの研究グループの抄読会と研究打ち合わせを行っている。これらの抄読会を通して、年間120報程の論文を抄読しているだろうか。私たちは、紹介された論文を各自で評価するように心がけている。数多くの論文が出される昨今、それが重要な発見であるか否かを、自ら判別する力を抄読会で鍛えたいと考えている。また、研究打ち合わせ会では、各自の研究結果が報告され、その研究の問題点や方向性が討議される。厳しい意見も出されるが、自分の研究を客観的に評価するよい機会である。
2014年8月1日 「松本ぼんぼん」夏祭りに参加、3時間「猟奇的」に踊った。
「松本歯科大学BoneBone連」高橋直之連長
研究に対する姿勢と希望
研究は山登りにたとえることができる。それなりの準備が必要で苦しい登りもある。しかし、山の頂きに立てば、それまでの苦労も楽しい思い出になるような素晴らしい瞬間がある。疑問に対する納得のいく答が見つかった時や全く新しい考え方に到達したときなど、そういう瞬間だと思う。1つの山の頂きに立てば、次々に新しい疑問の山々が見え隠れする。研究は楽しいものである。論文を読むことも楽しいことである。その楽しさを初学者や大学院生にぜひ伝えたいと行動している。研究グループの仲間には、研究を楽しく語ってもらいたい。大きな発見をすることは重要であるが、この研究グループから明日の骨代謝研究を担うリーダーが育つことは、それにもまして重要であると、私たちは考えている。
2014年8月7日、標高3180メートルの槍ヶ岳(北アルプス)登頂を終えて(左から、高橋直之、宇田川信之)
研究は登山と同じで、楽しく苦しい