日本骨代謝学会

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科学ではなく、医科学-自分なりの骨軟骨代謝学

理化学研究所 統合生命医科学研究センター 骨関節疾患研究チーム 池川 志郎
  • ゲノム
  • 疾患
  • 疾患遺伝子

これまでの研究
Where I was.--職業人生のスタートは医者でした。東京大学の整形外科に入局し、10年間の医局員としての研修を終え、関連病院の小児整形外科の専門病院(日本で一番大きな心身障害児の病院)で医長として働く傍ら、大学病院の骨系統疾患(骨関節の遺伝病)の専門外来のチーフをやっていました。計12年間、手術に明け暮れる毎日だったのですが、ふとしたきっかけから、1年間、癌研の生化学部の中村祐輔先生の所で研究生として勉強することになりました。1年が終わろうとする頃、元の病院に戻る準備をしていたら、中村先生に、『自分は東大医科研のゲノムセンターの教授になった。助手にするから、研究を続けないか』とのお誘いを受けました。医局の反対を押して1年間勉強させてくれた前の病院には義理が有ったので、一度、病院に戻り、患者さんや専門外来の引き継ぎを終えた後、研究生活に入りました。5年ほど医科研の助手をやった後、独立しました。テーマとしては、研究生の時代からずっと、骨関節疾患のゲノム研究を続けています。学位は癌研の研究生時代に書いた論文のうちの2つを一つにまとめて東大に出して、審査員の前で40分ほどプレゼンしたら、貰えました。卒業生には寛容な大学のようです。

What I am. --自分は科学者ではないですね。理化学研究所という研究(に特化した)施設で、生命科学を研究してい(ることになってい)ますが、生命の基本原理、発生・進化の機構の不思議といった高尚な事には、『世界最速のコンピューター』や『110ウン番目の新たな元素』と同じくらい基本的に興味がありません。せいぜい、『医科学者』 ですかね。元医者ですので、患者さんに還元しうる研究を常に意識しています。自分にとって科学は医学のための手段。患者さんに現実に起こっている疾患という事象、症状・表現型という現象を出発点に、ゲノムから疾患遺伝子へ、遺伝子から分子病態へとアプローチし、治療に繋がる発見が出来ればと思っています。そして、その過程で、科学に、骨軟骨代謝学に貢献できれば嬉しい。もちろん、多くの『科学者』と同様に『発見の喜び』、は知っているつもりです。病気の遺伝子を発見したという事実は、人類の歴史が続く限り、残るでしょうから。自分のささやかな発見を、心の底から共に喜んでくれる人がいる医科学は、素晴らしい分野で、それを職業に出来たのは、幸運だったと思っています。

今取り組んでいる仕事、教室
What I am doing.--骨、関節の遺伝病の原因遺伝子を探しています。遺伝子ハンティング。様々なゲノム解析の手法を駆使して、遺伝子をみつける。発見した遺伝子、遺伝子変異の機能解析を行い、疾患の分子病態を解明するーという筋道で研究しています。

遺伝病には、ひとつの遺伝子(疾患遺伝子)の変異によって起こる単一遺伝子病と複数の遺伝的要因(疾患感受性遺伝子)と環境因子の相互的・総合的な作用によって起こる多因子遺伝病があります。骨・軟骨をはじめ骨格を構成するあらゆる組織の遺伝病を扱っています。骨関節疾患のゲノム研究のデパート。いささか傲慢ですが、骨関節の単一遺伝子病と多因子遺伝病の両方をやって(成果をだして)いるのは、自分の所だけと自負しています。実際、骨・関節関連の学会や軟骨や細胞外マトリックスのGordonに呼ばれて行っても、両方きちんとやっている所をみたことがありません。目下、単一遺伝子病については次世代シーケンサーを用いた全エキソームシーケンスを、多因子遺伝病についてはGWAS(genome-wide association study)を中心に研究しています。これまでに、単一遺伝子病の疾患遺伝子を17疾患で、多因子遺伝病の疾患感受性遺伝子を6疾患でみつけています(http://www.riken.jp/lab-www/OA-team/)。

How we are.--ラボは、目下、研究スタッフ4人(日本人3人、中国人1人)、研究生/研究生(博士号をとりにきたお医者さん)2人、研究補助スタッフ5人の零細企業です。2000年のラボの立ち上げ時には、学位(博士号)を持っているのは私だけでした。3人いる日本人研究者は、化学、薬学、衛生学が専攻で、2人は、私のラボでの仕事で博士号を取りました。全員、よそをクビになったり、企業を辞めて最初は、研究補助スタッフをやっていた『バツイチ』組で、『再生工場』と言われています。

ラボメンバー
ラボの集合写真。研究補助スタッフは美人揃い。在職期間は10.5(8-14)年。人の出入りの少ないラボです。

骨の病気の遺伝子を取ってみたい人は、お気軽に相談してみて下さい。創設時は、月—土は9-21時、祝日は関係無しのhard workingラボでしたが、今は、平日9-19時、土曜は12時までの、普通のラボです。

趣味
ラグビー。趣味と言うか、少なくとも15-23歳は人生のほとんどすべてでした[図2]。研究生—助手時代は、土日祝日なし、週100時間はラボにいる生活だったので、中断していましたが、未だに(辞めれずに・・)やっています[図3]。自慢すると点取り屋で、対抗戦グループという関東の大学の1部リーグで、10トライ(注:ラグビーの得点の仕方)しています。慶應大学との試合で、自陣ゴール前で相手のパスをインターセプトして、100 m近く走りきってトライした事もあります(逃げ足は速い)。

人生の一部とも言えるラグビー
Rugby is my life.
[上:図3]大学4年時。早稲田大学との対抗戦。秩父宮ラグビー場にて。もうちょっとでトライだったんだけど・・
[下:図4]30年後。同じく秩父宮ラグビー場で。この時は走りきった!でも観客がいない…

次世代へのメッセージ
人生はラグビーボール。誰もすぐ先の事も分からない。ころころと不規則に転がりながら、その時その時を大切に生きていくしかないですね。50も半ばを過ぎると、やはり人生は一度なんだと痛感します。できれば、お金や目先の楽しみに逃げ込まずに(まあ、それも人生ですが)、自分にしかできないことに挑戦してみて下さい。それは研究でなくても別にいいのですが、それが医学研究なら、素晴らしい人生だと自分は思います。真理の探究をしながら、人(患者さん達)の喜ぶ顔が見れるんですから。笑顔の患者さん達と過ごす時間は、今でも自分の大きな研究への駆動力になっています。

ヘルシー・ソサエテイ賞の授賞式で
骨形成不全症の患者さん達と。第7回ヘルシー・ソサエテイ賞の授賞式で。
池川の左、車椅子に乗っているのが、受賞者(青年部門)の河村進吾君(遺伝病の患者さんへのボランテイア活動により受賞)。大学院時代に私のラボのnetやwebの管理をやってくれた私のパソコンの先生。右は脚本家の小山内美江子さん。

研究所住所

〒108-8639
東京都港区白金台4-6-1
理化学研究所 統合生命医科学研究センター 骨関節疾患研究チーム
Email: sikegawa@ims.u-tokyo.ac.jp
HP: http://www.riken.jp/research/labs/ims/bone_joint_dis/