日本骨代謝学会

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Infinite dream

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好きこそ物の上手なれ、研究にのめり込もう!

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 細胞生物学分野 小守 壽文
  • Runx2
  • 骨芽細胞
  • 軟骨細胞
  • 骨細胞

臨床と研究の二股生活
私はもともと血液グループの内科医でしたので、はじめは、リンパ球の癌化の実験から始めました。といっても、半年は病棟で研修医を指導しつつ、骨髄移植を中心とした白血病や悪性リンパ腫の治療を行い、残りの半年は外来診療をしながら研究をするといった毎日でした。この研究は3年やりましたが結局うまく行かず、B細胞の免疫グロブリン遺伝子のVDJ recombinationの研究に移りました。今までなかった血液グループの立ち上げに加わったため、臨床は人手も少なく周囲からの風当たりもきつく、非常に過酷な状況でしたので、劣悪な研究環境にも関わらず、研究は非常に楽しく感じられました。こんなことを言うと怒られるかもしれませんが、今でも研究は究極の遊びと思ってやっているのは、この頃の経験からだと思います。

ニューヨークでの危ない生活
こんな生活を8年間続けた頃、イーライリリーの留学奨学金をもらえることになり、臨床スタッフも増えてきたことから、留学することにしました。この頃は、ノックアウトマウスが作られ始めた時期で、Mario Capecchi教授の所に行くか迷いましたが、ノックアウトマウスをいち早く取り入れていたVDJ recombinationの第一人者である、Frederic Alt教授 (Fred) の研究室に行くことにしました。Fredは、コロンビア大学教授からハーバード大学教授になることが決まっていましたが、ハーバード大学への移動が遅れて、私はまずコロンビア大学に行くことになりました。研究に専念できることは、実に楽しい経験でした。自宅のニュージャージー州フォートリーから車でジョージワシントンブリッッジまで行き、そこからバスで橋を渡り、バスターミナルから研究室まで歩いて行きました。帰りはいつも夜中の12時頃になってしまい、ハーレムの中にあるコロンビア大学からバスターミナルまで、全く人気のない通りを走って帰りましたが、何度か危ない目に遭い、10ヶ月後にボストンに移ったときは、ほっとしました。今でも無事に過ごせたことはとても運が良かったと思っています。

ハーバード留学中
ハーバード留学中、隣のベンチのYangと。Yangは、中高を3年、大学を2年で卒業し、この頃まだ20歳位であった。

米国での研究三昧
Fredの研究室では、V (variable), D (diversity), J (joining) segmentが結合するときにN sequenceを挿入する酵素と考えられていたTdT (terminal deoxynucleotidyl transferase )のノックアウトをやりたいと申し出て認められました。しかし、しばらくしてフランスのDiane Mathisのグループがかなり先行しているとの情報が入り、ラボミーティングでやめるべきだという厳しい意見が出ました。Fredは続けてよいということで続行し、最終的にはScienceに一緒に出しましたが、最後は追い越し、投稿を少し待ってあげる余裕もありました。ここで学んだ最大のものは競争の厳しさでした。Fredからのsuggestionはいつも一つYou have to hurryでした。それでも研究生活はとても楽しく、ニューヨークと違って、身の危険も感じることもなく、研究三昧の生活を送りました。留学中に、細胞工学センター教授であった岸本忠三先生が、私の所属する大阪大学医学部第三内科の教授に就任されました。岸本教授とは、ハーバード大学に講演に来られたときに初めてゆっくりお話をしました。早く日本に帰って、日本で仕事をしろと言っていただき、TdTの仕事がまとまった時、米国でもう少し仕事を続けるか迷いましたが、帰国することにしました。新しい研究グループを作って好きなことをやれと言っていただき、ポストも場所も用意していただきました。

Runx2との出会い
日本で何をやるか考えながら帰ってきたのですが、血液をやってきた臨床医としては、やはり白血病の原因を突き止め、それに基づいた治療を目指したいと考え、白血病で最も頻度の高いt(8; 21)転座の21番染色体上に存在するAML1 (Runx1)、やはり高頻度に見られるinv(16)の切断点に存在するCbfb、11q23転座型白血病の原因遺伝子MLLのノックアウトマウスを作製し、その機能を解明することにしました。また、Runxファミリー間の機能重複を考えて、Runx2, Runx3もノックアウトすることにしました。また、米国でやっていたTdTに関連する2種類のノックインマウスもあわせ、計7つのノックアウト(イン)マウスを、医員1人(佐々木君)と大学院生1人(八木君)とともに作製することにしました。これが、転写因子Runx2に行き着いた経緯です。Runx2は、胸腺のT細胞に発現するという報告だけで、まさか骨格形成異常を来すとは夢にも思っていませんでした。Runx2ノックアウトマウスの胎児肝造血や胸腺・脾臓でのリンパ球発生を解析しましたが、特に異常は認めませんでした。Runx1ノックアウトマウスの解析に忙しかったため、その他の組織はノックアウトマウスの解析に精通した米国の病理学者に山ほどのサンプルを1年以上送り続けました。しかし、結局なんの異常も見つけてもらえませんでした。MLL欠損がHox遺伝子の発現に影響し、脊椎骨がhomeotic transformationを起こしていないか調べるためMLLノックアウトマウスの骨格標本を作った時、ついでにRunx2ノックアウトマウスの骨格標本も作製してみました。作製した骨格標本を見て、初めて骨が形成されていないことに気づきました。ここで得られた教訓は、「自分の目でみろ」ということでした。その後は、必ず組織切片を自分の目で見るようにしましたが、そのおかげで組織を見る目はずいぶん養われました。

Runx2ノックアウトマウス
Cell誌の表紙になったRunx2ノックアウトマウス

Runx2の機能
1997年にRunx2ノックアウトマウスをCellに発表しましたが、私は、骨領域は全くの素人で、その頃昭和大学におられた山口朗先生(現在東京医科歯科大学)に共同研究をお願いし、いろいろ教えていただき、大いに勉強させて頂きました。この論文では、Runx2が骨芽細胞分化に必須な転写因子であることを強調しましたが、軟骨細胞の成熟障害があることにも気づいておりました。Runx2が軟骨細胞の後期分化にも必須であるという仮説を証明するために、Runx2は軟骨細胞にも発現しておりRunx2ノックアウトマウスでは軟骨細胞の後期分化がほとんど起こっていないこと (Dev Dyn 214: 279-290, 1999)、Runx2を発現させると軟骨細胞後期分化は進み、Runx2を抑制すると軟骨細胞後期分化が抑制されること (J Biol Chem 275: 8695-8702, 2000)、II型コラーゲンプロモーターを用いたRunx2あるいはdominant-negative Runx2トランスジェニックマウスで、軟骨細胞の後期分化がそれぞれ促進・抑制されること (J Cell Biol 153:87-100, 2001) 等の論文を投稿しましたが、なかなか受け入れてもらえず、それぞれの論文が受理されるまで相当長い時間を要しました。これは、骨芽細胞分化が起こらないために、軟骨細胞後期分化が阻害されるとほとんどの研究者が考えていたからです。この軟骨研究は当時大阪大学歯学部におられた岩本容泰先生(現在フィラデルフィア小児病院)との共同研究で、多くのことを学ばせていただきました。その後、Runx3も一部軟骨細胞後期分化に関わること、Runx2はIhhの発現誘導により軟骨細胞の増殖も促進していることを明らかにしました(Genes Dev 18:952-963, 2004)。

Runx2遺伝子の転写制御
Runx2が骨芽細胞分化、軟骨細胞後期分化の両者に必須な役割を果たすことを明らかにした時、次の疑問はどのようにしてその発現制御が行われているかということでした。Runx2は初め胸腺のT細胞に発現すると報告されましたが、胸腺での発現は非常に弱く、骨芽細胞、軟骨細胞にほぼ特異的に発現します。Runx2は、骨芽細胞を誘導し骨を増やす作用を示しますが、関節軟骨等の永久軟骨に対しては、軟骨を破壊し変形性関節症の原因分子となります。したがって、骨芽細胞、軟骨細胞での発現をそれぞれ制御する機構の解明は非常に重要な課題です。Runx2は2つのプロモーターによって転写されますが、それぞれのプロモーター領域を用いたレポーターマウスでは、骨芽細胞にも軟骨細胞にも発現を誘導することができませんでした。そのため、一度その研究は休止しましたが、長崎大学に移った10年前より再開しました。最近やっとそのメカニズムがわかってきました。Runx2遺伝子の上流に骨芽細胞特異的エンハンサーがあり、それが、Runx2の骨芽細胞での発現を制御していました (J Bone Miner Res, 2014, DOI 10.1002/jbm.2240)。現在は、この研究に注力しています。また、ここでは触れませんでしたが、骨細胞ネットワークの機能解明にも取り組んでいます。

長崎でのストレスフリー生活
当研究室は、移ってきたときは、光も射さない物置のようなところでしたが、ほとんどの物を捨て、壁をぶち抜き、みんなでペンキ塗りをし、見違えるようになりました。長崎の人たちは、おおらかで親切です。不快になるような応対をされることは全くありません。研究室の人たちも同様で、長崎生まれの人は少ないですが、長崎で生活していると皆さん穏やかになる様です。皆さんストレスなく楽しく研究できている様です。また、魚好きの私にとっては、何と言っても長崎の魚は最高です。観光地なので、おいしい店や温泉も多く、宴会や研究室旅行も格別です。

ラボメンバー
研究室の歓送迎会

週末は、大学の職員クラブでテニスをしています。皆さんレベルが高いので、いい刺激になります。今でも少しずつレベルアップしていますし、体力もアップしています。大学からの支援も手厚く、研究環境も申し分ない長崎で、今後も若い人たちと一緒に研究を楽しんで行きたいと思います。

ラボメンバー
左:ハウステンボスで、テニス仲間と。 右:飲み会でテニス帽をプレゼントされて。

研究所住所

〒852-8588
長崎市坂本1-7-1
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 生命医科学講座 細胞生物学分野
TEL: 095-819-7630 FAX: 095-819-7633
Email: komorit@nagasaki-u.ac.jp
HP: http://www.de.nagasaki-u.ac.jp/dokuji/kaibou-2/index.html