日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

Infinite dream

TOP > Infinite dream > 吉川 秀樹

骨形成の謎に迫る!骨肉腫研究から骨再生医療へ!

大阪大学大学院医学系研究科 整形外科学教室 吉川 秀樹
  • 骨肉腫
  • 骨形成蛋白(BMP)
  • 骨再生医療

私は、1979年に、大阪大学医学部を卒業後、大阪大学整形外科(小野啓郎教授)の大学院に入学しました。少年時代から、橈骨骨折など骨折を3回経験していたため、医学部の頃から骨折治癒、骨形成に興味がありました。1965年、UCLAのUristが、脱灰骨基質が異所性骨形成を誘導することを発見し、骨再生を惹起できる物質(bone morphogenetic protein, BMP)が存在することが示唆されていました(Science, 1965)。私が大学院に入学した当時、恩師の高岡邦夫先生が、マウスDunn骨肉腫より、4M塩酸グアニジンにより、骨形成蛋白(BMP)(当時、osteogenic factor)の可溶化に世界で初めて成功し、論文執筆中でした(Clin Orthop, 1980)。その後、Uristらは骨基質から、大阪大学ではDunn骨肉腫から、BMPの抽出・精製を試みました。我々は、大阪大学癌研究所の生化学教室で、可溶化したBMPを実験材料に、マウス骨肉腫由来BMPの精製を行いながら、その安定性や溶解性などの生化学的特性を明らかにしました。BMPは、4M塩酸グアニジンの他、8M尿素、弱酸、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS) などに可溶性で、かつ骨誘導活性が失活しない、極めて安定な蛋白であることがわかりました。世界中でBMPの精製の競争が繰り広げられました。1989年に、Genetics InstituteのWozneyらが、ウシ骨基質からBMP-1~4の遺伝子のクローニングに成功し(Science, 1989)、その後、我々は、1993年に、マウスBMP-4の遺伝子を単離し、同一の物質であることを知りました。遅れを取り、大変残念ではありましたが、長年のBMP精製過程から得られた多くの知見は、後の骨形成機序の解明、人工骨を用いた骨再生研究に応用することができました。すなわち、BMP-4 遺伝子や合成ヒトBMP(rhBMP-2)を用いて、異所性骨形成実験、BMPの担体の開発、BMPによる骨形成を促進/阻害する薬剤の同定、骨折治癒や各種疾患(骨肉腫、靭帯骨化症、変形性関節症など)におけるBMPの発現、BMP遺伝子改変マウスによる骨形成機序の解析などを行うことできました。これらの一連の骨代謝研究が評価され、1995年に、日本骨代謝学会学術賞を受賞しました。また、骨肉腫のBMPを研究していたことから、臨床では、骨軟部腫瘍外科を専門にすることになり、1999年より、大阪大学整形外科を主催することになりました。以後、BMP研究を軸に、一連の骨・軟骨代謝研究を、教室を挙げて継続してきました。ここに、その主な研究成果を紹介します。

カンサス大学留学中
1985年 カンサス大学留学中(Anderson教授と)

BMPを用いた骨形成の評価モデル
ペプシン消化コラーゲンを単体としたrhBMP-2のマウス、ラット筋膜下への移植により、均一かつ再現性よく異所性骨の誘導が可能です。この評価モデルを用いて、種々のサイトカイン(TNF-αなど)、ホルモン(エストロゲン、ビタミンD、PTHなど)、低分子化合物(EHDP, TNP-470, T-614, Rho kinase inhibitorなど)の骨形成に及ぼす効果判定を行いました。EHDPによる石灰化の阻害、TNF-αによる骨形成の阻害、 T-614やRho kinase inhibitorによる骨形成の促進を明らかにしました。また、本実験モデルを用いることにより、種々の骨疾患モデルマウスや遺伝子改変マウスにおける骨形成機序の解析が可能となりました。低リン血症マウス(Hyp)では、類骨のみが形成され、カルポニン遺伝子欠失マウスでは、骨形成が更新したことから、カルポニンが、骨形成のnegative regulatorであることを明らかにしました。以下が、出版業績です。
TNF-α (Bone, 1988), estradiol (Bone, 1991), PTH/estradiol (Osteoporosis Int, 1993), TNP-470 (Bone, 1998), EHDP (Bone, 1986, 1990), T-614 (BBRC, 2002), Hyp mouse (Bone, 1985), Calponin knockout mouse (Genes Cells, 1998), Rho kinase inhibitor (Y-27632) (Clin Orthop, 2009)

ヒト骨肉腫による骨誘導現象を発見
ヒト骨肉腫による骨誘導現象を発見(Yoshikawa et al. Cancer, 1985)

整形外科疾患におけるBMP遺伝子、BMP蛋白の発現と意義
ヒト骨肉腫にBMPが存在することを初めて明らかにしました。骨肉腫では、BMPは、未分化な間葉系細胞及び未熟な骨芽細胞の細胞質に局在し、分化した骨・軟骨細胞、類骨・骨などの基質には存在しないことを明らかにしました。BMP産生型骨肉腫はスピクラなどの反応性骨形成の頻度が高いこと、肺転移の頻度が高く予後不良であることを明らかにしました(Cancer, 1985, 1988, 1994)。良性骨腫瘍では、類骨骨腫などの未熟な骨芽細胞、骨軟骨腫の軟骨帽周辺の未分化な紡錘型細胞に発現を認めました(J Orthop Sci, 2004)。一方、骨折治癒過程におけるBMP-4遺伝子の発現を検討し、骨膜や周辺組織に発現するBMP-4が骨折治癒の初期に重要な役割を果していることを示しました(JBMR, 1994)。また、変形性関節症の骨棘におけるBMP-4遺伝子の発現を検討し、病態との関連を示しました(JBMM, 2006)。また、脊柱靭帯近傍へのBMP移植により靭帯骨化症類似の靭帯骨化が生じることを証明しました(J Bone Joint Surg, 1993)。

米国整形外科学・ダボス国際骨代謝会議
上:1986年 米国整形外科学 (AAOS)(BMP産生型骨肉腫の臨床像を発表)
下:1989年 ダボス国際骨代謝会議(高岡邦夫先生と昼食)

内軟骨性骨化における転写制御機構とBMPシグナルの解析
妻木範行が中心となり、軟骨特異的遺伝子転写性制御機構の解明、遺伝子改変マウスを用いた内軟骨性骨化におけるBMPシグナルの役割の解析を行いました。BMPシグナルを骨・軟骨特異的に操作した遺伝子改変マウスを多数作製し解析しました(JCB,1999, JBMR, 2002, JCB, 2004, JBC, 2008) 。一連の研究により、軟骨形成・分化におけるBMPシグナルの複雑な作用が明らかにされました。またBMPは軟骨細胞、骨芽細胞だけでなく、破骨細胞にも作用し、骨形成とリモデリングを調節し、強い骨を作ることにかかわっていることを明らかにしました(JBMR, 2006)。最近の研究では、軟骨再生医療を目指し、マウス皮膚線維芽細胞から軟骨細胞の直接誘導に成功しました。Klf4, c-Myc, Sox9の3遺伝子を導入することにより、軟骨細胞前駆細胞を誘導できることを発見しました(J Clin Invest, 2011, PLos One, 2013)。

現在の整形外科 生化学研究室
現在の整形外科 生化学研究室(中央が筆者)

骨再生のための人工骨の開発と臨床応用
 1998年より、骨再生のための新規人工骨の開発に着手し、力学的強度を有し、気孔間連通構造を有する新規ハイドロキシアパタイトを開発しました (J Biomed Mater Res, 2002)。新技術である『起泡ゲル化技術』により、ハイドロキシアパタイトに規則正しい三次元連通気孔構造を有しており、骨の細胞や血管が容易に侵入すること可能で、動物実験において、骨髄間葉系細胞やBMPの導入により、良好な骨再生を示しました(Tissue Eng, 2004, Cell Transplant, 2004, Biomaterials, 2005, Osteoarthritis Cartilage, 2005, J Biomed Mater Res, 2006, J Artif Organs, 2005)。2003年9月、厚生労働省の薬事認可を得て、NEOBONEの商品化に成功しました。すでに1万人以上の患者さんに使用され、良好な成績を示しています(Mod Rheumatol, 2009, J Orthop Sci, 2010)。これらの成果が評価され、平成20年度、日本バイオマテリアル学会賞を受賞しました。
大阪大学整形外科では、臨床面では、医学部附属病院において運動器の外科的治療全般を行っていますが、研究面では、現在、1)バイオマテリアル(医工連携による人工関節、人工骨、人工腱・靭帯・半月板)の開発、2)コンピューター支援手術(ロボティックス手術、ナビゲーション手術)の開発、3)骨・軟骨形成機序の分子生物学的解析、4) 骨・軟骨再生医療の開発、5)骨軟部腫瘍の遺伝子・ゲノム解析、6) 関節リウマチの遺伝子・核酸治療、7)骨転移機序の解明、転移抑制法の開発などを行っています。基礎研究は、臨床から課題を抽出し、それを基礎研究で解明し、臨床へ還元するという研究姿勢で行っております。すなわち、基礎研究も臨床応用を目指すものに限って実施しており、単に論文を書くためだけの「研究のための研究」は行っておりません。今後も、骨代謝学領域でのトップランナーであることを目指して、教室員一丸となって努力していきたいと思っています。

研究所住所

〒565-0871
吹田市山田丘2-2
大阪大学医学系研究科 器官制御外科学(整形外科)
Email: hisho@ort.med.osaka-u.ac.jp
HP: http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/ort/www/